平成24年度室蘭工業大学入学宣誓式 告辞

 本日ここに、ご来賓ならびに名誉教授のご臨席のもと、平成24年度入学宣誓式を行いますことは、室蘭工業大学すべての教職員、学生の慶びとするところであります。本年度入学された方は、工学部学士課程の662名、大学院博士前期課程が219名、博士後期課程の8名、合計889名のみなさんです。この中には外国人留学生が学部に9名、大学院に17名、合わせて26名含まれております。また学部入学者662名中、女子学生は71名、率にして11%、日本人学生の出身地は35都道府県に及びます。

 新入生のみなさん、入学おめでとうございます。またこれまで勉学の環境を整え、本人たちの努力を支えてこられたご家族ならびに関係者の方々にも心から敬意とお祝いを申し上げます。

 

 学部に入学・編入学されたみなさん、そして大学院に進学・入学されたみなさんは、それぞれ将来への希望を抱いて本学に来られました。室蘭工業大学は、みなさん一人ひとりの夢、希望、想いをしっかり受け止め、みなさんの多様な才能が開花するよう、教育と研究指導に力を注いでまいります。今日はその最初の日となりますので、私からみなさんへの期待を述べさせていただきます。

 

 昨年10月末に、福島第一原発から漏れる放射性物質の拡散を防ぐために、1号機建屋を覆うカバーとフィルター付き換気装置の取り付け工事が完了したとの報道がありました。毎時4万m³の空気を換気することによって、放射性物質の濃度を10分の1に低減するというねらいです。これは今年に入ってから測定で実証されました。

 縦・横が47mと42m、高さが54mというこの大きなカバーは鉄骨とポリエステル繊維でできており、62個のパーツがボルトなしで組み立てられました。当初の案では6千人ほどの作業員が建設現場に上り、ボルト2万本で締め上げるという大掛かりのものでした。しかし高い放射線量の現場には近づけないという理由で方法を変えることになり、代替案として採用されたのがさきほどの設計と工法です。

 この設計には釘を使わない日本の木造建築の技術が応用され、建屋から数10m離れたところに設置した超大型クレーン2台をまるで両手のように操りながら組み立てが行われました。工期的には失敗が許されないので、別な場所で全組立工程を一度実験してからの本工事でした。工事には4ヶ月を要しました。

 この工事をやや詳細に紹介したのは、ここにはみなさんが将来携わるであろう、現実の社会における技術の課題や開発の典型が見られるからです。つくるべき対象は明確、あるいは課題は定義されたにもかかわらず、既存の方法では解決ができない、そこで新たなアイディアや技術の開発が必要となる、というシナリオが最もよく実際の社会には見られます。ときには、課題がうまく設定できない難問さえあります。みなさんが将来携わる問題は、さきほどの工事の例が示すように、本質的に未知の要素をはらんでいると考えて差し支えありません。それでは未知との遭遇に向けてみなさんは大学在学中にどのように技術者、研究者としての準備をすればよいのでしょうか。

 

 再びさきほどの工事に戻ります。最も重要なアイディアは釘を使わない日本の木造建築技術。次いで注目されるのは構造物の材料。そして人間が近づけない環境でも組み立て作業が可能な巨大なロボットアーム。建築学をメインに材料工学、機械工学をもフルに動員した総合的な工学、技術の姿が浮かび上がってきます。アイディアの秘密を問われた設計者の印藤正裕さんは「手を動かすこと。」そして「模型作りが趣味です。」と答えております。ちなみに印藤さんは建設会社で30年にわたり数々の設計を手がけ、特許取得も10件ほどの方。単なる科学技術の知識や経験だけではなく、自分の趣味まで動員しています。

 

 イギリスのヴィクトリア朝で活躍した哲学者にして経済学者のジョン・スチュアート・ミルはセント・アンドルーズ大学の名誉学長に就任したときの演説の中で、大学教育への期待として次のような趣旨のことを述べております。

 「人間が知らなければならない事柄は、世代が代わるごとにいまだかってなかった速さで増加しており、科学・技術はすべて細分化されている。各人が完全に知る領域と有用な知識の領域の関係は、あたかも特定分野の技術と全産業の技術の関係に譬えられる。しかし、一つの学問あるいは研究に没頭し、他の学問あるいは研究をすべて排除するならば、人間の精神を偏狭にし、視野の狭い専門家となることを免れえないことは、すでに経験よって知るところである。一つの事柄あるいは数種の事柄についての詳細な知識を多種の事柄の一般的知識と結合させることによって、人間が獲得しうる知性は最高となる。」

 この演説は今から145年前に行われたとは思えない、真実を衝いています。ミルが唱えた大学教育における幅広い教養と深い専門知識の重要性は、のちに

 To know something of everything and everything of something

 「すべてのことについて何事かを知り、何事かについてすべてを知る」

と置き換えられ、今日に伝えられております。

 

 ミルの時代から1世紀半、科学・技術はますます加速し、分野の細分化も衰えをみせません。全分野の知識の森を眺望に収めることはとてもかないません。しかし、みなさんが興味を持った分野を深く探索することと、他の分野について一般的な理解を持つことは両立します。大学院においてもこれは可能ですし、むしろ俯瞰的なものの見方やコミュニケーション力をつけるには必須とさえ言えます。さきほど紹介した福島第一原発の建屋カバーが設計から竣工までこぎつけたのも、建築学に関する深い専門知識に加え、材料工学や機械工学など、関連分野の一般的な理解があってのことだと私は確信します。さらに加えるべきはこの工事への社会からの期待、作業者の放射線被害からの保護など、人道的・公共的な要請を真正面から受け止めて行われたであろうことです。

 

 室蘭工業大学は、学生一人ひとりの多様な才能を伸ばし、幅広い教養と国際性、深い専門知識と創造性を養う教育を行います。

 室蘭工業大学は、総合的な理工学に基づく教育を展開し、未来をひらく創造的な技術者、研究者を育成します。

 

 みなさんも気づいていると思いますが、最近日本は少し元気がありません。高齢化も急速に進んでおります。昨年の東日本大震災でさらに手痛い打撃もありました。だからこそでしょうか、科学や技術に対する社会からの期待も大きいものがあります。みなさんが社会の第一線で活躍する日をみなさんのご家族はもとより、経済界、産業界、そして地域社会が待ち望んでおります。そのために、みなさんには今日のこの日から技術者として、研究者としての歩みを開始してほしいと思います。

 

 結びに当たり、再びさきほどの演説の中でのミルの言葉を贈ります。

 「一生を通じて人間の知性が最も活発に働き続けるのは、真理を探究するときである。」

 室蘭工業大学で真理を探究する中で、みなさんの知性が輝きを増し、才能が花開くことを祈念して、入学宣誓式における告辞といたします。

 

                              平成24年4月4日

                               室蘭工業大学学長 佐藤 一彦

 

 

更新年月日:2012年4月10日

作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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