平成24年度学位記授与式 告辞

 春分を過ぎること2日の本日、ご来賓ならびに名誉教授のご臨席のもと、学部卒業生、大学院修了生およびご家族、ご親戚のみなさまとともに平成24年度学位記授与式を行いますことは、室蘭工業大学にとりまことに慶ばしく、ご列席のみなさまとともにこの喜びを分かち合いたいと存じます。

 本日、晴れて学部を卒業し学士(工学)の学位を得られた方は608名、大学院博士前期課程を修了し修士(工学)の学位を取得された方は215名、また大学院博士後期課程を修了し博士(工学)の学位を授与された方は論文博士も含め10名おります。また卒業生・修了生の中には外国人留学生が15名おります。

 これら833名のみなさんに、学位の取得ならびに卒業・修了を心からお祝い申し上げます。またみなさんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族ならびに関係者の方々に敬意とご祝辞を申し上げます。

 また本年度の蘭岳賞を受賞された方々、ならびに室蘭工業大学大坪賞、関係の学協会から表彰されたみなさんには、その栄誉を讃えお祝いを申し上げます。

 さて本日は学位記授与式に当たり、みなさんがこれから赴く今日の社会と近い将来の社会について少し想いをめぐらしてみたいと思います。

 

 1990年代の初頭、ベルリンの壁の崩壊を幕開けにして、世界の経済は地球規模の市場に統合され、東西の政治的冷戦から、地球規模の経済的熱戦に移行しました。高速大量輸送の物流網が世界に張り巡らされ、インターネットにより情報通信のネットワークが世界を覆い、人と商品と情報が史上なかった規模と速さで行き交うようになりました。グローバル社会の出現です。

 経済産業省と外務省が毎年行っている基本調査によれば、日本から海外に進出した現地法人と永住もしくは長期滞在者は、1990年にはおよそ8,000社と45万人でした。その後の20年間でその数は18,600社と114万人へと増加しています。最近の20年間で法人の海外進出は2.3倍、日本人の滞在者は2.5倍とたいへんな勢いの増え方です。またこれらの法人の企業活動は、2010年には、現地で499万人の雇用を生み出し、その売上高は183兆円にも達しています。これがわが国にとっての経済活動におけるグローバル社会の現実です。

 

 経済のグローバル化とともにもう一つの世界的潮流は、知識・情報・技術が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として、飛躍的に重要性を増してきていることです。これは1996年にOECD(経済協力開発機構)が先進諸国の経済社会の特徴として指摘したのが始まりで、それ以来、知識基盤社会と呼ばれるようになりました。学術的成果をいかに達成するか、またそれを経済的・社会的な価値にいかに結びつけるか、発見と発明、そしてそれに続くイノベーションをいかに導くか、これらが現在のそして近い将来における世界各国の重大な関心事になっています。

 

 それでは、グローバル社会、知識基盤社会にあって、みなさんに求められることは何でしょうか。この問いには、幾通りもの、おそらく一人ひとり異なる考えがあると思います。ここでは私なりの考えを述べ、みなさんの参考にしていただければと思います。

 結論から言うと、それは「自立」、「協働」、「創造」ではないかと、私は考えます。行動分析学の創始者である米国のB. F. スキナーが提唱したABCモデルに引き寄せますと、「自立」が先行条件(Antecedence)、「協働」が行動(Behavior)、そして「創造」が達成したい結果(Consequence)に相当します。

 

 そこで最初は「自立」です。グローバル社会、知識基盤社会で求められるのは、他の何人にも解消されない自分らしさ、日本人としてのアイデンティティ、良い意味での自分へのこだわり、ではないでしょうか。

 英国のBBCが毎年行っている「世界に良い影響を与えている国」という世界世論調査があります。22カ国の協力を得て、17の国と地域を対象とした調査で、日本は昨年第1位に選ばれました。同様の国家ブランド調査を行っているGfKローパー広報&メディア社の調査結果でも、日本はテクノロジー、観光、伝統文化で最高得点をあげています。日本への高い好感は欧米のみではありません。サウジアラビアでは、入念な現地取材を経て製作し、30回にわたり放映された日本特集のテレビ番組を観た同国のジャーナリストが次のように述べています。「この国(サウジアラビア)では多くの人が、イスラムこそ最高の宗教と思っている。でもコーランが説く誠実さ、清潔さといった価値観をどの国よりも体現しているのが、イスラムとは無縁の日本だった。」

 グローバル社会で大切なことは、自国の歴史や伝統、学問・芸術・文化、そして日常生活の中に息づいている社会的美風を再認識し、それを異なる文化的・言語的背景をもった人びとに発信することだと、私は思います。

 みなさんは、大学での学びを通じて、幅広い教養と深い専門知識を修得しただけではありません。厳しい練磨を通じて自己を確立し、自らに課した規範に則って自分を律することも学びました。こうしてみなさんはグローバル社会を生きる先行条件である「自立」の要件を備えているものと、私は確信します。

 

 次は「協働」です。卓抜したアイディアと斬新なデザイン、そしてユーザーに愛着を感じさせるヒット商品を次々世に送り出しているアップル社の基本的なコンセプトは、創業者のステーブ・ジョブズにより、優れたテクノロジーとリベラル・アーツの結合、エンジニアとデザイナーの協働に置かれたことが知られています。異分野間の交流、異なる専門家の「協働」は、組織内でも、組織間でも、国境を越えた個人や集団、組織や機関の間でも、ますます日常的になり、それが新しいアイディアや技術、商品やサービスを生み出し、未来を切り開く「創造」の源泉となっていることが観察できます。

 「自立」した多様な個人は「創造」の前提であり、「協働」は「創造」の果実を育むための、心と力を合わせたグループ・ワークとして要の位置を占めます。

 みなさんは、大学での学びを通じて、グループ・ワークが機能するための条件やその効果、個人とグループの間に働く作用や反作用、総じて「協働」が創造の源泉となり、未来をも創造していくことを体験されたと思います。その成功体験を実在の世界、リアル・ワールドでぜひ活かしてほしいと思います。

 

 ここまでの話で、「創造」についてはこれ以上述べる必要はないと思います。

「自立」と「協働」の帰結が「創造」です。みなさんは「協働」の場として研究室を選び、指導教員や学友、先輩と苦楽をともにしながら、研究成果、つまり「創造」の果実を、卒業論文や修士論文、博士論文としてまとめました。「創造」にまつわる困難、それをなし遂げたときの喜び、振り返ったときの自分の成長、そして得られた知的財産、これらはみなさん固有の価値ある資産のリストに加わります。存分に有効活用していただきたいと思います。

 

 結びに当たり、みなさんが夢と希望を抱いて出発することを願い、マーク・トウェインの言葉をエールとして贈ります。

 

 「今から20年後、人はやったことよりやらなかったことを悔いるものだ。

だから綱を放ち、安全な港を出、帆を揚げ、風をとらえて探検せよ。夢見よ。発見せよ。」

  Twenty years from now you will be more disappointed by the things

you didn’t do than by the ones you did.

 So throw off the bowlines away from the safe harbor.

 Catch the trade winds in your sails. Explore. Dream. Discover.

 

                              平成25年3月22日

                               室蘭工業大学学長 佐藤 一彦

 

 

更新年月日:2013年3月26日

作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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