平成26年度室蘭工業大学入学宣誓式 告辞

 北国ではまだ早春とよぶに相応しい本日、ご来賓ならびに名誉教授の諸先生のご臨席のもと、平成26年度入学宣誓式を行いますことは、室蘭工業大学すべての教職員、学生にとって大きな慶びであります。本年度入学者は、工学部学士課程の687名、大学院博士前期課程が204名、博士後期課程の15名、合わせて906名のみなさんです。この中には海外からの留学生が学部に22名、大学院に17名、合わせて39名含まれております。また学部入学者687名中、女子学生は81名、率にして11.8%、日本人学生の出身地は36都道府県に及びます。

 新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。また長い歳月にわたり勉学の環境を整えられ、本人たちの努力を支えてこられたご家族ならび関係者の方々にも、心から敬意とお祝辞を申し上げます。

 さて入学宣誓式の本日は、大学在学中にどのようなことを心がけるべきかについて、新入生のみなさんに私からの期待を述べてみたいと思います。

 

 内閣府が毎年、全国から統計的に選ばれた数千人の人を対象に「国民生活に関する世論調査」を行っております。この調査では今後の生活に関して「これからは心の豊かさか、まだ物の豊かさか」についての問いがあります。「これからは心の豊かさやゆとりのある生活に重きをおきたい」と答えた人の割合が、「まだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」と答えた人の割合を初めて超えたのが、今から35年前のことでした。それ以来、物の豊かさより心の豊かさを求める人の割合は年々増え続け、最新の調査ではこの割合は61.8%にまでなりました。

 この調査が示すように、いま多くの国民が望む社会は、ノーベル物理学賞を受賞したデニス・ガボールが新しい文明の選択として提唱した「成熟社会」(The Mature Society)と重なり合います。ガボールはその著書の中で、成熟社会を「これまでの物質万能主義を排して、ひたすら量的拡大のみを追い求める経済成長や大量消費社会のかわりに、高水準の物質文明と共存しつつも、精神的な豊かさや生活の質の向上を最優先させるような平和で自由な社会」と特徴づけております。

 ところで経済的な豊かさは、例えば国内総生産(GDP)といった指標である程度測ることができますが、心の豊かさや生活の質、自然の豊かさを測る指標を見出すことは経済学にとっても行政にとっても難しい課題でした。そこで私が今日みなさんに紹介したいのは、「包括的豊かさ指数」(IWI : Inclusive Welfare Index)というちょっと聞きなれない指標です。この新顔の指標は、国連大学を中心とする国際プログラム「地球環境変化の人間・社会的側面に関する研究計画」がリオ+20会議(2012年開催)で発表した「包括的豊かさに関する 2012年度報告書」で提案されました。新指標は国の豊かさを表すのに一国の資産に注目し、これを「物的資産」「人的資産」「自然資産」の総和で表そうという試みです。これらの資産はそれぞれ「物の豊かさ」「心の豊かさ」、「自然の豊かさ」と言い換えることもできます。GDPは主としてモノとサービスによる資産の増減ですので、実は物的資産の増減に対応しており、経済成長を表すにはピッタリです。一方「包括的豊かさ指標」は自然環境と人間性を重視し、持続的可能な社会、換言すれば成熟社会の水準を測る物差しの候補に当たると言えそうです。

 環境破壊や資源の大量消費は「自然資産」を減らします。男女共同参画を阻み、男性の頑張りに過度に依存した社会は「人的資産」を損ないます。「包括的豊かさ指標」は成熟社会に向けて私たちが何をなすべきか、何を抑制すべきかを問いかけてもおります。日本も先進諸国も成熟社会はまだ途上にあり、その実現に向けた新たな挑戦がみなさんを待ち受けていることは明白です。

 

 それではこれから大学での学びを始めるみなさんには、来るべき成熟社会への準備として何が求められるでしょうか。みなさんが一人ひとり、将来社会の思い描き方、将来の人生の歩み方が異なりますので、処方箋は千差万別です。ですから、つぎに述べることは私の考えであることを予めお断りしたうえでお聴きください。

 

 来るべき成熟社会は自然や人間、社会と調和がとれた科学技術の展開、環境と共存できる産業の創出が求められます。理工系の技術者や研究者は成長社会だけではなく成熟社会でも欠くことができません。ですから理工学を志すみなさんはまず専門性を深く修得することに努めていただきたいと私は思います。

 専門の学習ではどの学科・教育コースにも共通することがあります。それは理工系の技術者として土台となる数学と基礎科学の授業科目を系統的に学習し、その核心である分析と推論の技法を修得することが目標になります。さらにそれぞれの教育コースでは、数学と基礎科学を応用した工学の基礎を学びます。教育コースの履修がさらに進みますと、工学設計の世界が視野に入ってきます。この新天地では数学、基礎科学、基礎工学と人文社会の諸科学の学習成果を結集し、さまざまな現実の制約条件を考慮に入れながら、要求に適合した要素やシステムを開発する課題が待ち受けております。課題を解決するプロセスは創造的で、正解が幾通りもあり得ます。これが工学設計の醍醐味であり、社会が理工系の技術者に期待するもっとも中心的な能力ということになります。その核心は設計や試作にまつわる総合と選択判断の力にほかなりません。これを思考の基本回路として各自がつくり上げ、演習を通じて何度も動作を確認し改良に努めることを推奨します。

 大学院では、問題解決能力を前提として、さらに問題を発見しその中から課題を設定する能力も期待されます。本年度から移行する新しい大学院の専攻の編制と教育課程はこの要請にこたえることができるように計画され、実施に移されます。イノベーションの創出を担える高度専門技術者・研究者の育成、これこそ私どもが大学院に託した新たな目標にほかなりません。

 

 つぎに重視していただきたいのは、専門性を超えた汎用性の修養です。こちらは本学では主専門教育に対して副専門教育として用意されております。グローバル化した現代社会では、環境、資源・エネルギー、経済、金融などあらゆる問題が国境を越え、複雑に入り組んでおります。これらの問題は特定分野の専門家のみによって解決するにはあまりにも複雑です。学問分野でも従来の人文社会系、理工系、生物系といった区分を超えた総合領域、複合領域が生まれ、懸命な努力が払われております。本学の専門分野は理工系が中心ですが、成熟社会の到来を見越して、それらを切り開く次世代のみなさんには自分の専門分野にとどまらず、隣接分野、新領域にも関心と基本的な理解を持ってもらうことが必要です。そのために本学では副専門教育に4つのコース、「環境と社会」「市民と公共」「こころとからだ」「人間と文化」という現代社会が提示する複合的な課題を設け、人文社会科学系の教員が理工系・生物系の教員と協力してコースを担当します。副専門教育では全学生が共通に基礎を学ぶとともに、さらにこれらの中から関心のある一つのコースを選択し、より深く学ぶことができるようになっております。専門性を深く修得することとあわせ、汎用性の修得にも努めていただきたいというのが新入生のみなさんへの私の願いです。

 

 結びに当たり、専門性、汎用性を修得することの前提として、みなさんに心がけていただきたいことがあります。それは自分が思い描く将来の構想、自分の将来の生き方を志として思い定めること、さらに志を実現するための目標と計画を立てることであります。これがあって専門性や汎用性の修得が本物になります。最後に、フランスの生化学者ルイ・パスツールの言葉を贈ります。

 「偉大な人々は目標を持ち、そうでない人々は願望を持つ。」

それではみなさんが等しく偉大な人々となるよう祈念して、入学宣誓式の告辞といたします。

 

                              平成26年4月7日

                               室蘭工業大学学長 佐藤 一彦

 

 

更新年月日:2014年4月7日

作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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