平成26年度学位記授与式 告辞

 春分を過ぎてもまだ春浅い本日、ご来賓並びに名誉教授のご列席のもと、学部卒業生、大学院修了生およびご家族、ご親戚の皆さまとともに平成26年度学位記授与式を行いますことは、室蘭工業大学にとりまことに慶ばしく、ご列席のみなさまとともにこの喜びを分かち合いたいと存じます。

 本日、晴れて学部を卒業し学士(工学)の学位を得られた方は592名、大学院博士前期課程を修了し修士(工学)の学位を取得された方は197名、また大学院博士後期課程を修了し博士(工学)の学位を授与された方は7名おります。また卒業生・修了生の中には外国人留学生が30名おります。

 これら796名の皆さんに、学位の取得並びに卒業・修了を心からお祝い申し上げます。また皆さんの入学から今日まで、修学を励まし支えてこられたご家族並びに関係者の方々に敬意とご祝辞を申し上げます。

 さて今日は学位記授与式に当たり、皆さんがこれから赴く今日の社会と近い将来の社会について少し想いをめぐらし、私からの期待を述べさせていただきます。

 

 先週3月14日から5日間、世界186ヶ国の代表が集まり、仙台市で第3回国連防災会議が開かれました。この会議が仙台で開かれた意義は、4年前の東日本大震災から教訓を学ぶとともに、この10年間に世界各地で相次いだ災害でおよそ70万人の生命が奪われ、日本円で163兆円にも上る経済的損失があったことを再確認し、今後の国際的な防災協力のあり方について話し合うことにありました。国際協力が必要なのは自然災害にだけにとどまりません。エボラ出血熱などの感染症、食糧・水・エネルギー不足の深刻化、地球温暖化など、世界が協調して取り組むべき地球規模の課題が数多くあります。

 

 一方、国内に目を移しますと、2011年から総人口が減少に転じ、高齢化が急速に進んでおります。今から25年後の2040年、みなさんが働き盛りのころ、日本の総人口は約1億700万人、生産年齢人口の比率が54%に減少する一方、65歳以上の高齢者人口は36%になると推定されております。現在の就業年齢で推移すると、働く大人3人でお年寄り2人を支えることになります。女性の社会進出は待ったなしですし、高齢者も働ける限り働く時代が目の前に迫ってきております。大学を巣立つ皆さん一人ひとりが、在学中に培った能力を継続的に高めることなしには、日本の将来は危ういと言っても過言ではありません。

 

 さらに経済のグローバル化に伴い、先進国、新興国が世界の市場を舞台に激しい競争を繰り広げております。HV車(ハイブリッド車)やグローバル戦略で世界の先頭を走ってきたわが国の自動車産業も、その地位が約束されているわけではありません。環境基準が厳しさを増し、安全性が重視されるに至って、次世代のEV車(電気自動車)やFV車(燃料電池車)の開発と市場への投入、自動運転車の早期実現が競争の核心になりつつあります。とくに自動運転車では、同業者のみならず、世界的なIT企業が開発を加速させており、自動運転車の次の照準は、これもわが国が競争優位にあるロボットに置かれていると言われております。世界トップクラスの科学技術に支えられたわが国の経済力、存在感を維持するにも、不断のイノベーションが求められており、社会や産業界は皆さんの活躍に熱い眼差しを送っています。

 

 それではイノベーションを担うことを期待されている技術者、研究者には、どのような心がけが必要でしょうか。就職する皆さん、大学院に進学するみなさんは、すでに面接や試験に臨むに当たって働くことの意味、研究することの意義を考え、それぞれ自分の回答を得たに違いありません。今しばらくそれを想い浮かべながら私の考えをお聴きください。私はもつべき心構えの糸口はイノベーションが意味するところにあると思います。

 

 イノベーションは技術革新と同義に扱われることもありますが、必ずしもIT(情報通信業)やGT(遺伝子工学)、あるいはNT(ナノテクノロジー)のように産業を創出し、社会を根本から変えるような規模や深度を持つものばかりではありません。この概念の産みの親であるシュンペーターは製品や製法、販売や市場開拓に関する既存の方法の「新結合」「新機軸」にこの名称を与えました。同時に新規な発想、卓越した発見が先行条件であり、結果として産業や社会に「創造的破壊」をもたらすことにも言及しております。

 

 昨年、日本発明協会が戦後日本のイノベーション100選を発表しました。トップ10に選定されたのは、新幹線、内視鏡、インスタントラーメン、ウオッシュレット、トヨタ生産方式、家庭用ゲーム機、コンビニエンスストア、リンゴ「ふじ」、マンガ・アニメ、などです。選定で重視したのは創造性、歴史的重要性、国際性とのことですが、歴史的重要性や国際性は事後に分かることです。発明に必要とされるのは創造性であり、それの元をたどれば社会が求めている商品やサービスへの共感、それをかたちに創り出していく才能ということになります。もちろん、発明に先行する学術研究や基礎研究の意義はいささかも失われませんし、社会を深部から揺さぶるビッグ・イノベーションは、ほとんど地道な学術研究の成果から生まれています。大学院に進学する皆さんは、この点に確信をもって学術的探究に邁進して下さい。  ここまでを振り返りますと、イノベーションに必要なのは、利用者にワクワク感を与えるモノやコトに対する共感力とそれを実現する才能、あるいは人間性と専門的能力ということになります。これは研究者を目指す人、技術者の道を選んだ人を問わず心がけてほしいと願っております。

 

 もう一つ心構えに加えるとすれば、それは協働や連携への関心と多様性への寛容です。これもイノベーションを成し遂げるうえで、本質的な要素になります。学術的な研究では対象を切り分け、細分化したターゲットに焦点を合わせ、発見に努めます。手法は分析的、解析的となります。個人の努力が主体で、協働は副次的です。これに対してイノベーションでは新規なアイディアや既存の中間的パーツを持ち寄り、これまでにない製品や製法、組織編制や流通経路を創り出しますので、方法は本性的に合成的、総合的となり、作業も複数のプレーヤーの協働となります。最近は一つの企業だけに閉じた自前主義のイノベーションは少なくなり、他社の成果物を利用して自社のイノベーションを実現するオープン・イノベーションが主流になっています。この場合は協働より連携が正鵠を得ていると思いますが、こちらの方が経済的価値の創造というイノベーションの目的にかなっていることに気付いたというべきでしょう。

 またどの業種・業界でもジェンダーや国籍、文化的背景を異にする人など、多様なメンバーから成るチームがイノベーションに有効な役割を果たすことに気付き始めました。社会が望む商品やサービスは、多様なチームメンバーなればこそ多面的にとらえることができ、新しい価値を生み出すに当たっても多様な感性や文化的なバックグラウンド、価値観がぶつかり合い、磨かれることによって、広範な通用性と高い満足感を得るであろうことは、多言を要しません。女子学生や外国人留学生のみなさんには、この点に確信をもっていただき、また男子学生のみなさんにも理解を願いたいと思います。多様性への寛容と促進、これをぜひ心に留め置いてください。

 

告辞の結びに当たり、フランスの小説家・詩人アナトール・フランス(1844-1924)の言葉を贈ります。初めは英語で、続いて日本語で紹介します。 To accomplish great things, we must not only act, but also dream; not only plan, but also believe. 偉大なことを成し遂げるためには、行動するだけではなく、夢見ることも 必要だし、計画を立てるだけではなく、信じることも必要である。

 

「創造的な科学技術で夢をかたちに」。室蘭工業大学はこれからも皆さんとともに、日本の輝かしい未来に向かって歩みます。皆さんのご健勝とご活躍を祈念し、学長告辞といたします。

 

                              平成27年3月23日

                               室蘭工業大学学長 佐藤 一彦

 

 

更新年月日:2015年3月23日

作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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