生物多様性から文化的、言語的多様性へ

環境科学・防災研究センター 丸山 博

 

 

 20世紀後半、環境を外部化した経済が進められたことによって、日本列島の至る所で開発に伴う自然破壊が野生生物の生息域を狭め、自動車や工場からの汚染物質が大気と水を汚染し、深刻な健康被害をもたらした。他の先進工業国でも似たような問題が引き起こされ、それに対処するため、1972年、スウェーデンのストックホルムにおいて人間環境会議が開かれ、環境問題が政治的課題となった。1987年、ノルウェーのブルントラント首相を議長とする賢人会議が「持続可能な発展」を環境政策の中心的概念として提唱した。1992年には、ブラジルのリオデジャネイロで世界環境開発会議が開かれ、三つの国際環境条約が締結され、国際社会全体で環境問題に取り組む基盤がつくられた。

 

 その国際環境条約の一つが生物多様性条約である。主要な目標は生物多様性の保全、生物多様性の持続的利用、及び遺伝資源としての生物多様性から得られる利益配分の三つである。同条約は法的拘束力があるため、締約国には条約に沿って国内法を整備することが要請される。日本も締約後、生物多様性国家戦略や生物多様性基本法を策定している。私たち環境科学防災研究センター環境評価グループの研究の第一はその対応を検証することにある。とりわけ生物多様性条約8条j項は先住民族の遺伝資源の利用にも深くかかわるため、国連内にワーキンググループがつくられ、活発な議論が行われていることから私たちもその議論の推移を検討している。先住民族は何世代にもわたり、居住地周辺の自然を持続的に利用する知識や技術を蓄積してきたが、それらは集団的管理のもとにおかれており、現代の個人所有制とはなじまず、権利関係の整理が難しいのである。

 

 上記の議論を日本に即して考えれば、アイヌ民族の権利の問題となる。現在のアイヌ政策の基本であるアイヌ文化振興法は第1条において「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する国民に対する知識の普及及び啓発を図るための施策を推進することによって、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現を図り、あわせて我が国の多様な文化の発展に寄与することを目的とする」とあるように、アイヌ民族の権利は一切保障していない。また、第2条ではアイヌ文化を「アイヌ語並びにアイヌにおいて継承されてきた音楽、舞踊、工芸その他の文化的所産」と規定している。本来アイヌ民族自身のものであるべきアイヌ文化そのものを国が法律で縛っているのである。このことの意味を国際人権法や北欧諸国の先住民族政策に照らして考えると、日本がいかに文化的、言語的多様性を許容しない特異な社会であるかということが見えてきた。

 

 

言語の多様性に関する国際会議の様子 (ノルウェー・トロムソ)

言語の多様性に関する国際会議の様子
(ノルウェー・トロムソ)

 

環境科学・防災研究センターWebサイト:http://www.muroran-it.ac.jp/cedar/

 

 

 

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更新年月日:2014年3月7日
作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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