応用理化学系学科応用物理コースの教育・研究最前線―レアアース合金における強相関電子状態の解明と高機能金属材料の開発―

応用理化学系学科応用物理コース 助教 雨海有佑

 物質を構成する原子は、原子核と電子によって構成されています。金属の電子は、物質内で自由な粒子としてふるまう「自由電子」と原子核の周りに束縛され軌道を持つ「軌道電子」の二つが存在します。電子は、マイナスの電荷を持っているのでお互いが関わりあうことを避けているのですが、遷移金属(鉄・マンガン・コバルト等)やレアアース(希土類元素)を含む化合物等において、自由電子と軌道電子または軌道電子同士が強く関わりあい、奇妙な性質を示すことがあります。このように電子同士が強く関わりあった状態を「強相関電子状態」と言います。この強相関電子状態は、物質中に多くの熱を溜めることが出来たり、熱を電気に変換することが出来たり、さらには奇妙な超伝導状態が実現したりするため、強相関電子状態を生かすことで従来知られている材料よりも高機能な材料へと発展する可能性を秘めています。私たちの研究室は、研究室名が「強相関物性研究室」という名称で、主にレアアースを含んだ強相関電子状態を有する物質の開発とその性質を評価し、有用な新奇材料への展開を目指しています。一言で強相関電子物質と言ってしまうと非常に多様で広範な研究対象になってしまいますが、私たちの研究室では特に、レアアースの一つである「セリウム」と言う元素を含んだ単結晶の金属間化合物やアモルファス合金の開発を行っています。

 

 金属などの無機物の構造は、大きく分けると原子が周期的に並んだ結晶状態と原子がランダムに集まったアモルファス状態の2つに分類することが出来ます。図1に結晶とアモルファスのイメージを示します。今回は、アモルファス合金の研究について紹介します。

 

図1 結晶とアモルファスの原子配置のイメージ図

図1 結晶とアモルファスの原子配置のイメージ図

 

 まず、アモルファス合金の作製方法は様々ありますが、私たちの研究室では、「スパッタリング法」という方法で作製しています。私たちがアモルファス合金の作製に利用している直流高速スパッタリング法は、膜状のアモルファス合金試料を作製することが可能です。不活性ガス(アルゴンガス等)を高電圧によって陽イオン化し、ターゲット合金に負の電圧を印加することによってターゲット表面の原子が弾き飛ばされます。その弾き飛ばされた原子を水冷された基板(銅等)に堆積させることでアモルファス合金を得ることが出来ます(図2参照)。このようにして作製されたアモルファス合金に対し、基礎物性(電気伝導・磁化・比熱等)を評価します。

 

図2 左上:直流高速スパッタリング装置外観、左下:スパッタ法の模式図、右上:スパッタリングの様子、右下:スパッタ前後の銅基板

図2 左上:直流高速スパッタリング装置外観、左下:スパッタ法の模式図、右上:スパッタリングの様子、右下:スパッタ前後の銅基板

 

 アモルファス合金における強相関電子状態の研究は、世界的にも例がなく、またアモルファス構造ゆえに任意の元素同士を組み合わせて合金を作製することが出来るため、試料の作製そのものが世界初となるオンリーワンな研究です。私たちはこれまでにレアアースのセリウムを中心としたアモルファス合金の研究で、極低温で通常金属の100倍以上もの比熱を持つ合金や、室温で通常金属より3倍以上も大きい膨張を示す合金、ある温度で急激に電気伝導性が失われる合金を発見しました。また、極低温ではありますが超伝導状態になる合金も発見しました。これらの性質は、アモルファス構造における強相関電子状態ゆえに実現されたものであり、蓄熱材料やアクチュエーター(駆動素子)、センサー材料として期待されます。私たちは、このような強相関電子状態が関与した様々な性質の解明を行うとともに新奇高機能材料の発掘を学生と共に日夜行っております。

 

 

 

図3 実験風景

図3 実験風景

 

 

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更新年月日:2013年4月4日
作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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