応用理化学系学科応用化学コースの教育・研究最前線―光機能性有機材料の開発とメカニズムの解明―

応用理化学系学科応用化学コース 中野 英之

 

 世の中では、さまざまな「材料」を用いて生活に有用なものが作られています。材料の中には、モノを入れたり支えたりするのに使われる「構造材料」とよばれるものと、外部から刺激を受けるとなにか応答してくれる「機能材料」があります。「光」「熱」「電圧」「圧力」などの外部刺激を受けると、色が変わったり、光ったり、電気が流れたり、形が変わったり、動いたり、などの応答を示すものが機能材料です(図1)。たとえば、「光」という外部刺激が加わると「電気が流れる」という応答をする機能材料は、太陽電池の材料として使えることになります。

 

図1

図1 機能材料:外部刺激を受けて応答する材料

 応用化学コース中野英之研究室では、有機化合物で形成される新しい機能材料を創り出し、それらが刺激に対してどのような応答挙動を示すのか、なぜそのような挙動を示すのかを明らかにする研究を行っています。特に「光」をキーワードとして研究に取り組んでおり、光があたると何らかの応答を示す材料や、何かの刺激を受けると色が変わったり光ったりする材料に着目してます。以下に、最近の研究トピックスを紹介します。

 

 

光があたると動く材料

 われわれがこれまでに開発してきたフォトクロミックアモルファス分子材料と名付けた材料群を用いて簡単にファイバーを作ることが出来ます。このファイバーに光を照射すると、ファイバーが屈曲します。面白いことに、ファイバーに照射する光の偏光方向(電場の振動の方向)を変えることによって、光源から遠ざかるほうに屈曲したり、近づくほうに屈曲したりします(図2)。これまでに、照射する光の波長を変えたり、照射する方向を変えたりすることで、ファイバーの曲がる方向を変えた例は知られていましたが、光の波長や光源の位置を変えずに偏光方向を変えるだけで屈曲方向を制御することが出来ることが示されたのは、このファイバーが初めてです。

 

図2 ファイバーに左からレーザー光を hv で示した部分にあてると、ファイバーの軸に平行な偏光をあてた場合には光源から遠ざかる方向に(左図)、垂直な偏光をあてた場合には光源に近づく方向に(右図)屈曲する

図2 ファイバーに左からレーザー光を hv で示した部分にあてると、ファイバーの軸に平行な偏光をあてた場合には光源から遠ざかる方向に(左図)、垂直な偏光をあてた場合には光源に近づく方向に(右図)屈曲する

 

 

 さらに最近、この材料の粉末を透明な基板の上に置き、ななめ下方向からレーザー光を照射すると、試料粉末が基板の上を動いていくことを見出しました(図3)。条件によって動く速さは異なりますが、おおよそ1分間に1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)ぐらいの速さで動きます。かなり遅いように感じるかもしれませんが、材料を構成している分子の大きさが10~20ナノメートルぐらい(1ナノメートルは1000分の1マイクロメートル)であることを考えると、1分間で分子の大きさの百倍ぐらい動いていることになります。人間が1分間で100メートル(身長の百倍ぐらい)を歩く速さを考えると、結構速く動いていると考えることができます。さらに材料を工夫していけば、もっと速く動く材料の開発も可能ではないかと考えています。

 

 以上のような光で動く材料は、光エネルギーを有効に動力などの力学的エネルギーに変換できる材料として、今後の発展が期待されます。

 

 

光をあてると動く試料粉の観察装置の模式図

図3-1 光をあてると動く試料粉の観察装置の模式図

 

 

図3-2 試料粉が動いていく様子(動画:早送りしています)

 

 

周囲の環境で発光色が変化する蛍光材料

 さまざまな色で発光する材料は、装飾品などに用いられて、われわれの目を楽しませてくれます。また、最近注目を集めている有機ELの表示材料としても重要で、携帯電話やスマートフォンなどの表示材料のほか、照明への応用も期待されています。さらに、周囲の環境で発光色が変化する材料は、環境を知るためのセンサーとして用いることができるほか、最先端の科学技術のさまざまな分野で用いられています。

 

 われわれは最近、ジアリールアミノベンズアルデヒドと呼ばれる一群の化合物をさまざまな有機溶剤に溶かした溶液について、溶剤の種類に応じて蛍光色が大きく変化することを見出しました(図4左)。また、この化合物は溶液にしないでも、結晶のままで青い色の蛍光を発することを見出しました。興味深いことに、この結晶を乳鉢ですりつぶすと、発光色が緑色に変化し、加熱したり溶媒にさらしたりすることで、またもとの発光色に戻すことが出来ます(図4中および右)。このように、結晶を機械的に粉砕・摩砕することによって発光色が変化する材料をメカノフルオロクロミック材料とよび、基礎科学的に興味がもたれているだけでなく、圧力センサーなどへの応用や、セキュリティー分野への活用など、さまざまな応用の観点からも注目を集めています。

 

図4 あるジアリールアミノベンズアルデヒドのさまざまな溶液中での発光の様子(左)ならびに、この化合物の結晶粉末の蛍光発光の様子(中)と結晶をすりつぶした試料の蛍光発光の様子(右)。いずれも365 nmの紫外線照射下で撮影。

図4 あるジアリールアミノベンズアルデヒドのさまざまな溶液中での発光の様子(左)ならびに、この化合物の結晶粉末の蛍光発光の様子(中)と結晶をすりつぶした試料の蛍光発光の様子(右)。いずれも365 nmの紫外線照射下で撮影。

 

 このほかにも、中野英之研究室では様々な光機能性有機材料に関する研究を行っています。新しい成果を論文発表するたびにホームページの内容も更新していますので、興味のある方は是非、中野英之研究室のホームページ(http://www3.muroran-it.ac.jp/nakano_lab/)を時々のぞいてみてください。

 

 

 

 

応用理化学系学科Webサイト:

http://www.muroran-it.ac.jp/rikagaku/Guide/Undergraduate/index-j.html

 

 

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更新年月日:2013年9月6日
作成担当部局:総務グループ総務ユニット

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