氏    名  渡 部 義 範 (わたなべ よしのり)

学位論文題目  AE計測による岩盤内き裂系フラクタルモデルの構築とその応用

論文内容の要旨

 近年,土木トンネルや鉱山の坑内採掘はもとより,エネルギ備蓄,廃棄物の地層処分施設など,地下空洞は多岐に渡って有効利用されている。こうしたことから,地下空洞の開発,保安,防災,それらに関わるシミュレーションのためには,岩盤内部の不連続面に関する3次元可視化情報は不可欠である。本研究では,岩盤内不連続面であるき裂の発生,進展に伴い放出されるAE(破壊音:Acoustic Emission)波を検出,解析し,き裂の空間分布のフラクタル性を取り入れた,より現実に近い3次元き裂分布モデルの構築手法の開発を目指した。
  本論文ではまず,室内実験として砂岩半円盤供試体のSCB試験(Semi-Circular Bend test)により発生するAEの計測および供試体表面のき裂画像観察に基づき,き裂分布(2次元)のフラクタル性を確認した。次に,単軸圧縮応力下の花崗岩供試体から発生するAEおよび内部のき裂画像観察により,AE震源分布(3次元)のフラクタル性を確認した。計測されたAEデータから得られる震源の位置や規模などの情報と,き裂系のフラクタル性のもつ特徴とを組み合わせることによって岩盤内部のき裂分布をモデル化すれば,より信頼性の高いき裂モデルを構築できる。その際,供試体に現れたき裂分布とモデルの対応する面に現れたき裂分布とが似た形状になるように調整を行うことによって,き裂系フラクタルモデルの構築手法を確立した。
  続いて,実際の地下開削現場として豪州Dartbrook炭鉱の採炭パネルを対象に,このモデル化手法の適用を試みている。適用の際には,実際の炭鉱坑内は3次元応力場にあるため,炭層や天盤を構成している岩石のAE発生特性(応力とAE発生頻度,震源分布のフラクタル性など)を明らかにする必要がある。そのために,同炭鉱のボーリングコアから整形した,石炭および夾炭層岩石を用いて三軸圧縮試験を行い,岩種ごとのAE解析結果の違いや,き裂系フラクタルモデルの特徴(規模やタイプ,分布など)についても明らかにしている。この予備試験を通じて得られた結果を考慮して,採炭と共に観測されたAEデータを用いて,切羽進行に伴うき裂系フラクタルモデルを構築し,その変化を3次元的に可視化している。この3次元可視化情報と,現場での切羽の進行に伴って発生する諸事情とを対比させ,妥当性の検証を行っている。
  このように本論文では,AE計測データを用いた岩盤内部のき裂系フラクタルモデルの構築手法を開発,提案し,その妥当性について実際の炭鉱に適用することにより検証を行っている。この成果は,き裂系フラクタルモデルを用いた坑内ガス流動や岩盤の安定性評価などのシミュレーションに適用できるため,地下空間の開発に有用である。

論文審査結果の要旨

 鉱山開発やトンネル,石油,液化天然ガス(LNG)の地下備蓄工事,地下発電所,核廃棄物の地層処分施設の建設等,地下空間の利用分野において岩盤内部のき裂系をモデル化し可視化表示することは,効率的で安全な空洞開削施工を行う上で,また地下構造物を長期監視し,安定性を評価する上でも重要である。本論文では,地下岩盤内の開削に伴うAE(acoustic emission:岩盤破壊音)を計測し,岩盤表面や供試体から観察されるき裂分布をもとに,岩盤内の3次元き裂系モデルを構築する手法を提案している。1章では,このような研究背景と目的,ならびに既往の研究についてまとめられている。
  2章と3章では,応力下の岩石供試体内に発生する微小き裂の観察とAE計測を行い,2次元および3次元の微小き裂分布およびAE震源分布が共にフラクタルであることを明らかにしている。特に,供試体表面に現れる2次元き裂分布のフラクタル次元D2と3次元き裂分布のフラクタル次元D3の間には,D3=D2+1の関係があることを確認している。これらの実験による成果を基に,AE計測データの震源標定およびモーメントテンソル解析により,AE発生の原因になった微小き裂を厚みのない円盤で3次元空間に配置する,き裂の幾何モデル化手法を提案している。また,岩石供試体内に配置したき裂モデル分布もフラクタルであることを確かめ,AE事象の規模を反映した円盤き裂の直径を制御することにより,フラクタル次元を実際のき裂分布のフラクタル次元に一致させることができることを実証した。さらに,AE計測では捕捉できなかった規模の小さなAEイベントを,AEの規模別頻度分布のフラクタル性を利用して補完する方法も提案している。
  4章と5章では,提案したき裂系のモデル化手法を実際の現場に適用した結果について述べている。豪州の坑内堀炭鉱において観測された採炭に伴うAEを用いて,採炭パネル近傍岩盤内のき裂分布モデルを構築している。そのために,同炭鉱の夾炭層岩石の3軸圧縮試験を行い,岩種(砂岩,シルト岩,石炭)毎に実際の表面き裂分布とき裂分布モデルのフラクタル次元を調べ,マッチング係数を求めている。現場の岩相に応じてマッチング係数を割り当て,採炭領域全体のき裂系分布モデルを構築した。その結果は,採炭に伴う周辺岩盤の破壊現象を扱った過去の研究成果と調和的であった。
  以上のように,本論文で提案したき裂系のモデル化手法と実際の現場への適用の成果は,資源開発分野はもとより,岩盤工学分野,AE利用分野等の地下岩盤を対象にした工学に資するところ大であり,博士(工学)の学位を授与するのに相応しい内容と水準を有するものと判断された。