氏    名  佐々木 賢 知 (ささき まさのり)

学位論文題目  雪山横穴空洞式熱交換システムの開発に関する研究

論文内容の要旨

 環境の保全と省エネルギー対策から再生・自然エネルギー利用の需要は増大している。積雪地において,雪を夏期まで保存し冷熱源として利用する「利雪」が進んでいる。現在利用されている利雪施設の多くは,断熱構造体内に雪を保存する方式であり,この断熱構造物の建設コストは安いものではなく,雪の大規模な貯蔵とその利用は限られたものとなっていた。一方,道路除排雪作業などにより雪堆積所(雪捨て場)には,膨大な量の雪が運び込まれ雪の山を築いている。この雪の山(雪山と呼ぶ)を保存,利用する技術の研究が近年進められ,大スケールのため簡易な断熱によって長期間保存することが可能となり,同時にこの雪山の冷熱の利用方法に関しても多くの検討と試みがなされて来た。本研究では,中規模(数千トン規模)の雪山から直接冷熱を抽出し利用する方法について検討を行う。冷熱輸送媒体として,水と空気とが考えられる。雪山から冷熱の需要先が遠い場合には,水を媒体とする優位性はうかがえるが,需要先が雪山に近接している場合には必ずしもそうではない。これは雪山の融解水を利用する場合,融解水中に含まれる塵埃,汚泥を除去する設備が必要となり,システムが複雑・高価となることによる。
  本研究ではこのような融解水による問題を回避するため中規模の雪山からの冷熱の抽出において空気を熱媒体とする熱交換システム,即ち雪山に空気流通の横穴を開け,雪山内部に形成される空洞の内表面において空気を冷却する熱交換方式(「雪山横穴空洞式熱交換システム」と呼ぶ)を提案し,熱設計手法を開発し,北海道豊浦町にある夜冷育苗ハウスに適応し良好な結果を得,本熱交換方式の特性と将来性について詳述している。
  本論文は次の5章により構成されている。
  第1章では,本研究の背景と目的について述べた。
  第2章では,より具体的に本研究の雪冷熱利用全般におかれた位置を明らかにした。
  第3章では,開発した横穴空洞熱交換システムの実証試験として,イチゴ温室の冷房利用試験と熱設計について述べた。低消費電力の冷房を実現し,熱設計で予測した程度の冷熱温度,冷熱出力が得られ,運用も安定しているなどの特性を明らかにした。
  第4章では,本システムの冷熱出力や熱交換能力について試験結果を中心に述べ,同時に変風量試験においてより大冷熱出力の利用の可能性について述べた。
  第5章では,本研究のまとめとして中規模雪山における簡便なシステムによる空気式熱交換システムを完成できたこと,本システムをイチゴ夜冷処理において実際に利用し,良好な結果を得たこと,また今後の研究の展望等について論述した。

論文審査結果の要旨

 雪利用の大規模化が計画される中,従来の雪冷房システムでは,断熱倉庫の建設コストが問題となっている。雪利用冷房システムの低コスト化が進められ,道路排雪により都市辺縁部に毎年造成される数万トン規模の雪山を保存,冷熱として利用する方法について研究が進められてきた。これまでの研究では,アスファルト等により路盤を整備した上に雪山を築造する水を熱媒体とした冷水循環型システムを採用してきたが,冷水を集めるため路盤の整備が必要であり,汚泥排除などの水処理の問題も不可避であり,雪保存安定性についても問題が残る基盤設備を要する雪山利用システムであった。
  本研究では,比較的小規模である千トンの雪山から,水平な空洞より冷却された空気を抽出し,利用先へ送り利用する雪冷房システムを提案する。本システムの特徴として,冷気抽出ダクトと送風ファンのみから成る簡明な装置であることが上げられる。また,熱輸送媒体として空気を利用する事により,雪融解水中の汚泥等の問題を回避し,路盤等雪山の整備が不要となる等これまでの雪山利用システムに対する優位性が大きく,適用可能範囲が広くなるなどの特性を明らかにしている。この熱交換システムの熱設計は,理論的手段によって行われ,実際のイチゴ育苗施設で冷房実験を行いその効果を確認し,本熱交換方式の特性を実証した。
  以上のことから,本研究によって得られた知見は,工学上十分な価値があり,機械工学の分野に寄与するところが大きく,本論文は博士(工学)の学位論文として授与されるにふさわしい内容と水準を備えているものと判断される。