氏    名  佐 藤 慎 悟 (さとう しんご)

学位論文題目  ハイブリッドトレフツ有限要素法に基づく周期構造の平面
        波散乱特性解析法に関する研究

論文内容の要旨

 周期構造の回折特性を利用したデバイスが通信,光学の分野で広く用いられている。フォトニック結晶は,周期が光の波長オーダーで多次元の周期性をもつ周期構造で,近年盛んに研究,開発が行われている。フォトニック結晶では,周期構造に起因する阻止域で,フォトニックバンドギャップと呼ばれる光が伝搬できない波長域が存在する。この特性を利用した次世代の光デバイスとして,フォトニック結晶導波路などが考案されている。周期構造は,媒質の材料や形状,構造周期などのパラメータによって様々な特性を示すことから,特性評価や実デバイスの設計において,汎用性の高い数値解析法が求められている。周期構造の特性解析法として,種々の数値計算法があるが,FD-TD法や有限要素法が広く用いられている。特に,有限要素法は領域分割型の解法であるため,任意形状の解析が容易であることや,媒質に依らず適用できるなどの利点がある。しかしながら,開放型領域を取り扱う場合,半無限領域に対して,(1)吸収境界条件を課す,(2)他の手法を組み合わせた結合解法を適用するなどの工夫が必要である。また,周期摂動部が多層状になっている解析対象を取り扱う場合には,要素分割する領域が広くなるため,最終的に解く連立一次方程式の次元数が多くなり,計算コストが高くなる欠点がある。
  これに対して,本研究で用いるハイブリッドトレフツ有限要素法では,半無限領域や多層構造における各層間の一様均質領域を,それぞれ一個のトレフツ要素という特殊な要素で分割できる。このため,従来の有限要素法と比べて,最終的に解く連立一次方程式の次元数を低減できる利点をもつ。本研究では,ハイブリッドトレフツ有限要素法の適用範囲を拡張し,その妥当性や有用性の検証を行った。具体的には,(1)2媒質からなる回折格子による平面波散乱特性解析,(2)周期構造による任意の入射方向をもつ平面波の散乱特性解析,(3)多層状の周期構造による平面波散乱特性解析,(4)三次元二重周期構造による平面波の散乱特性解析,(5)回折格子の格子領域をトレフツ要素で分割した場合の平面波散乱特性解析を行った。本手法によって得られた計算結果と文献による計算結果との比較,および本手法と従来の有限要素法との最終的に解く連立一次方程式の次元数の比較により,本手法の妥当性,有用性の検証を行った。

論文審査結果の要旨

 周期構造による電磁波の反射・透過特性を利用したデバイスは,多岐に渡る。例えば,マイクロ波,ミリ波,光波帯の周波数選択板,回折格子,偏光子などがある。近年では,その分散特性に起因する閉じ込め効果を利用したフォトニック結晶を光デバイスへ応用する研究が盛んに行われている。 
  さて,この周期構造の反射・透過特性の計算法として,これまで多くの解析法が開発されてきた。解分布を完備な関数系で展開し,境界条件を満足するようにその係数を決める微分法,安浦のモード整合法,積分方程式法のような数値計算量が比較的少なく高速な解法と,有限要素法やFD-TD法(Finite Difference Time Domain Method)に代表される数値計算量が多く長い計算時間が必要となるが,汎用性を重視した数値解析法に大別できる。フォトニック結晶のような複雑な形状,多様な材料構成を考慮した特性解析には,汎用数値解析法の利用が不可欠であり,その高速化が望まれていた。
  本論文は,周期構造の平面波散乱特性の高速汎用数値解析法の開発を目的とした研究成果をまとめたものである。この解析法は,ハイブリッド変分原理を採用することで,通常の有限要素と完備波動関数を補間関数とするトレフツ要素の併用を可能とし,汎用数値解析法の長所と波動関数展開の長所を兼ね備えている。周期構造の周囲に存在する半無限領域ならびに多層周期構造における一様均質領域を,それぞれ,トレフツ要素1個で分割することで,多数の通常要素で分割した場合と比べて,未知数の個数を低減させ,最終的に解く連立一次方程式の計算時間の大幅な短縮を実現し,高速な汎用数値計算法の実現に成功している。本論文では,この新計算法開発の研究成果を以下の8章にまとめている。第1章は,研究の背景,目的について述べている。第2章では,ハイブリッド変分原理に基づく電磁界の汎関数ならびに有限要素法について説明している。第3章は損失媒質からなる2次元回折格子,第4章は3次元的に入射する2次元回折格子,第5章は2次元多層格子,第6章は3次元2重周期格子,第7章はトレフツ要素のみで解析する2次元回折格子の問題について,定式化と解析結果の妥当性,本解析法の有用性を示している。第8章は,結論である。
  このように,本論文は,電磁波の周期構造デバイス設計技術に貢献するところが大きく,博士(工学)に値するものと認める。