氏    名  新 巴 雅 尓 (シンバヤル)

学位論文題目  球状炭化物鋳鉄のエロージョン摩耗特性

論文内容の要旨

 粉粒体の衝突により材料表面が損傷除去される現象をエロージョンという。この現象は,高炉の微粉炭吹き込み装置の配管やベルホッパーにおいて,大きな問題となっている。これまでのエロージョン摩耗に関する研究において,一般構造材料の基本的な摩耗機構が解明され,それぞれ特徴的な衝突角度依存性を示すことが明らかになった。しかしながら,長寿命化を目的とした優れた耐エロージョン摩耗特性を示す材料は得られていないのが現状である。そこで,本研究では,特に耐摩耗材料として期待される球状炭化物鋳鉄に着目し,固気二相流において生じるエロージョンによる摩耗特性評価を行った。球状炭化物鋳鉄とは,バナジウムを約10mass%添加することで組織内に高硬度の球状のバナジウム炭化物(VC)が晶出した鋳鉄である。この鋳鉄は,球状のVCを有するため,応力集中を分散させ,基地組織において衝撃エネルギーを吸収する,良好なエロージョン摩耗特性を得られた。さらに,衝突角度に依存性がなく,以前の材料で見られなかった新たな成果である。
  第一章では,エロージョン摩耗のこれまでの研究成果をまとめるとともに,本研究の意義及び目的を述べた。
  第二章では,エロージョン摩耗実験方法の再現性を確認した。
  第三章では,三種類の球状炭化物鋳鉄(SCI-VCrNi,SCI-VMn,及びSCI-W)を用いて,エロージョン摩耗試験を行った。損傷速度が高Cr鋳鉄の損傷速度の1/4〜1/2 ,FC200 やFCD400の約1/8〜1/6という良好な耐エロージョン摩耗特性を示した。また,衝突角度依存性がない。
  第四章では,各供試材の摩耗表面マクロ観察,断面組織観察及び摩耗表面ミクロ観察を行った。さらに,二割試料による断面連続観察により,エロージョン摩耗進行過程を詳細に理解,把握することを試みた。観察結果より,摩耗メカニズムは,低角度では,切削摩耗,高角度側では,変形摩耗が支配的になる。球状炭化物鋳鉄の場合は,球状炭化物(VC)を有することで,基地組織に粉粒体の衝突によって突起部が形成されるが,VCと基地組織との接合が強固のため,塑性流動を起こしにくい。また,球状炭化物が非常に硬いため,粉粒体の衝撃を受けても,変形せず,周りの基地組織が先に脱落する。すなわち,球状VCの存在によって,応力集中を均一分散させることで,材料の変形が押さえられ,他材料より,耐エロージョン摩耗特性が良好であると推察できる。また,球状炭化物鋳鉄においても,基地組織がオーステナイト基地である場合,粉粒体の衝突により,オーステナイト基地がマルテンサイト基地へと加工誘起変態を起こし,さらに,表面強化する。そのことによって,エロージョン摩耗を押さえられると考察できる。
  第五章は,さらなる耐エロージョン摩耗材料の開発を目的とし,WCをFC,16Cr,SCI-VCrNiを母材として鋳ぐるみを施した材料を作製した結果,さらに耐エロージョン摩耗特性が改善できた。
  第六章は総括であり,本研究の成果を要約している。

論文審査結果の要旨

 粉粒体の衝突により材料表面が損傷除去される現象をエロージョンという。従来の研究では,基本的な摩耗機構が理解され,それぞれ特徴的な衝突角度依存性が明らかされてきた。しかしながら,長寿命化を目的とした優れた耐エロージョン摩耗特性を示す材料は得られていないのが現状である。
  そこで本研究では,特に耐摩耗材料として期待される球状炭化物鋳鉄に着目し,固気二相流において生じるエロージョンによる摩耗特性評価を行った。
  本論文は6章より構成され,以下にその概要を示す。
  第一章では,エロージョン摩耗のこれまでの研究について概説するとともに,本研究の意義及び目的を述べた。
  第二章では,エロージョン摩耗実験方法について検討し,本実験に供された摩耗実験装置の再現性を確認した。
  第三章では,三種類の球状炭化物鋳鉄(SCI-VCrNi,SCI-VMn,及びSCI-W)を用いて,エロージョン摩耗試験を行った。損傷速度が高Cr鋳鉄の損傷速度の1/4〜1/2 ,FC200 およびFCD400の約1/8〜1/6という良好な耐エロージョン摩耗特性を示すことを明らかにした。また,衝突角度依存性がないことを実証した。
  第四章では,二分割試料による断面連続観察により,エロージョン摩耗進行過程を詳細に理解,把握することを試みた。観察結果より,摩耗メカニズムは,低角度では切削摩耗,高角度側では変形摩耗が支配的になる。球状炭化物鋳鉄の場合は,球状炭化物(VC)を有することで,基地組織に粉粒体の衝突によって突起部が形成されるが,VCと基地組織との接合が強固のため,塑性流動を起こしにくい。また球状炭化物が非常に硬いため,粉粒体の衝撃を受けても変形せず,周りの基地組織が先に脱落する。すなわち,球状VCの存在によって,応力集中を均一分散させることで,材料の変形が抑えられ,他材料より耐エロージョン摩耗特性が良好であると推察できる。
  第五章は,さらなる耐エロージョン摩耗材料の開発を目的とし,WCをFC,16Cr,SCI-VCrNiを母材として鋳ぐるみを施した材料を作製した結果,さらに耐エロージョン摩耗特性が改善できた。
  第六章は総括であり,本研究の成果を要約し,実用化に対する問題点等を指摘している。

 以上のように,本研究は材料の新規開発,特性評価,摩耗機構の解析と多岐にわたって論述し,工学分野における貢献が大であり,博士(工学)論文として認める。