氏    名  青 野 義 道 (あおの よしみち)

学位論文題目  コンクリートのナノ構造変化がおよぼす耐凍害性への影響に
        関する研究

論文内容の要旨

 コンクリートの耐凍害性を確保するためには,Powersの水圧説に基づき,普通コンクリートにおいてはAEコンクリートとするのが一般的である。一方,低水セメント比の高強度コンクリートは,組織が緻密で凍結する水分も少ないため,non-AEコンクリートに対しても耐凍害性に優れると判定される場合がある。しかしながら,近年,暴露後の高強度コンクリートで,耐凍害性が大きく低下するものがあることが明らかになってきた。
  その原因として,暴露期間中の夏期の乾湿繰返しにより発生したひび割れが影響しているものと推察されているが,原因としては特定されていない。また,耐凍害性には,コンクリートの水銀圧入法で測定可能な細孔構造が大きく影響することが知られているが,乾湿繰返しとの関係についても検討されていない。さらに,建築材料学の分野では,水銀圧入法による10nm程度のスケールまでの研究は行われているものの,さらに小さなnm以下のスケールでのアプローチはこれまで行われていない。
  凍害試験方法としては,わが国ではASTM C666 A法が広く用いられているが,条件が実環境に即していないなど評価方法としての問題点も指摘されている。2001年には,RILEMから凍害のメカニズムに立脚したCIF法が提案されているが,わが国での報告は極めて少ない。
  以上に鑑み,本研究では,暴露期間中の夏期の乾湿繰返しがおよぼす耐凍害性への影響に関して,ひび割れおよび細孔構造変化に加え,珪酸カルシウム系水和物(C-S-H)のnmスケールでの微細構造変化について,核磁気共鳴装置(NMR)およびガス吸着等温線の測定を行い,CIF法による結果と関連付け,耐凍害性低下の原因究明を試みた。
  その結果,耐凍害性の低下はひび割れが主たる原因ではなく,細孔構造の粗大化の影響が大きいことを明らかにした。CIF法による吸水性状の観察から,細孔構造の粗大化は,凍結融解時の吸水を促進し,耐凍害性を低下させることを明らかにした。
  さらに,NMRの結果から,乾湿繰返しによる細孔構造の粗大化の原因として,シリケートアニオン鎖の重合が進行していることを明らかにした。アルキメデス法による空隙構造の評価から,C-S-Hの重合は,真密度の上昇すなわち真の比容積を低下させ,これが細孔構造の粗大化の原因であることを示した。
  窒素および水蒸気の吸着等温線によるC-S-Hの微細構造解析においては,最新の吸着モデルであるESW(Excess Surface Work)モデルを適用し,NMRおよびアルキメデス法による微細構造解析の結果を裏付けた。
  本研究の特徴は,建築学で観察された目視しうるスケールの劣化現象(凍害劣化)について,材料科学的にnmスケールの変化(C-S-Hの微細構造変化)から究明した点にある。

論文審査結果の要旨

 寒冷地のコンクリート構造物では凍結融解作用の繰返しによって生じる凍害が大きな問題であり,その劣化メカニズムの解明と耐凍害性向上技術の確立に向けた研究が古くから数多く行われている。耐凍害性を確保する方策として,普通強度のコンクリートの場合には良質の空気泡を連行したAEコンクリートの使用が一般的である。一方,低水セメント比の高強度コンクリートの場合には,組織が緻密で凍結する水分が少ないため,non-AEコンクリートであっても耐凍害性に優れているといわれている。しかしながら,最近の研究では経年の屋外暴露によって耐凍害性が大きく低下することが指摘されている。その原因として,経年による夏期の乾湿繰返しにより発生した微細ひび割れが影響しているものと推察されているが,具体的な検証はなされていない。
  本研究は,コンクリート工学と材料科学を融合した新たな手法により,乾湿繰返しによる耐凍害性低下の原因をC-S-H(珪酸カルシウム系水和物)のナノ構造変化から解明することを目的としたものである。すなわち,コンクリート工学的な観点からは,ひび割れの影響をマイクロスコープによって観察するとともに,水銀圧入法による細孔径分布の測定の下に検討を行っている。また,材料科学的な観点からは,C-S-Hのナノ構造変化に着目し,核磁気共鳴装置(NMR)およびガス吸着等温線の測定を行い,細孔径分布の変化と凍結融解試験結果とを関連付けるとともに耐凍害性低下のメカニズムの解明を試みている。
  その結果,経年を想定した乾湿繰返しに伴いC-S-Hのシリケートアニオン鎖が重合し,層状構造が発達することによってコンクリートの細孔構造が粗大化することを示すとともに,C-S-Hのナノ構造変化モデルを提案している。また,nm〜μmスケールの空隙構造の変化を表す含水率分布曲線から,−20℃までに凍結可能な水理半径5nm以上の含水量による耐凍害性の変化を説明し,従来から指摘されている微細ひび割れのみならず細孔構造の粗大化がコンクリートの耐凍害性を低下させる原因であることを明らかにしている。
  以上の成果は,経年によってコンクリートの耐凍害性が低下する機構の解明等,コンクリート工学の発展に大いに貢献しており,よって,著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められる。