氏    名  水 谷 敦 司 (みずたに あつし)

学位論文題目  建築物及び建築物周辺における生物機能導入に関する研究
        −高機能化と環境調和を目的とした適正環境構築−

論文内容の要旨

 建築物は適正環境を具備することによりその価値が高められる。生物機能の導入も建築物の高付加価値化に不可欠な適正環境の一つと認識されていたが,単純な機械装置の設置とは異なって“生物”という不確定因子の多い対象を扱う点に難点があることから建築分野において研究が立ち遅れていた領域である。以上を踏まえ,本研究は各種の制約条件のもとで対象生物あるいはそれらの機能を建築物へ導入するための適切な環境構築について実証的研究を行った。本論文は,その成果を以下の4章にわたって論述し,考察したものである。
第T章:建築物の高付加価値化を目的とした生物機能導入とその環境構築の課題
  建築物の役割が,初期の単純なシェルターとしての役割から多機能化・高機能化が求められるに至った社会的,歴史的背景を概観し,その目的を達成するための試みについて論述した。特に建築物の高付加価値化を目的とする生物機能の導入と課題について詳述した。
第U章:多雪寒冷地ドーム施設においてサッカー競技開催のための天然芝導入環境の構築技術に関する研究
  多雪寒冷地の建築物へ生物機能を導入し高機能化を図る例の一つは,ドーム施設の天然芝フィールドでサッカー等の競技を通年で実施することである。そのためには十分な日照を確保すること,及び積雪期に対応できることが必要であるので,フィールドを可動式とすることを想定し,可動機構への負荷低減のための土層軽量化と天然芝の健全な生育確保を両立できる土層仕様を探索し確立した。また積雪期におけるフィールド天然芝の維持管理,及びフィールドの通年利用を目的とする冬期融雪利用のための天然芝維持管理について実証実験を行い,その成果について論述し,考察した。
第V章:地域環境へ配慮した建築においてビオトープ(生物の生息空間)創出のための緑地環境構築に関する研究
  建築物の高付加価値化を目的とする生物機能導入に関するもう一つの代表例はビオトープの構築である。本章ではビオトープを建築物外構緑地に設置する場合の計画手法について,設置環境に適合した生態環境計画を行うため,鳥類の生息環境に関する従来の基礎研究成果を適用した生態環境データベースツールを構築した。また,学校および生産施設へのビオトープ設置について実証的研究を行なうとともに,その効果検証について論述し,考察した。
第W章:循環型社会に対応したリサイクル推進のための微生物利用環境の構築
  第U章及び第V章に述べた育種・生態的観点からの研究に加えて,循環型社会を指向する生物工学的な有機物資源化と再利用の環境構築も建築物高付加価値化を目的とする生物機能導入の一例と位置づけられる。例えば水産加工施設から排出される加工残滓には多種類で多様な有用物質が含有されているものの,適当な環境整備と技術開発が成されていないために廃棄物として投棄されている現状にある。本章においては微生物機能を利用して北海道の特徴的水産物であるイカ加工残滓から有用物質を抽出し資源化するための実証的研究成果と,実用化を踏まえた微生物探索並びに反応環境構築について論述し,考察した。

論文審査結果の要旨

 建築物内部及びその周辺に適正な環境を構築することにより,建築物の高機能化と建築物周辺の環境調和を図ることが可能となる。生物機能の導入も,このような目的に不可欠な適正環境要素の一つであるが,不確定因子の多い生物を工学的に扱う事が困難であるため研究例も比較的少ない。本論文は,生物が有する制約条件を踏まえて生物機能を導入することにより,建築物の高機能化と建築物周辺の環境調和を目的として行なった研究成果に関して4章にわたって論述している。すなわち第T章(「建築物の高付加価値化を目的とした生物機能導入とその環境構築の課題」)では,建築物及びその周辺に生物機能を導入して高機能化と環境調和が求められるに至った背景を論述し,さらに諸外国における具体的な試みを紹介するとともに解決すべき課題について考察している。第U章(「多雪寒冷地ドーム施設の通年使用を目的とする天然芝フィールド導入に関する研究」)では,多雪寒冷地のドーム施設に天然芝を導入して通年利用するための条件を育種,土壌,及び構造力学の諸観点から詳細に検討し,それらの結果に基づいて軽量可動式天然芝フィールドを建設するなど実証的試験の成果について論述と考察を行なっている。また第V章(「地域環境へ配慮した建築におけるビオトープ創出のためのデータベース構築に関する研究」)では,環境調和を目的として建築物周辺にビオトープを設置する場合の計画手法について論述した後,計画実現のための生態データベース構築について詳述している。また構築したデータベースの有効性に関する実証試験成果について論述し,考察している。さらに第W章(「循環型社会のための微生物機能導入における管理環境構築に関する研究」)では,循環型社会を指向する生物工学的な有機系廃棄物資源化の環境構築について論述している。特に第W章においては,新たに「管理環境」の概念を導入し,具体的な生物機能の開発成果と合目的的機器導入による建築物及び周辺における管理環境構築と環境調和について行った実証試験について論述して詳細に考察している。以上のように,本論文に述べられる研究には工学的に新たな知見が数多く含まれ,またその成果は科学技術の発展に大きく寄与すると考えられることから,博士(工学)の学位を授与するに十分価値あると判断される。