氏    名  佐々木 哲 之 (ささき てつゆき)

学位論文題目  要介護高齢者のための住宅改修の事後評価に関する建築計画的
        研究


論文内容の要旨

  本研究は,要介護高齢者のための住宅改修に対する事後評価に関して調査・分析している。介護保険制度の公的資金が有効に活用され,住宅改修が高齢者の自立支援としての役割を担うには,高齢者ADLと住宅改修の適合性,そして住宅改修が要介護高齢者・介護者に与える効果や負担の軽減に対する達成の度合いを把握する必要があると考える。
  基礎資料として介護保険制度を利用して実施された住宅改修の現状について改修申請書等の関係資料を基に整理して,要介護度属性と改修工事種目の関係,改修工事種目と住空間の関係などから改修工事の要介護度による特徴を分析した。さらに,住宅改修の施工前後による要介護度の変化など高齢者に対する影響を探った。
  実態調査として,北海道の2地方都市において,要介護高齢者・介護者の改修に対する評価の調査をアンケート形式で実施した。介護保険制度による住宅改修に対する高齢者の自立への援助と介護者に対する負担の軽減に対する達成の度合い等について集計・分析を実施した。結果,住宅改修工事に対しての高い満足度,要介護者の生活行動への安心感,身体的・精神的負担の軽減,など高い評価が得られた。一方,「要介護3の高齢者」に与える満足度・効果が各カテゴリーにおいて,要介護度中,最も低い割合であることが判明した。さらに,「住居改善」の範囲を介護保険制度の住宅改修に限らず部屋や家具の移動までを含めたものまで拡大し,質問項目においても自由度を高めた調査を実施した。結果,「経路行動」に関する住居改善よりも,「目的行動」に関する住居改善が多く実施されていることが判明した。また,高齢者が住宅改善に対する「目的」と改修後に自己認識された「効果」について比較し,7割以上の期待通りの高効果が得られた。
  実証的分析のために,「要介護3の高齢者」に視点をおき,高齢者宅における要介護者の生活行動の実態調査を行った。「目的行動」を行う住空間の改修は実施されているが,「経路行動」を行う住空間の改修は不備であった。また,障害箇所数は全てが「経路行動」の動線上に存在し,1住戸の障害箇所数の平均は4.5箇所であった。高齢者は,改修による自力行動の増加を「目的行動」では認識しているが,「経路行動」での増加の認識はない。日常生活における行為は「目的行動」と「経路行動」が連動されて完結するものであり,高齢者は「経路行動」において自力行動の増加を認識できないため,行為に対する『自立感』をもてないと思われる。また,高齢者の「自立」に対する意欲は高く,改修による「出来る」ことへの期待と改修後の実際の行動との間にギャップが生じ不満を感じたと思われる。さらに,調査高齢者宅において多くの高齢者が「寝室」の配置の変更を希望していた。高齢者の動線を優先し各室の配置の変更を考慮した場合,将来的に高齢者のADLの低下にも対応できる予防的な改修が実現できると思われる。このように,高齢者の動線を良くすることがより良い住宅改修につながる事例も見られた。
高齢者が必要とする効果的な改修を促進させることで生活の質の向上が期待でき,さらに,高齢者の『自立』に対する意欲を消さない中・長期的な展望がもてる住宅改修が可能になると考える。

論文審査結果の要旨

  本研究は,要介護高齢者がより支障なく在宅生活を継続するために実施した住宅改修の現状と効果を調査・分析して,要介護高齢者と介護者の身体的負担や心理的負担等がどの程度軽減されるか把握し,自立支援や介護予防につながる住宅改修のあり方を明らかにすることを目的としている。
  まず,北海道の地方都市において,介護保険への住宅改修支給申請があった近年4年間の改修住宅の申請資料を基に,要介護度(要支援・要介護1〜5)別に工事種目・部位・スペースを整理して,改修工事の特徴を分析している。
次に,上記基礎資料をもとに,要介護高齢者と介護者の改修に対する事後評価調査と,介護保険利用の改修以外の部屋配置換えや家具移動まで含めた「居住改善」調査の2つの調査を実施している。住宅改修は(1)要介護者・介護者の両者に満足と安心感を与え,身体的・心理的負担の軽減に役立っているが,(2)要介護度別に見ると部分介助が必要な要介護3高齢者は改修満足度が極立って低いこと,(3)入浴・排泄等の目的動作に対して移動動作の改善が低いこと,が明らかにされている。
  そこで,要介護3高齢者住宅の観察調査を行ない,居室から食事室・浴室・トイレへの「移動動作」の障害箇所が観察調査住宅で平均4〜5箇所あることを割り出すとともに,トイレ・浴室の近くに寝室を配置換えすることにより移動動作の障害解消可能なケースが多く,要望も強いことを実証的に分析して,この居室配置換えを介護保険利用の改修種目に加える必要性を指摘している。さらに,居室配置換えを実現するには,ケアマネージャーがケアプラン作成時点に住宅各室の用途や住まい方を点検して常に改善点の検討を欠かさないこと,専門職(建築士・理学療法士等)によるバックアップ体制づくりが急務であることを調査分析を踏まえて指摘している。
  要介護高齢者の自力動作拡大を図る住宅改修について実証的分析から説得力ある提案をしている本論文は,博士(工学)の学位論文に値するものと認められる。