氏    名  大橋 智志 (おおはし さとし)

学位論文題目  3D-MRAデータを対象とする携帯型医用画像観察システムの研究


論文内容の要旨

  現在,少子高齢化の急速な進展や医療費の増大といった医療環境の背景から,我が国は国家戦略の先導的分野として医療のIT化や電子カルテの普及を掲げ,医療サービスの向上と医療の質の向上を両立するように進めている。医用画像を取り巻く現場では,日々大量に発生するモダリティ画像を読影する読影医の不足が問題となっており,遠隔画像診断システム等のサービスが広まりつつある。医用画像の参照において即時性と機動性を必要とする場合では,ノートPCやPDA等の携帯型端末を利用する期待や要望がある。
  癌,心疾患に次いで国内の死亡順位(2006年現在)の第3位となる脳血管障害の画像診断法としては,磁気共鳴血管撮像法(MRA:Magnetic Resonance Angiography)が利用されている。このMRAは非侵襲的に血管の形態学的評価が唯一可能であり,広く臨床に浸透されるとともに脳ドックを含めたスクリーニング検査で頻用されている。脳血管系の形状及びその走行は複雑な3次元構造になるため,頭部3D MRAデータから血管構造を認識・抽出,表現・表示することには大きな意義がある。
  本研究の目的は,一般の診察部門において3D MRAデータを表示するような環境にいる医療従事者のための新しい3次元可視化手法とユーザインターフェースを搭載した携帯型の医用画像観察システムの実現である。本論文では,はじめに,試作したシステムで用いる脳血管系の走行を表す“血管走行線”の生成方法について検討した。次に,本研究のオリジナリティとなる血管走行線を基準とした断面の位置決め手法,血管走行線と位置決めによって決定された断面を組み合わせた3次元表示および血管走行に従う連続断面変換表示の3次元可視化手法について検討した。結果より,インフォームド・コンセプト等での利用を想定した携帯型医用画像観察システムにおいて,人体内部の解剖学的構造物のひとつである血管の走行を利用した3次元可視化とそのユーザインターフェースを,ノートPC程度のハードウェア性能でリアルタイムかつインタラクティブに実現した。
  本論文は,病院や診療所の診察室における患者への診断・検査結果の説明と同意(インフォームド・コンセプト)での利用に主眼をおき,頭部3D MRAデータを対象とする携帯型の医用画像観察システムについて研究した成果をまとめている。本システムは,解剖学的な血管情報と医用画像情報を解剖学的知識のない人に対しても視覚的に理解しやすいように工夫された,3次元可視化とそのユーザインターフェースを実現した。

論文審査結果の要旨

  本論文は,脳ドックなどの臨床検査で多用されるMRI血管強調画像撮像法(Magnetic Resonance
Angiography:MRA)で得られる3次元MRA画像データを対象にした,医療関係従事者向けの携帯型医用画像観察端末の研究および開発について記述されている。具体的には,1).脳血管網を表現する血管走行線を得るために既存の各種画像処理を評価・統合し,2).血管走行線参照基準に解剖学的知見に基づいた断層像生成の位置指定を行うオリジナルなユーザ・インターフェイスを検討・試作して,3).ノートPCを利用した画像観察時の即時性と機動性なども含めたユーザ・インターフェイスの評価を行うとともに,4).臨床応用ソフトの例として血管走行に従う連続断面変換表示の考案と実装を行っている。
  本研究で示された携帯型医用画像観察システムの画像診断時における有効性判定には臨床現場での実証試験が不可欠であるが,患者への検査結果の説明(インフォームドコンセプト)の支援ツールや医療従事者教育分野での用途などにおいては,高い利用価値が見込まれる。よって,本研究の成果が医用画像工学に与える貢献等を考慮し,本論文は博士論文として認められる。