氏    名  雨海 有佑 (あまかい ゆうすけ)

学位論文題目  構造不規則型Ce合金の強相関電子物性


論文内容の要旨

  Ceなどの希土類元素を含む金属間化合物では,重い電子状態などの多彩な強相関電子状態を示す。この様々な物性の出現には,Ce等の希土類金属が周期的に配置し,f電子がコヒーレンスを保つことが重要とされ,純良な単結晶による実験研究が行われてきた。一方,構造不規則型合金に関しては,磁性材料の観点から局在モーメントを持つ希土類合金が研究対象とされており,構造不規則性を有する強相関f電子物質については多くの知見が得られていないだけでなく,その存在すら明らかではない。本研究ではCeを基としてCeと結晶化合物を持たない磁性金属のMnを相手元素とした構造不規則型(a-)CexMn100-x合金と,Ceと結晶化合物を持ち,局在モーメントを持ちにくいRuを相手元素としたa-CexRu100-x合金の2元構造不規則型合金を幅広い組成範囲でDC高速スパッタリング法により作製し,非ブロッホ状態における強相関4f電子状態を探るため,電気的・磁気的及び熱的物性を観測した。各合金の磁化率から,a-Ce-Mn合金のCe低濃度(x<50at%)の範囲では低温で,スピングラス的振る舞いを示し,a-Ce-Ru合金ではCe濃度39at%以下で超伝導(Tc〜3.6K)を示した。これらの振る舞いは,Ce濃度の増加によって消失し,Ce高濃度側では常磁性的振る舞いを示す。低温比熱はすべての組成においてγTに従い,その係数γはCe濃度と共に増大し,Ce高濃度側でγ〜200mJ/Ce-molK2と通常金属に比べ100倍以上もの値を示した。Ce高濃度側の電気抵抗の低温領域において,ρ〜AT2に従う傾向が観測され,その係数Aは非常に大きい。Ce高濃度におけるこれらの結果は,重い電子の特徴的な振る舞いであり,非ブロッホ状態においても強相関f電子の存在が示唆される。この重い電子的な振る舞いを明らかにするために,a-Ce-Mn合金のMn濃度を固定し,Ceに対し同じ希土類元素で4f電子を持たないYで置換した,a-CexY80-xMn20合金を作製し,同様な物性測定を行った。Ce濃度が51at%以上の電気抵抗で,温度の減少と共に高濃度近藤効果に伴う-logT依存性が観測された。Ce濃度が62at%以上では,さらに温度が減少すると,極大を示した後T2依存性を示した。このことは,CeCu6などに代表される常磁性の重い電子系化合物に観測される振る舞いであり,非ブロッホ状態における重い電子状態の形成を示すものとみられる。また,重い電子の指標とされるγとAからなるKadowaki-Woods(KW)プロットをa-Ce-Mn,a-Ce-Ru,a-(Ce,Y)-Mn合金に対し作成した結果,最近の理論研究によって提案されている軌道縮退を考慮したKW則に従うと考えられる。

論文審査結果の要旨

Ceなどの希土類元素を含む金属間化合物では,重い電子状態などの多彩な強相関電子状態を示す。この様々な物性の出現には,Ce等の希土類金属が周期的に配置し,f電子がコヒーレンスを保つことが重要とされ,純良な単結晶による実験研究が行われてきた。そのため,構造不規則性を有する強相関f電子物質については,その存在すら明らかではない。本論文は,DC高速スパッタ法を用いて,2元希土類構造不規則型合金(a-)CexMn100-x,およびa-CexRu100-xを作製し,非ブロッホ状態における強相関4f電子状態を,電気的・磁気的及び熱的物性から明らかにした実験研究である。
構造不規則性合金a-Ce-Mnおよびa-Ce-Ruの磁化,電気抵抗および比熱測定の結果,a-Ce-Mn合金のCe低濃度側(x>50at%)では,スピングラスを示すことがわかった。a-Ce-Ru合金のCe低濃度側
(x39at%)では,超伝導(Tc〜3.6K)を示した。これらの振る舞いは,Ce濃度の増加によって消失し,両合金ともCe高濃度側では,常磁性的振る舞いを示す。低温比熱はすべての組成においてγTに従い,その係数γはCe濃度と共に増大し,Ce高濃度側でγ〜200mJ/Ce-molK2と通常金属に比べ100倍以上もの値を示した。また,電気抵抗の低温領域において,ρ〜AT2に従う傾向が観測され,その係数Aは非常に大きい。Ce高濃度におけるこれらの結果は,重い電子の特徴的な振る舞いである。a-Ce-Mn合金の重い電子的振る舞いを明らかにするために,Ceを同じ希土類元素で4f電子を持たないYで置換したa-CexY80-xMn20合金を作製し,同様な物性測定を行った。その結果,Ce濃度51at%以上で重い電子的振る舞いが観測された。このことは,Ceの濃度に従いCe4f電子が強い相関を持つことを示し,非ブロッホ状態における強相関4f電子の存在を示唆するものである。また,Ce高濃度合金に対し,重い電子の指標とされるKadowaki-Woods(KW)プロットを作成し,最近の理論研究によって提案されている,軌道縮退を考慮したKW則に従うことを明らかにした。
以上,著者は構造不規則性Ce系合金の試料作製に成功し,各種物性測定より,並進対称性のない非ブロッホ系においても強相関4f電子が存在することを明らかにした。これらの結果は,Ceを含む希土類金属化合物における特異な電子状態と磁気的性質を理解する上で,新たな知見が得られたものであり,著者は学位を授与される資格があるものと認める。