氏    名  大田 彩子 (おおた さいこ)

学位論文題目  ステンレス鋼SUS304の乾式切削に及ぼすプラズマ照射およびオレ
        イン酸塗布の影響に関する研究


論文内容の要旨

  近年,球状黒鉛鋳鉄の薄肉化の要望は強いものがある。しかし,良好な薄肉球状黒鉛鋳鉄を簡便に溶製する方法も,強度評価法も確立されていない。
  そこで,本研究では薄肉球状黒鉛鋳鉄の新製造法の開発と微小試験片による強度評価を行なった。特に球状黒鉛鋳鉄は強度部材として用いられるので,強度評価はスモールパンチ(SP)試験法によるじん性評価と微小衝撃試験による衝撃特性評価を行なった。
  接種剤は球状黒鉛鋳鉄の溶製には必ず用いられるものであるが,接種剤添加後,急激な溶存酸素量の低下が確認されている。低溶存酸素量の溶湯で鋳込むとチル無しで薄肉球状黒鉛鋳鉄を溶製する事ができる。そこで,本研究では接種剤を0.5mass%以上添加することにより,溶湯中の黒鉛粒数が多くなり,パーライト率が減少することを明らかにした。また,工場のような大きな取鍋においても効果が確認された。
  鉄鋼業において現在行われている脱ガス技術の一つが,溶鉄中にArガスを吹き込むという方法である。また,鋳鉄においては接種効果が改良される事が知られている。そこで,鋳鉄溶湯にArガスの吹き込みを行い,薄肉球状黒鉛鋳鉄の組織及び黒鉛粒数にどのような影響を与えるかについて調査した。その結果,Arガス吹込みにより,黒鉛核晶出能が上がり共晶セル数を増加させることが出来た。また,Arガス吹込み後の溶湯に球状化処理を行うと,黒鉛粒数,黒鉛粒径及びフェライト面積率が増加し薄肉球状黒鉛鋳鉄を溶製することができた。
  さて,薄肉球状黒鉛鋳鉄は黒鉛粒数を1500個/mm2ほど有している。この特徴はじん性や衝撃吸収エネルギーに影響を及ぼすと考えられるが,数mmの肉厚のため一般的な評価法を使うことが出来ない。スモールパンチ(SP)テストと微小シャルピー衝撃試験は小さく薄い厚さでも機械的性質を特定出来る試験である。そこで微小試験片を用いた衝撃試験及びじん性試験を行なった。衝撃特性も破壊じん性も基地組織がパーライト率の高い場合は黒鉛粒数による影響は認められなかった。しかし,パーライト率が低い場合は黒鉛粒数の多い薄肉球状黒鉛鋳鉄のほうが低い衝撃吸収エネルギー及びSPエネルギーだった。基地組織がぜい性的な場合は黒鉛とは関係なくき裂が基地組織を進展するのに対し,延性的な場合は黒鉛が破壊の基点となるため,黒鉛間距離の短い薄肉球状黒鉛鋳鉄のほうが低い特性になったと考える。

論文審査結果の要旨

  近年,球状黒鉛鋳鉄の薄肉化の要望が強い。しかし,良好な薄肉球状黒鉛鋳鉄を簡便に溶製する方法も,強度評価法も確立されていない。
  そこで,本研究では(1)薄肉球状黒鉛鋳鉄の新製造法の開発,(2)微小試験片による強度評価法の確立の2点を明らかにすることをねらいとした。なお球状黒鉛鋳鉄は強度部材として用いられることから,強度評価はスモールパンチ(SP)試験法によるじん性評価と,微小衝撃試験による衝撃特性評価を行なった。
  接種剤は球状黒鉛鋳鉄の溶製には必ず用いられるものであり,接種剤添加後,急激な溶存酸素量の低下が確認されている。低溶存酸素量の溶湯で鋳込むと,チル無しで薄肉球状黒鉛鋳鉄を溶製できることが知られている。そこで本研究では,接種剤を0.5mass%以上1.0mass%以下添加することにより,溶湯中の黒鉛粒数が増大し,マトリックスのパーライト率が減少することを明らかにした。また,上述の接種量が最適であることを確認するために,実操業における接種剤添加法を検討した。その結果,接種後の時間経過にともなってその効果が減衰するいわゆる「フェーディング現象」が確認された。その対策として,接種後注湯までの時間を最短にする「注湯流接種」を提案し,フェーディング現象の抑制と,チル無し薄肉球状黒鉛鋳鉄の溶製が確認された。
  薄肉球状黒鉛鋳鉄は黒鉛粒数を1000個/mm2程度有している。この特徴はじん性や衝撃吸収エネルギーに影響を及ぼすと考えられるが,数mmの肉厚のため一般的な評価法を使うことが出来ない。スモールパンチ(SP)テストと微小シャルピー衝撃試験では小さく薄い厚さでも機械的性質を評価できる。そこで微小試験片を用いた衝撃試験及びじん性試験を行なった。衝撃特性も破壊じん性も基地組織がパーライト率の高い場合は黒鉛粒数による影響は認められなかった。しかし,パーライト率が低い場合は黒鉛粒数の多い薄肉球状黒鉛鋳鉄のほうが低い衝撃吸収エネルギー及びSPエネルギーを示した。基地組織がぜい性的な場合は黒鉛とは関係なくき裂が基地組織を進展するのに対し,延性的な場合は黒鉛が破壊の基点となるため,黒鉛間距離の短い薄肉球状黒鉛鋳鉄のほうが低い特性になったと考える。
  以上の成果は日本鋳造工学会誌「鋳造工学」に掲載され,自動車部品の薄肉軽量化に寄与する点が大であるとの評価を得ている。実験内容が豊富であり,かつ現象の理論展開も明快であり,博士(工学)に相応しい論文であると認められる。