氏    名  亀谷 宏美 (かめや ひろみ)

学位論文題目  放射線照射glucose polymerの電子スピン共鳴法による解析


論文内容の要旨

  自然物由来の食品や生薬は微生物により汚染されやすい。γ線照射は食品や生薬への殺菌技術として用いられている。本論文は,電子スピン共鳴(ESR)法を使用してセルロース,デンプン,生薬のγ線照射殺菌前後における各々のラジカル種を明らかにした。さらに,EU公定法にて定められるESR検知法を改良した外挿法による照射検知定量法を確立した。また,改良したESR検知法が酸素によりどのような影響を受けるかを詳細に検討した。
  セルロースとデンプンのESRスペクトルの主な信号は,g=2.0の有機フリーラジカル由来の一本線である。γ線照射により,g=2.0の一本線の信号強度は増大した。さらに,セルロースのESRスペクトルにおいて新規信号が観測された。この新規信号はg=2.0の一本線のサイドに対称の位置で観測された。サイドピークはセルロースで観測されたが,デンプンでは観測されなかった。これにより,照射により発現する新規サイドピークはセルロース由来の信号であると結論した。
  生薬の一種である朝鮮人参のESRスペクトルは,最も鋭く強いg=2.0の有機フリーラジカル由来の一本線,Mn2+の超微細構造線による六本線,Fe3+由来の一本線により構成される。γ線照射により,g=2.0の一本線の信号強度は増大した。さらにg=2.0付近に新規サイドピークを観測した。生薬としても使用されるアガリクスのESRスペクトルは,本質的に朝鮮人参と同様の構成であった。しかし,アガリクスにおいてはg=2.0付近に新規サイドピークを観測できなかった。
  本論文において,改良型ESR検知法を開発し,外挿法による照射検知定量法を提唱した。朝鮮人参を用いて改良ESR検知法による定量を実際運用した。朝鮮人参のESR測定結果よりESR信号強度と照射量の間に線型関係があることが判明した。それによって,未知照射処理量を線型外挿法によって定量することができた。
  改良型ESR検知法における,酸素存在下と無酸素下での緩和時間の影響をアガリクスを用いて検討した。無酸素下つまりアルゴン雰囲気下では,アガリクスのT1の値は酸素存在下より倍の値を示した。T2の値は酸素の存在の有無に関わらず一定に保たれた。酸素の存在は緩和時間に影響を及ぼし,無酸素下でのESR測定は照射食品や生薬のラジカル構成を明瞭に示した。

論文審査結果の要旨

  本論文では,照射食品並びに照射された生薬中に誘起されるラジカルの量子力学的特性と新規物理現象の発見を目的として,電子スピン共鳴(ESR)法を用いラジカルの同定を行っている。即ちセルロース,デンプン,生薬の線照射殺菌前後における各々のラジカル種を明らかにした。さらに測定の方法論についても,EU公定法にて定められるESR検知法を検討し,磁気緩和現象を基礎とした,外挿法による照射検知定量法を確立した。
  本研究において,セルロースとデンプンの有機ラジカル由来のESRスペクトルはg=2.0の有機フリーラジカルの一本線が同定された。このg=2.0の一本線の信号強度はγ線照射により増大した。これと同時に照射によってESRスペクトルにセルロース由来の新規信号が観測された。g=2.0の一本線に対称に位置する二本の(サイドピーク)信号である。このサイドピークはセルロースで観測されたが,デンプンでは観測されない。従って照射により発現する新規サイドピークはセルロース由来であることを発見した。
  朝鮮人参は著名な生薬で,そのESRスペクトルは,g=2.0の有機フリーラジカル由来の一本線,Mn2+の超微細構造線による六本線およびFe3+由来の一本線からなる。γ線照射により,g=2.0の一本線の信号強度は増大した。さらにg=2.0付近に新規サイドピークを観測した。生薬の一種であるアガリクスのESRスペクトルは,本質的に朝鮮人参と同様である。セルロース含有が希少なアガリクスではg=2.0付近のサイドピークは観測されない。
  本論文では,既にEUで提唱され世界的に使用されているESR検知法(EU公定法)を磁気緩和の観点から検証した。その結果,1)EU公定法でのマイクロ波強度の決定における誤謬と新規処置法および2)外挿法による照射検知定量法の開発を行った。前者によりESR測定に使用するマイクロ波強度の合理的決定法が与えられた。また後者によって,今まで不可能とされた,食品の照射量の直接決定法が世界に先駆けて開発された。朝鮮人参のESR測定結果よりESR信号強度と照射量の間に線型関係があることが判明し,これによって未公表の照射処理量を外挿法によって定量できた。
  以上の結果は,物理工学ないし創成機能科学分野における新知見を与えている。また,数年後に予想される我国の食品の照射殺菌における,照射履歴の検知法の基礎を与えるものであり,工学的価値が極めて高い。よって,本提出論文が博士学位論文に値すると判断される。