氏    名  齋藤 淳 (さいとう あつし)

学位論文題目  新規化合物AgYbO2の作製と電子物性に関する研究


論文内容の要旨

 本研究は,デラフォサイト型構造を有する新規なAgYbO2および物性報告のないAgAlO2を作製するため,イオン交換法および水熱合成法によりその作製条件を検討し,それぞれの結晶構造と電子構造,光学的・電気的性質を明らかにした。またそれらを既存のデラフォサイト型酸化物と比較しその位置付けを行った。本論文は五章より構成され,その概要は以下に記すとおりである。

  第1章では本研究の目的および論文構成を述べ,デラフォサイト型酸化物の結晶構造,諸特性,作製方法について従来の研究報告をまとめた。
  第2章ではイオン交換反応に用いる前駆体としてLiYbO2,NaYbO2の作製を行った。得られたNaYbO2の原子座標を初めて明らかにした。また,不純物添加NaYbO2の作製を行った。得られた不純物添加NaYbO2はX線回折測定結果を用いリートベルト解析を行った。不純物の固溶はSnにおいて5at%,Caにおいて15at%まで確認した。
  第3章ではAgAlO2の作製を水熱合成法により行った。得られたAgAlO2の原子座標を初めて明らかにした。また,AgYbO2の作製をイオン交換法により行った。AgYbO2の結晶系,空間群,格子定数,原子座標を初めて明らかにした。またAgYbO2の作製において,イオン交換反応の前駆体にはLiYbO2よりもNaYbO2が適していることを明らかにした。
  AgAlO2,AgYbO2は既存のデラフォサイト型酸化物と同様にa軸長さがBサイトのイオン半径のみに依存することを明らかにし,Bサイトのイオン半径が大きくなるに従いA-O結合間距離が短くなる傾向を,今までに報告のなかったBサイトのイオン半径が最も小さいAgAlO2,最も大きいAgYbO2を作製し比較することにより確認した。またLDAを用いた計算によりその傾向が再現できることを明らかにした。また密度汎関数に基づくバンド計算を行いAgAlO2,AgYbO2のバンド構造を初めて解析し両者の電子状態を明らかにした。
  第4章ではAgAlO2およびAgYbO2の光学的・電気的性質を調査した。紫外可視分光測定の結果,AgAlO2は直接遷移で4.1eV,間接遷移で1.9eV,AgYbO2は直接遷移で3.8eV,間接遷移で1.1eVであることを初めて明らかにした。また熱起電力測定の結果,AgYbO2がp型の伝導特性を示すことを初めて明らかにした。電気伝導度測定の結果,AgAlO2,AgYbO2は他のCu,Ag系デラフォサイト型酸化物と同様に,測定温度の上昇に伴い電気伝導度が増加する半導体的な特性を示し,その電気伝導度は300KにおいてAgAlO2で2.1×10-5Sm-1,AgYbO2で2.0×10-5Sm-1であることを明らかにした。
  第5章では本研究において得られた成果について要約している。

論文審査結果の要旨

  近年,フラットパネルディスプレイが急速に普及している。その透明電極に用いられるITO(Indium Tin
Oxide)中のInの枯渇が懸念されており,代替材料の探索は急務である。デラフォサイト型CuAlO2の薄膜はp型の透明導電性を示すと報告され,その他のデラフォサイト型酸化物の透明導電性に興味がもたれるが,本研究では物性報告のない同型AgAlO2およびAgYbO2に着目しその作製と評価を行った。
AgAlO2は水熱合成法により,またAgYbO2はNaYbO2を用いたイオン交換法により作製した。リートベルト解析を行った結果,AgAlO2およびAgYbO2の結晶系,空間群,格子定数,原子座標が明らかになった。AgAlO2,AgYbO2は既存のデラフォサイト型酸化物と同様,Aサイトのイオン半径が大きくなるとc軸が長くなり,Bサイトのイオン半径が大きくなるに従いa軸が長くなることがわかった。得られた結晶学データを基にCASTEPによる第一原理電子状態計算を行い,AgAlO2,AgYbO2のバンド構造を解析し両者の電子状態を明らかにした。
AgAlO2およびAgYbO2について光学的・電気的性質を調べた結果,AgAlO2は4.1eV,AgYbO2は3.8eVの光学バンドギャップを示した。AgAlO2,AgYbO2は他のCu,Ag系デラフォサイト型酸化物と同様に半導体的な性質を示し,室温における電気伝導度はAgAlO2で2.1×10-5Sm-1,AgYbO2で2.0×10-5Sm-1であることを明らかにした。また熱起電力測定の結果,AgAlO2がn型,AgYbO2がp型の伝導特性を示した。
AgAlO2およびAgYbO2を含めたAgMO2とCuMO2(MはVまたは]V族の元素)の透明導電性を比較した結果,光学バンドギャップはAgMO2の方がCuMO2よりも大きい値を示した。AgMO2,CuMO2のホールの有効質量が小さい方が高い電気伝導度を示すと考えられるが,解析で得られた有効質量はM元素に依存し,]V族の元素の方がV族のそれよりも小さな有効質量を示した。また電子の有効質量においても同様の傾向が見られた。以上から]V族のM元素を含むAgMO2がCuAlO2を上回る透明導電性を示す可能性が示唆された。
本研究は物性報告のないAgAlO2および新規化合物AgYbO2を作製し,その構造と電子物性の関係を考察し,今後のICTを支える新たな透明導電性物質の探索に道を開いた。
よって,本論文は博士(工学)の学位論文に値するものと判断する。