氏    名  部田 茜 (とりた あかね)

学位論文題目  ホタテガイ貝殻に含まれる有機成分の皮膚組織に対する
        生理活性作用


論文内容の要旨

本博士論文は,水産系廃棄物ホタテガイ貝殻の新規有効利用法の開発を目指し,貝殻中に含まれる成分の皮膚組織に対する生理活性作用について研究成果を記した論文である。

本論文は3章より構成され,各章において以下の研究成果を記している。
第1章 背景および目的
第2章 ホタテガイ貝殻に含まれる有機成分の皮膚組織に対する生理活性作用
第3章 討論および実用化に向けた課題

第1章:ホタテガイ貝殻は北海道において,毎年20万トンにも及ぶ量が水産系廃棄物として処分されており,大きな問題となっている。ホタテガイ貝殻は98%以上が炭酸カルシウム,残り数%が蛋白質,糖などから構成されていることから,炭酸カルシウムに着目した有効利用例がほとんどであった。私はホタテガイ貝殻中に含まれる数%の微量成分に着目し,これらの成分の利用を目指し生理活性作用の探索を行った。
  皮膚組織は,角化細胞などからなる表皮と線維芽細胞を含む真皮からなる(下図)。表皮の基底層にある角化細胞は増殖を行うことによって,皮膚表面にある古くなった細胞(角層)を新たな細胞へと置き換える(ターンオーバー)。加齢や紫外線などの影響を受けることによってこのターンオーバー速度は低下し,皮膚の乾燥,荒れ,表皮の肥厚などを生じ,しみやくすみの原因となる。また,真皮の線維芽細胞によって合成,分泌されるコラーゲン,エラスチンの弾性線維も紫外線や加齢にともなってその発現量の低下や構造の崩れが生じ,しわなどの原因となることが報告されている。


第2章:ホタテガイ貝殻より抽出した有機成分(以降,貝殻有機成分)が皮膚組織に対しどのような生理活性作用を示すのか,そしてその作用が加齢や紫外線傷害によって生じる皮膚の構造変化に対し有用であるかどうかをin vitro, in vivoの両面から検討した。
1)貝殻有機成分は培養ヒト皮膚真皮線維芽細胞の増殖を促進し,さらに線維芽細胞と共培養したヒト皮膚表皮角化細胞の増殖も促進することを見出した。また,この増殖促進作用は,線維芽細胞からの角化細胞増殖因子(KGF),角化細胞からのインターロイキン1(IL-1)の合成,分泌量の亢進によるものであることを明らかにした。
2)ラット皮膚を用いた実験においても貝殻有機成分はラット皮膚角層のターンオーバー速度を亢進すること,紫外線傷害を与えた皮膚の治癒速度を促進することを明らかにした。
3)貝殻有機成分は皮膚線維芽細胞,角化細胞において合成,分泌されるコラーゲンおよびヒアルロン酸合成を有意に促進していることを見出した。

第3章:貝殻有機成分は,皮膚組織の保護に有用な生理活性作用を示すことから,皮膚傷害の回復を促進する,あるいは皮膚老化を抑制する薬剤として有用であることを明らかにした。貝殻有機成分と同様に,コラーゲン合成促進作用や角層のターンオーバー速度の亢進作用を示すことが報告されているレチノイン酸は,皮膚のしわ改善やしみの除去の非常に有効な治療薬として使用されている。貝殻有機成分が示す生理活性作用は,レチノイン酸において報告されている効果に比べかなり低いことから,薬剤としての利用価値は低い。しかし,レチノイン酸の使用が認められておらず,緩やかな効果を示すことが望まれる化粧品素材として非常に有効であると考えられた。

論文審査結果の要旨

  北海道では年間約20万トンものホタテガイ貝殻が水産系廃棄物として産出され,その有効利用が強く望まれている。本論文は,ホタテガイ貝殻の付加価値の高い有効利用を目指し,貝殻中に含まれる有機成分(貝殻有機成分)がもつ生理活性作用について検討した成果を記している。論文は三章より構成され,各章において以下の研究成果が記されている。第一章では研究の背景と目的,第二章ではホタテガイ貝殻有機成分の皮膚組織に対する生理活性作用,第三章では実用化に向けた今後の課題について考察を行っている。第二章では,貝殻有機成分が示す生理活性作用について探索を行い,皮膚組織中の細胞に対し(1)〜(3)に示す生理活性を示すことをin vitro(培養細胞を用いた評価)およびin vivo(ラット皮膚を用いた評価)の両面から明らかにしている。
(1)ホタテガイ貝殻有機成分は,皮膚表皮に存在する角化細胞のターンオーバー速度(代謝速度)を亢進する。
(2)ホタテガイ貝殻有機成分は,皮膚真皮に存在する線維芽細胞から合成,分泌されるコラーゲンの発現量を増加する。また,皮膚表皮角化細胞から合成,分泌されるヒアルロン酸の発現量も増加する。
(3)角化細胞,線維芽細胞から分泌されるサイトカイン,角化細胞増殖因子,インターロイキン1の発現量を増加する。
  皮膚は老化に伴い,あるいは紫外線を浴びることによって皮膚の弾性,張りを維持するコラーゲンや皮膚中の水分維持のためにはたらくヒアルロン酸含量が減少する。また皮膚角化細胞のターンオーバー速度も減少し,皮膚のしわ形成や乾燥症の原因となることが知られている。そのため,ホタテガイ貝殻有機成分は皮膚を保護する、あるいは皮膚の老化を防ぐ物質として有効であり,化粧品素材として有効利用することができることを示している。また,ホタテガイ貝殻を化粧品素材として利用するために,貝殻に含まれる生理活性物質を同定すること,そしてその作用メカニズムをより詳細に検討することが今後の課題であると討論している。
  以上,本論文で得られた知見は北海道において大量に産出され,その処分に困っているホタテガイ貝殻の新規有効利用法を提案する価値ある成果と考えられる。よって本論文は博士(工学)の学位論文に値するものと判断する。