氏    名  福 多 賢太郎 (ふくた けんたろう)

学位論文題目  
ベイジアンネットワークを用いた感性モデリングに関する研究


論文内容の要旨 

 コンピュータとネットワークの急速な進化とユビキタス化により,人とコンピュータとの距離は縮まり続けている。その進化の方向は,「感性を如何に取得して処理を行い,ユーザモデルやネットワークサービスとして還元するか」に向けられている。人間の持つ人間らしさを表現する事物の全てに個人差がある。我々は多くの場合,なんらかの個人差を特徴付ける際に感性という言葉を使用する。「感性」はかなり抽象的な概念であり,概念に対する解釈レベルの違いによって感性が関与する事象は大きく形を変えるため,感性工学がカバーするべきドメインはかなり広大である(感性工学において,感情,感覚,疲労といった人の生理・心理的事象は浅い感性と呼ばれる)。そして,感性工学の1分野である感性モデリングは,感性を模倣したり推定したりする感性的事象を取り扱うことが可能なモデルをコンピュータ上に作り挙げるための方法論を指す。
  近年,情報工学分野において,システムが直接観測結果を得ることが困難なユーザの心理・生理的な内部状態を取り扱うことで,各ユーザに適したアクションを行うといったインテリジェントシステムに注目が集まっており,感性モデリングが担うべき役割も大きい。しかしながら,現状では浅い感性においてすら統一的に取り扱い,アプリケーションとして具体化するための決定的な方法論の確立には至っていない。これは一言で言うなれば,本質的な性質として感性的事象は不確実性を持ち,そのほとんどを確定的に扱えないことに由来する。
  本論文では,不確実性を含んだ問題領域を確率論的な枠組みによって記述する確率ネットワークの一つであるベイジアンネットワーク(BN)を応用して感性をモデリングする。問題領域としてはVDT作業中の作業者の疲労感における感性(どのように / どの程度 / どのような指標に疲労感を感じるか?)に焦点を当てた。その結果,不確実で主観的な疲労感の定量化に基づく評価と個人パターンとしての視覚化が可能となり,各ユーザの状態に合わせたアクションの決定も可能となった。
  本論文で提案する感性モデリング技法は,感性領域に対してのBNによる効率的な構造化の手段と,実践的なアプリケーションの根幹として働くモデルを与え,将来のより感性志向のインテリジェントシステムの基礎と成り得る事を示した。

論文審査結果の要旨

  近年,人の認知,感情,感覚,嗜好等,人間の持つ人間らしさを表現する事物の全てに個人差がある対象の評価に対して科学工学的方法論が求められてきた。我々はなんらかの個人差を特徴付ける際に感性という言葉を用いている。コンピュータとネットワークの急速な進化とユビキタス化により,人とコンピュータ/ネットワークとの距離は縮まり続けている。その進化の方向は,「より深い感性を如何に取得して処理を行い,ユーザモデルやネットワークサービスとして還元するか」に向けられている。特定のユーザの状態に特化したアクションをシステムが探るためには,ユーザの感性を評価するモデルが要求され,感情,感性,疲労等のシステムが直接観測結果を得ることが困難な内部状態を取り扱うことで,各ユーザに適したアクションを行うといったヒューマンシステムに情報工学分野では注目が集まっている。
  本論文では,不確実性を含んだ問題領域を確率論的な枠組みによって記述することで,観測された事象を元にして,他の対象の予測を可能とする確率ネットワークに着目し,中でもベイジアンネットワーク(BN)を応用した。そして,不確実性の大きい問題領域として,VDT作業中の作業者の視知覚疲労感に焦点を当て,疲労感における感性を評価し,各ユーザの状態に合わせたアクションを行えるモデルを構築した本論文で示した感性モデリングと構築された感性モデルは,不確実で主観的な感性の定量化と感性の個人パターンとして視覚化を可能とした上で,将来のより感性指向のヒューマンシステムの基礎と成り得た。
  本論文は7章から構成されている。第1章は序論で,研究背景,動機,目的とそのために行うべきことを記述している。第2章はこれからのユビキタス社会に関してまとめている。第3章は感性情報の観測と基礎的処理を記述している。第4章では開発するベイジアンネットワークとモデル化に関してまとめている。第5章では開発したソフトウェアについて解説している。第6章では視知覚疲労に関するモデルの適用を記述している。最終の第7章は構築したモデルによる個人の特徴の推定評価とまとめを行っている。
  このように,感性という主観的評価基準を工学的に扱う新たな方法論を提案したことは今後の感性工学分野への貢献が非常に大きいと考える。よって提出論文は,博士学位論文として価値があるものと認める。