氏    名  藤 井   勝 (ふじい まさる)

学位論文題目  ソーシャル・キャピタルに着目した地域交通の活性化方策に関する
        研究

論文内容の要旨

 これまでの交通工学研究は,交通施設整備のための地理学を援用したモデルなど供給側での研究と,時間価値変動の合理的個人を対象とした需要側での研究の大きく2分野から行われてきた。しかし,今後の少子高齢社会,財政制約下の不確実な時代が進行して行く中では,最近のソーシャル・キャピタル研究に見られるように,人間は,人と人がふれあうコミュニテイの豊かさを求め,認知という別次元空間の中で,効用の観点から比較的満足できるものを選択するといった効用関数変動型の行動をとってゆくものと考えられる。
そこで本研究は,活力有る持続可能な経済社会を構築する上で,ソーシャル・キャピタルに着目したアクティビティを拡大させるモデルを新たに構築し,供給側と需要側がコーデイネーションする新たなモビリティのあり方について提案することを目的とする。本研究で提案する「人と人とのネットワークモデル」の特徴は,従来の需供バランスを分析するといったモデルから,市民・民間が新たな公として参画することで,供給側と需要側がコーデイネーションした,地域の自立的発展を支援する新たな交通機能を取り入れたフレームとなっていることである。
 本論文は6章から構成されており,各章の内容は以下に示す通りとなっている。
 第1章では研究の背景,研究の目的,論文構成について述べている。
 第2章では,既往研究事例をレビューすることで,交通機能の変遷について整理するとともに,これまでの交通施設整備のための地理学を援用したモデルや交通需要分析のための効用モデルの課題について提示した。その上で,ソーシャル・キャピタルが介在したアクティビティの拡大といった従来の確率論からは記述できない新たな地域づくりのための人と人とのネットワークモデルのフレームを示した。
 第3章では,第2章で取り上げたモデルのうち多様な交通機能を記述するモデルとして時空間マップの手法を取り入れた活動分析や確率論を用いた時間信頼機能について論じ,地方にとって時間信頼機能が如何に重要であるかを示した。
 第4章では,時間価値変動の効用関数固定型モデルを活用し,需要を増大させるための交通機能の評価を行い,都市と農村との相互補完関係を支える今後の道路交通サービスありかたについて論じた。
 第5章では,地域の自立的発展を支援する交通機能を創出する人と人とのネットワークモデルを論じている。具体的には,マルチエイジェント・シミュレーションやグラフ理論を活用することで,アクティビティとソーシャル・キャピタルとの関係性を検証し,ソーシャル・キャピタルの衰退防止と地域の厚生を高める地域の自立的発展のためのモビリティのあり方について提案している。
 第6章では,各章で得られた知見を要約し,本論文の総括を行った

論文審査結果の要旨

  これまでの交通工学研究は,交通施設整備のための地理学を援用したモデルなど供給側での研究と,時間価値変動の合理的個人を対象とした需要側での研究の大きく2分野から行われてきた。しかし,少子高齢社会,財政制約下の不確実な時代が進行して行く中では,人々は効用関数変動型の行動をとってゆくものと考えられる。それは,ソーシャル・キャピタル研究に見られるように,人間は,人と人がふれあうコミュニテイの豊かさを求め,認知という別次元空間の中で,効用の観点から比較的満足できる選択をする行動である。
 本研究は,活力ある持続可能な経済社会を構築するために,ソーシャル・キャピタルに着目したアクティビティを拡大させるモデルを新たに構築し,供給側と需要側をコーデイネーションする新たなモビリティのあり方について提案することを目的としている。本研究で提案する「人と人とのネットワークモデル」の特徴は,従来の需供バランスを分析するといったモデルから,市民・民間が新たな公として参画することで,供給側と需要側がコーデイネーションした,地域の自立的発展を支援する新たな交通機能を取り入れたフレームとなっていることである。
 地域の自立的発展を支援する交通機能を創出する「人と人とのネットワークモデル」の提案では,具体的に,マルチエイジェント・シミュレーションやグラフ理論を活用している。この方法を用いてアクティビティとソーシャル・キャピタルとの関係性を検証し,得られたモデルのシナリオ分析からソーシャル・キャピタルの衰退防止と地域の厚生を高める地域の自立的発展のためのモビリティのあり方について提案している。
 以上を要するに本研究は,人口減少と少子高齢化が進んだ地方部を対象として,人々の繋がりの強さをソーシャル・キャピタルに着目して計測し,繋がりを強めるための地域交通のあり方を活性化方策として提案したものである。土木工学の分野に社会学のソーシャル・キャピタル論を初めて導入するとともに,対象地域の交通計画に有益な提案がされた。以上の理由から,著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められる。