氏    名  佐 藤 陽 介 (さとう ようすけ)

学位論文題目  アングル系鋼梁−柱接合部の静的弾塑性挙動特性に関する実験的・
        解析的研究

論文内容の要旨

本研究では,鋼骨組構造物の梁.柱接合形式の一つであるアングル系接合に着目し,その非線形な接合部剛性特性におよぼす接合部形状パラメータの影響を明らかにすることを目的として,アングル材柱側のゲージ長およびつま先長が異なる全6種類のトップ&シートアングル接合を対象に単調曲げ載荷実験および繰り返し載荷実験を実施した。さらに三次元弾塑性有限要素解析も併せて実施し,合理的な接合部剛性評価モデルの構築に向けた基礎的検討を行った。その結果,接合部モーメント M―相対回転角 (θr)特性は,柱側ゲージ長に大きく影響を受ける反面,つま先長による影響は非常に小さいこと,柱側ボルトを2列配置にすることにより,冗長性が期待できること,さらに M θr履歴特性は,柱側ゲージ長によって逆 S字型と紡錘型の2種類に大別され,高力ボルトの塑性化の影響と密接な関係があること等を実験的に明らかにしている。また,解析結果と実験結果を比較することにより,提案の解析手法の妥当性を検証している。その結果,本解析手法を用いることによって,鋼接合部の単調や交番載荷時における弾塑性挙動を適切に評価可能であることを明らかにしている。
論文の構成を示すと以下の通りである。
第1章では,研究背景,既往の研究および本研究の目的について述べている。
第2章では,トップ&シートアングル接合に関する概要および既往の接合部剛性評価法について述べている。
第3章では,トップ&シートアングル接合試験体の概要,実験方法および測定方法について述べている。
第4章では,トップ&シートアングル接合試験体に対する静的単調曲げ載荷実験結果について述べている。接合部
θr特性は柱側ゲージ長に大きな影響を受け,ゲージ長が長いほど初期剛性,最大耐力が低下すること,つま先長の影響はてこ作用の効果も含め非常に小さいこと,柱側ボルトを2列配置にすることにより,冗長性が期待できること,等を明らかにしている。さらに,既往の接合部評価法により算定された接合部初期剛性および曲げ耐力について,実験結果との比較・検討を行っている。
第5章では,第4章と同様の試験体に対する繰り返し曲げ載荷実験結果について述べている。接合部M ―θr履歴特性は,柱側ゲージ長によって逆S字型と紡錘型の2種類に大別されること,またそれらの履歴特性は高力ボルトの塑性化の影響と密接な関係があること,等を明らかにしている。
第6章では,有限要素法を用いた三次元弾塑性解析を実施し,接合部 M ―θr特性,アングル材のひずみ分布や変形性状等について,実験結果との比較によって解析手法の妥当性を検証している。その結果,提案の解析手法は,アングル系接合の単調載荷や交番載荷時における弾塑性挙動を適切に評価可能であることを明らかにしている。
第7章では,各章で得られた結論を要約し,本論文を総括している。

論文審査結果の要旨

鋼構造物の梁.柱接合部は,我が国では外ダイヤフラム形式による溶接接合が多く用いられている。一方,欧米諸国では溶接接合や溶接接合とボルト接合の併用の他,アングル材と高力ボルトを用いた所謂アングル系接合が用いられている。溶接接合は通常剛接合と仮定して設計が行われている。これに対して,アングル系接合はピン接合と仮定して設計が行われているものの,過去の実験研究により剛接合とピン接合の中間的でかつ非線形な剛性特性を有する半剛接合であることが明らかになっている。
溶接接合は,剛接合に仮定され耐震安全性も高いと言われているが,1994年に米国で発生したノースリッジ地震や1995年に発生した兵庫県南部地震では,溶接部近傍に亀裂あるいは破断が発生し脆性破壊が多数発生したことにより,溶け込み不良等がある場合には必ずしも耐震安全性が高いとは言えないことが指摘された。
一方で,半剛接合の場合には,地震時に対しても優れたエネルギー吸収能力や履歴減衰が発揮され,耐震性の向上を期待できることが報告されている。鋼骨組の合理的な耐震設計法を確立するためには,これら半剛接合鋼骨組に関する静的・動的挙動性状を明らかにしなければならない。しかしながら,接合部剛性特性や繰り返し載荷時の弾塑性履歴挙動特性に及ぼす接合部パラメータの影響は,必ずしも明確になっていないのが現状である。また,鋼骨組構造物の設計法が許容応力度法から限界状態設計法に推移する動きがある中で,各種限界状態に対する照査法を確立することが喫緊の課題となっている。
このような観点から,本研究では,上述の課題を克服することを目的に,アングル系接合であるトップ&シートアングル接合を取り上げ,アングル材柱側のゲージ長やつま先長が異なる6試験体を対象に,単調曲げ載荷実験および繰り返し載荷実験を実施した。さらに,実験試験体を対象に三次元弾塑性有限要素解析も実施し,提案の解析手法の妥当性を検討した。
検討の結果,(1)接合部モーメント (M) .相対回転角 (θr)特性は,柱側ゲージ長に大きな影響を受ける反面,つま先長による影響は非常に小さいこと,(2)柱側ボルトを2列配置にすることにより,耐震安全性に関する冗長性が期待できること,さらに(3) M ―θr履歴特性は,柱側ゲージ長によって逆 S字型と紡錘型の2種類に大別され,高力ボルトの塑性化の影響と密接な関係があること,等を実験的に明らかにしている。また,解析結果と実験結果を比較することにより,提案の解析手法を用いることによって,単調や交番載荷時のボルト破断近傍までの挙動を精度よく追跡可能であることを明らかにし,性能照査型設計法の確立に向けた各種数値実験に適用可能であることを示している。
以上の成果は,弾塑性学や鋼構造設計学の発展に大いに貢献していると判断され,よって,著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められる。