氏    名  高 橋 保 行 (たかはし やすゆき)

学位論文題目  自動車用異種高張力鋼板レーザ溶接継手の衝撃引張特性に関する研究

論文内容の要旨

 近年,地球環境保護の観点から温暖化の原因となる CO 2を削減するため,自動車車体を軽量化し燃費を向上させることが求められている。一方,衝突時の乗員安全性の向上を目的とした車体剛性の強化により,車体重量は大幅に増加する傾向にある。この状況を解決する手段の一つとして,すなわち軽量化を図りながら衝突安全性の向上も図る技術として,高張力鋼板 (HSS)を用いたテーラード・ブランク (TB)技術が注目されている。素材寸法や強度の異なる鋼板を溶接・接合後にプレス成形する TB技術は,使用材料の最適化により車体の高剛性化・軽量化に寄与できるため,自動車メーカにて急速に普及している。今後,この技術を積極的に車体各部に適用させた最適な強度設計を行うためには,溶接部材の静的な機械特性や疲労特性に関する研究の必要性は云うまでもないが,さらに,HSS溶接継手の衝撃引張変形強度に関する特性を明らかにし,実験データを数多く蓄積することが重要である。しかしながら,HSS溶接継手の衝撃変形強度に関する研究は,シャルピー衝撃試験以外ほとんど行われていないのが現状である。
本研究では,車体を軽量化し強度信頼性を向上させるため,引張強度が 980MPaまでの自動車HSSについて,CO 2および YAGレーザ溶接を用いた溶接継手試験片の静的引張試験,衝撃引張試験を行い,溶接継手の機械的特性を明らかにした。
 本論文は6章で構成されている。
 第1章では,本研究の背景および概要を述べている

 第2章では,HSSと,TB技術の概要を説明し,実際に HSSを用いた TB材の車体部品の開発を実例に挙げ,車体軽量化効果について述べている。
 第3章では,自動車用鋼板の高ひずみ速度域における変形強度の測定法として幅広く用いられているスプリット・ホプキンソン棒法の測定原理について述べ,また共軸型ホプキンソン棒法による衝撃引張試験において観測される変形初期ピークおよびそれの低減策としての試験片装着方法等について解説している。 第4章では,引張強度が 780MPa以下の HSSを用いた異種鋼板 CO2レーザ溶接継手の静的および衝撃引張特性を同種鋼板溶接継手のそれらと比較することにより明らかにしている。
 第5章では,引張強度が270,590,980MPaの HSSを用いた異種鋼板 YAGレーザ溶接継手の静的引張強度および衝撃引張強度を同種鋼溶接継手のそれらと比較するとともに,異種材溶接試験片のひずみ分布特性を明らかにしている。最後に,第6章は結論である。

論文審査結果の要旨

 自動車産業界では地球環境保護の観点から CO 2を削減するため車体を軽量化し燃費を向上させることが求められている。一方,車体強度設計において衝突安全性の向上を図るために車体重量が増加する傾向にある。これらの相反する要求を満足させるため,すなわち軽量化を図りながら強度信頼性・衝突安全性の向上も図る技術として,高張力鋼板を用いたテーラード・ブランク技術が注目されている。テーラード・ブランク技術は,使用材料の最適化により車体の軽量化・高強度化を可能にするため,自動車メーカにおいて急速に採用されている。この技術を積極的に車体各部に適用するためには,溶接部材の静的機械的特性や疲労特性に関する研究の必要性は云うまでもなく,さらに高張力鋼板溶接継手の衝撃変形強度に関する特性を明らかにすることが重要である。しかし,高張力鋼板溶接継手の衝撃変形強度に関する研究はほとんど行われていない。
 本論文は,車体の軽量化および強度信頼性・衝突安全性の向上を目的として,引張強度が980MPaまでの自動車用高張力鋼板について,CO 2および YAGレーザ溶接継手の静的機械的特性および衝撃引張変形強度特性などを実験および数値解析によって調べている。先ず,研究の背景およびテーラード・ブランク技術について車体部品開発例を挙げて車体軽量化効果について詳細な検討を行っている。次に,高張力鋼板溶接継手の衝撃引張強度試験を実施するため,スプリット・ホプキンソン棒法に基づく衝撃試験装置の設計・試作を行い,併せて衝撃引張試験において常に問題になる試験片装着方法についても新方式の提案を行っている。これらの試験方法および衝撃試験装置によって静的引張強度が 270MPa自動車用普通鋼板と590,780MPa級高張力鋼板を組み合わせた異種鋼板 CO 2レーザ溶接継手および同種鋼板溶接継手の衝撃引張強度試験を実施し,それらの衝撃引張変形強度特性を明らかにしている。さらに 980MPa級高張力鋼板を組み合わせた異種鋼板 YAGレーザ溶接継手および同種鋼板溶接継手の衝撃引張強度試験を行い,同種鋼板溶接継手と異種鋼板溶接継手との力学的特性の相違や静的引張変形強度特性との相違等を明らかにしている。すなわち,YAGレーザ溶接継手および CO 2レーザ溶接継手の機械的特性,異種鋼板溶接継手と同種鋼板溶接継手の衝撃引張変形強度の相違等を明らかにするなど多くの有用な知見を得ている。
 本論文の内容は,自動車の軽量化設計および強度信頼性・衝突安全性の向上に大きく寄与するものであり,博士論文としての価値を充分有するものと認める。