氏    名  平間 政文 (ひらま まさふみ)

学位論文題目  ルイス酸触媒を利用したイボガミンアルカロイドの不斉合成に関する        研究

論文内容の要旨

 イボガミンアルカロイドはインドール環とイソキヌクリジン環が7員環によって結合した特徴的な構造をしており,( . )-イボガミンや (+ )-カタランチンなどが知られている。カタランチンは抗腫瘍活性を示すビンブラスチン (VLB)やビンクリスチン (VCR)の前駆体と考えられており,有機化学だけでなく薬学の観点からも非常に興味が持たれている。その理由の一つとして,植物 (Catharanthus roseus)から VLBや VCRを抽出する場合,乾燥した葉の重量のわずか0.00025%しか含有されておらず,天然から得ることが困難であることが挙げられる。イボガミンアルカロイドの骨格の一部であるイソキヌクリジン骨格を高収率かつ高立体選択的に合成することは非常に意義のあることである。
 イソキヌクリジン骨格を合成するために,ルイス酸触媒存在下,1,2 .ジヒドロピリジンとキラルなジエノフィル,N-アクリロイル (1Sおよび 1R)-2,10-カンファースルタムとの不斉環状付加反応を検討した。ルイス酸触媒として,四塩化チタン,四塩化ジルコニウム,四塩化ハフニウムなどを用いた。その結果,ルイス酸の種類および反応条件により反応性,立体選択性に違いが見られた。最適の反応系は四塩化チタン存在下,反応温度. 78 ℃,N-フェノキシカルボニル -1,2-ジヒドロピリジンと N-アクリロイル (1S)-2,10-カンファースルタムとの反応で,endo付加体が優先的に得られ,化学収率99%,ジアステレオマー過剰率94% deであった。その他のルイス酸,四塩化ジルコニウム,四塩化ハフニウムを用いた場合は,それぞれ化学収率 78%,89%,ジアステレオマー過剰率96% de,97% deであった。さらに合成した光学活性なイソキヌクリジン環の絶対配置を決定した。その結果,N-アクリロイル (1S)-2,10-カンファースルタムから得られるイソキヌクリジン環は ( . )-イボガミンの立体配置と一致し,一方鏡像異性体の (1R)‐カンファースルタムから合成されるイソキヌクリジン環は (+ )‐カタランチンの立体配置と一致した。このことにより,著者はカンファースルタムを選択することにより,イボガミン型およびその鏡像異性体のカタランチンの型イソキヌクリジン環をつくり分けることに成功した。

論文審査結果の要旨

1.本論文は白血病治療薬として臨床で使用されている植物アルカロイドを合成するための基礎研究として,ルイス酸触媒を利用した不斉合成反応に関する研究成果についてまとめたものである。論文は4章から構成されており,第1章では医薬品の立体化学と生物活性,第2章はルイス酸触媒を用いた 1,2 .ジヒドロピリジンとカンファースルタムとの不斉環状付加反応,第3章はルイス酸触媒を用いた 1,2 .ジヒドロピリジンとオキサゾリジノンとの不斉環状付加反応,第4章はキラルなルイス酸触媒を用いた合成研究の結果をまとめている。

2.イボガミンアルカロイドはインドール環とイソキヌクリジン環が7員環によって結合した特徴的な構造をしており,( . )-イボガミンや (+ )-カタランチンなどが知られている。カタランチンは抗腫瘍活性を示すビンブラスチン (VLB) やビンクリスチン (VCR) の前駆体と考えられており,有機化学だけでなく薬学の観点からも非常に興味が持たれている。その理由の一つとして,植物 (Catharanthus roseus)から VLBや VCRを抽出する場合,乾燥した葉の重量のわずか0.00025%しか含有されておらず,天然から得ることが困難であることが挙げられる。イボガミンアルカロイドの骨格の一部であるイソキヌクリジン骨格を高収率かつ高立体選択的に合成することは非常に意義のあることである。

3.イソキヌクリジン骨格を合成するために,ルイス酸触媒存在下,1,2 .ジヒドロピリジンとキラルなジエノフィル,N-アクリロイル (1Sおよび 1R)-2,10-カンファースルタムとの不斉環状付加反応を検討した。ルイス酸触媒として,四塩化チタン,四塩化ジルコニウム,四塩化ハフニウムなどを用いた。その結果,ルイス酸の種類および反応条件により反応性,立体選択性に違いが見られた。最適の反応系は四塩化チタン存在下,反応温度. 78 ℃,N-フェノキシカルボニル ‐1,2-ジヒドロピリジンと N-アクリロイル (1S)-2,10-カンファースルタムとの反応で,endo付加体が優先的に得られ,化学収率99%,ジアステレオマー過剰率94% deであった。その他のルイス酸,四塩化ジルコニウム,四塩化ハフニウムを用いた場合は,それぞれ化学収率78%,89%,ジアステレオマー過剰率96% de,97% deであった。さらに合成した光学活性なイソキヌクリジン環の絶対配置を決定した。その結果,N-アクリロイル (1S)-2,10-カンファースルタムから得られるイソキヌクリジン環は ( . )-イボガミンの立体配置と一致し,一方鏡像異性体の (1R)‐カンファースルタムから合成されるイソキヌクリジン環は (+ )‐カタランチンの立体配置と一致した。このことにより,著者はカンファースルタムを選択することにより,イボガミン型およびその鏡像異性体のカタランチンの型イソキヌクリジン環をつくり分けることに成功した。

4.これらの研究結果はまだ基礎研究の段階であるが,抗腫瘍活性を示す医薬品を合成するための新方法を示唆しており,博士(工学)の学位に十分値する成果として評価できる。