氏    名  金 子  淳 (かねこ あつし)

学位論文題目  環境調和型材料の創製を目指したシルク利用

論文内容の要旨
 
 本論文では,繊維としてのシルク以外にも工業材料としてシルクの活用法を模索するため,シルクが樹脂化したシルク成形体さらにはシルク繊維と無機材料との複合材料を作製した。そして,新規環境調和型材料としての可能性について検討した。
 最初にパルス通電焼結装置を用いた成形条件の最適化を図り,従来のホットプレス法では達成されていない,完全に樹脂化した成形体の作製を可能にした。十分に乾燥したシルク成形体では,ポリ乳酸を大きく超え,汎用エポキシ樹脂と同等の三点曲げ強度を確認した他,曲げ弾性率はポリ乳酸,汎用エポキシ樹脂を超える値を確認した。また,ガラス転移温度もポリ乳酸を大きく超え,シルク繊維に匹敵する453Kに達し,耐熱性を有することが示唆された。さらに,コンポスト条件下の生分解性は,シルク布よりもわずかに上回ることを確認した。この他,シルク成形体を機械的粉砕した粉末について,再びパルス通電焼結装置を用いて成形する方法と,中性塩水溶液への溶解,フィブロイン水溶液からの脱塩,乾燥を経て粉末化したシルク粉末を再びパルス通電焼結装置を用いて成形する方法の二つの方法により再成形体を作製し,いずれもリサイクル性を有することを明らかにした。なお,シルク成形体を中性塩水溶液に溶解したフィブロイン水溶液の分子量は成形温度に依存し,分子量の低減がかなり抑えられる成形条件を求めることができた。次に,シルク成形体の誘電特性について検討し,20GHzにおける比誘電率は4.1,tan δは
0.05であり,とくに,高周波数域で低い比誘電率と低い誘電正接を示すことを見出した。続いて,熱伝導性についても調査し,高密度ポリエチレンと同等の0.40〜0.46W/(m・K)の熱伝導率を確
認した。この他,シルク成形体の機械的強度の向上を目的としシルク成形体中に竹繊維を一方向に配向させた成形体を作製した他,骨充填材を指向した水酸アパタイトを分散させたシルク成形体を作製し,擬似体液中で骨様組織の形成を促進することや,市販の骨充填材と同程度の破壊靱性を得るに至った。また,シルク成形体から離れ,ゾルーゲル法によりシルク繊維上にリン酸カルシウムを被覆した複合材料を作製し,創傷被覆材料として市販のシリコンガーゼと同様の創傷治癒効果を有することや,血液凝固試験からラットの血漿中において止血作用があることなども見出した。
 以上で得られた知見から,シルクはその優れた特性により,これからの環境循環型社会に対応した新規な工業材料として期待される。

論文審査結果の要旨

 

論文審査結果の要旨
 本論文は,シルクを工業材料として利用するためシルクが樹脂化したシルク成形体さらにはシルク繊維と無機材料との複合材料を作製し,それらの新しい環境調和型材料としての利用を提案するものである。
 最初にパルス通電焼結装置を用いたシルクの樹脂化を試み,従来のホットプレス法では達成されていない,完全に樹脂化した成形体の作製を可能にした。そのシルク成形体では,ポリ乳酸を大きく超える三点曲げ強度と453Kに達するガラス転移温度を確認した。さらに,シルク成形体のコンポスト条件下のシルク布並みの生分解性を確認した上で,シルク成形体を機械的粉砕した粉末について,中性塩水溶液への溶解,脱塩,乾燥を経て粉末化したシルク粉末を再びパルス通電焼結装置を用いて成形する方法により再成形体を作製し,そのリサイクル性を証明した。その際,シルク成形体を中性塩水溶液に溶解したフィブロイン水溶液の分子量は成形温度に依存し,分子量の低減が抑制される成形条件についても明確にしている。
 次に,シルク成形体の誘電特性について検討し,20GHzにおける比誘電率は4.1,tan δは
0.05であり,高周波数域でとくに優れた誘電特性を示すことを見出した。続いて,熱伝導性についても調査し,高密度ポリエチレンと同等の0.40〜0.46W/(m・K)のバイオプラスチックスとしては高い熱伝導率を確認した。この他,シルク成形体の機械的強度の向上を目的としシルク成形体中に竹繊維を一方向に配向させた成形体を作製している他,骨充填材を指向した水酸アパタイトを分散させたシルク成形体を作製し,擬似体液中で骨様組織の形成を促進することや,市販の骨充填材と同程度の破壊靱性値を確認している。
 また,ゾルーゲル法によりシルク繊維上にリン酸カルシウムを被覆した複合材料を作製し,創傷被覆材料として市販のシリコンガーゼと同様の創傷治癒効果を有することや,血液凝固試験からラットの血漿中において止血作用があることなども明らかにしている。
 以上の数多くの知見は,シルクのこれからの環境循環型社会に対応した新規な工業材料,生体模倣材料,医療材料としての用途を提案するに十分値するものであり,材料工学の進歩に貢献するところが大である。
 よって,本論文は工学博士の学位論文として価値あるものと認める。