氏    名  渡辺 向陽 (わたなべ こうよう)

学位論文題目  局所光励起表面プラズモンを用いた生体分子計測に関する研究

論文内容の要旨
 
 これまで,半導体分野をはじめとするエレクトロニクス産業や,タンパク質解析技術を基盤とするバイオ産業などのさまざまな分野において,多種多様な計測技術がその産業活性化へ大きな役割を果たしてきた。ポストゲノム時代を迎え,タンパク質の機能解明が求められる中,その計測技術の中でも,真空や低温などの特別な環境を必要とせず,かつ基板のごく近傍でタンパク質間の吸着・解離反応を検出できる表面プラズモンセンサーに注目が集まっている。近年では,表面プラズモンセンサーの測定領域を光の回折限界程度の領域まで小さくする技術が提案され,それを用いた屈折率測定法(局所励起表面プラズモンセンサー)が開発されている。
 それは,金属薄膜が蒸着されたガラス基板に対して油浸対物レンズを用いて,照明光を基板上に集光させる光学配置を採る。このとき,基板上に形成される表面プラズモンの電場分布がこのセンサーの測定プローブであり,その大きさは,空間分解能を決める重要なパラメータとなる。また,そのプローブを用いて屈折率の二次元分布観察を行う場合においては,その形状が像特性を決める。理論的には,放射状偏波した光を照明光として用いると,その形状が最適化されることが報告されているが,実験的には,その形状・像特性が明らかにされていない。さらに,それを用いた,生体分子計測に対する測定応用に関しても詳細な検討が必要である。
 本研究では,放射状偏光を生成し,それを照明光として用いることで,測定プローブの形状最適化を実験的に確かめたのち,生体分子間の吸着・解離反応の検出や生体脂質二分子膜の応用計測実験をおこない,生体分子計測に対する有用性を調べた。また,タンパク質分子などの吸着反応のリアルタイムイメージングを実現するため,0次ベッセル光照明系の導入についても検討をおこなった。

論文審査結果の要旨

 近年,光によって局所励起される表面プラズモンの伝搬定数が金属表面上の屈折率に対して敏感に応答する現象を利用した顕微屈折率測定装置の開発が続けられている。この装置は,原理的に光の回折限界に達する空間分解能と高い屈折率分解能を有するため,生体細胞や分子の非接触,非標識計測への応用が期待されていた。本論文では,装置の空間分解能を理論限界(約210nm)まで高める方法を示し,実験的にその効果を確かめている。また,生体試料計測への応用として,抗原抗体反応の検出や生体模倣膜の観察を行い生体分子計測における有用性を明らかにしている。
 具体的には,まず,π -step位相板と液晶セルを用いて放射状偏光を生成し,それを照明光として用いることで,測定プローブである局所励起表面プラズモンの電場分布が最適な形状に整形されることを示した。その検証のため,電場分布の形状が屈折率分布測定結果に反映されるよう,局所励起表面プラズモンがつくる電場分布よりも十分小さいラテックス微小球を試料に用いて測定を行い,電場分布の形状が理論値にほぼ等しいことを示した。
 また,整形されたプローブのボリュームが約1.0×10.17Lであることをシミュレーションによって示し,極微領域での生体分子間相互作用計測を提案した。検証実験では,ウシ血清アルブミンとその抗体の結合・解離反応を屈折率変化から検出できることを示した。屈折率分布の顕微イメージングにおいては,厚さ4nmのパターン化されたポリマー脂質二分子膜内に形成された厚さ3nmの脂質二分子膜を高いコントラストでイメージングできることを示した。さらに,リアルタイムで屈折率分布イメージングを行うことを目的に,0次ベッセル光照明系を用いた屈折率計測法の提案を行い,その原理の検証実験を行った。
 以上,本論文は,生命科学の分野に寄与する計測技術として学問的および工学的な価値が高く,その将来性が評価できる。また,社団法人応用物理学会が主催する学会講演において,本論文の内容に関する発表が,応用物理学の視点より極めて価値のある内容であると評価され,講演奨励賞を受賞している。以上より,著者は,博士 (工学 )の学位に相当するものとして認められる。