氏    名  吉 野 正 樹 (よしの まさき)

学位論文題目  プラズマプロセスを利用した薄膜電子材料の生成と評価に関する研究

論文内容の要旨

 薄膜材料は,下地材料の表面保護や表面改質,特性の向上あるいは制限,さらには新たな機能の付加などのために幅広く利用されている。産業基盤の中核を担うIC(集積回路)は薄膜半導体などによって構成・製造され,小型化,低コスト化,集積化,高性能化などを実現してきた。薄膜材料は,気相成長法や液相成長法,塗布・印刷法などによって生成されるが,本研究の目的は,低周波プラズマ化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)による気相成長法によって薄膜材料を成膜し,生成した各種薄膜の特性評価やプラズマ診断等の結果をもとにして薄膜堆積プロセスを調査することであり,本論文はそれらの研究結果を詳述したものである。
 第2章では,GaAs 化合物半導体の新たな熱処理法を提案することを目的として,表面を化学処理した GaAs 基板上に良質な SiO 2膜を室温堆積して SiO 2/非晶質 As/GaAs 構造を形成することに成功し,これを可能にした低周波(50Hz)プラズマ CVD 法の優位性を示した。さらに,Si 不純物をイオン注入した GaAs 基板の活性化熱処理にこの構造を適用し,SiO 2膜を表面保護膜としたGaAs の熱処理プロセスを提示した。
 第3章では,材料の表面改質や半導体デバイスの層間拡散防止膜あるいは医療器具などに利用される TiN 膜の均質な堆積と基板温度の低温化のために,基板電極にバイアス電圧を加えることができる構造にして成膜した。これによって,基板温度550℃で硬度2,200Hv,抵抗率60〜80μΩ cm の TiN 膜の堆積を実現した。また,δ -TiN(200)面の優先配向を確認し,これらの結果と Ti+やN2+の発光スペクトルピークから負バイアスによる正イオン効果を積極的に利用した成膜方法であることを示した。
 第4章では,高電力用や耐放射線用,耐熱用の半導体デバイス材料として期待されている SiC 膜を,より安全でより低温化したプロセスで成膜することを目的として,原料に有機シリコン材料を用い,トライオード方式による基板バイアス回路を有した低周波プラズマ CVD法による生成を行った。バイアス電圧に対するプラズマ発光の違いを明らかにするとともに発光スペクトルから正イオンの生成を確認し,膜質の基板バイアス依存性を示した。基板温度750℃,バイアス電圧-200V で,硬度3,500Hv,屈折率2.7を得て,組成分析や結晶構造解析でも良好な SiC 薄膜を堆積し,堆積温度2,000℃以上の昇華法やプラズマスパッタ法等の一般的な成膜法よりも大幅な低温化を達成した。
 第5章では,歯科医療材料や切削工具類の表面硬化材料として注目される TiC 膜について,堆積温度を低温化し下地材料の適用範囲を拡大することを目指して,SiC 膜と同様にトライオード方式による基板バイアス回路を有した低周波プラズマ CVD 法で成膜を行った。プラズマ分光診断で分解生成物を分析し,Ti 基板薄膜の堆積率,硬度のバイアス電圧に対する影響を調査するとともに,TiC膜の結晶構造解析やSEM 観察から膜特性を調査して成膜方法を評価した。
 本論文では,このように低周波プラズマ CVD 法を用いて有用な各種薄膜を低温で堆積させて,この堆積方法の優位性を示し,薄膜材料の生成方法の一つとして広い用途が期待できることを明らかにした。

論文審査結果の要旨

 本研究の目的は,低周波プラズマ化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)による気相成長法によって機能性薄膜材料を成膜して,生成した各種薄膜の特性評価やプラズマ診断などの結果をもとにして薄膜堆積プロセスを調査することである。本論文は,低周波プラズマ CVD法の特性とこれを用いた薄膜堆積方法を詳述するとともに,生成した各種機能性薄膜材料に関する研究結果を考察・議論したものであり,得られた結果は以下の通りである。
1.表面を化学処理した GaAs基板上に良質な SiO 2膜を室温堆積して,SiO 2/非晶質 As/GaAs構造を形成することに成功し,化合物半導体 GaAsを用いたデバイス製造のための新たな熱処理プロセスを提示した。
2.成膜プロセスにおいて,基板電極を負にバイアスして正イオンを積極的に利用することによって,成膜材料の表面改質や半導体デバイスの層間拡散防止膜あるいは医療器具などに利用される TiN膜の均質な薄膜生成を基板温度550℃という低温で実現した。
3.基板バイアス回路を有したトライオード方式を用いて基板温度750℃で,高電力用や耐放射線用,耐熱用の半導体デバイス材料として期待されている SiC膜を生成し,堆積温度2,000℃以上の昇華法やプラズマスパッタ法等の一般的な成膜法よりも大幅な低温化を達成した。
4.SiC膜と同様の方法で,歯科医療材料や切削工具類の表面硬化材料として注目される TiC膜を生成して,堆積温度の大幅な低温化を達成し下地材料の適用範囲を拡大した。
  本研究の成果は,低周波プラズマ CVD法を用いて有用な各種機能性薄膜を低温で生成して,この方法の優位性を示し,薄膜材料の生成方法の一つとして広い用途が期待できることを明らかにしたことにある。したがって,その工学的意義は極めて大きく,博士論文に十分に値すると判断された。