氏    名  川 村 悟 史 (かわむら さとし)

学位論文題目  メカニカルミリングとパルス通電焼結法によるバルク超微細粒純鉄の        作製および機械的性質の研究

論文内容の要旨

 第1章(背景と目的)結晶粒微細化強化法を用いると合金化せずに高強度な鉄が作製できる可能性がある。本研究の目的は実用部材に供することができる高強度バルク超微細粒純鉄をメカニカルミリング.パルス通電焼結法(MM-PECS法)を用いて作製する事である。物理的・機械的特性の目標値は相対密度>99%,結晶粒径〜100nm,引張降伏強度〜2,000MPa,伸び数%とした。
 第2章(MM-PECS法ほか主な方法の解説)メカニカルミリング(MM)とは容器中で高速振動する硬球の衝突エネルギーを利用して,原料粉を強加工してナノ結晶やアモルファスを作製する方法で,パルス通電焼結法(PECS)は,そのようにして作製したナノ結晶鉄粉を,粒成長抑制と緻密化を両立させながらバルク化する方法である。
 第3章(MMによるナノ結晶鉄粉作製)酸素濃度の異なる3種類の原料鉄粉(0.243,1.28,0.28mass%O。それぞれ e1-Fe,e2-Fe,c-Feと呼称)を用いて,室温で最長360ksの MMを行い結晶粒径11-23nmのナノ結晶純鉄粉を作製した。
 第4章(焼結温度の組織と強度への影響) e1-Feミリング粉を用いて300-900℃で PECS実験を行い30mm φ試料を作製した。相対密度は焼結温度の上昇とともに急増し,600℃以上では96-98%で飽和する。結晶粒成長は500℃以下で緩慢なため,50nm以下の結晶粒径が得られるが,600℃以上では急激に進行し粒径2-5μ mとなる。
 第5章(焼結温度の組織と強度への影響) e2-Feミリング粉を用いて400-570℃での PECS実験を行い,50mm φ試料を作製した。550-570℃焼結において,300sから900sまで焼結時間を延長しても粒成長は僅かで80-93nmの結晶粒径にとどまり,相対密度は遷移クリープにより
95-96%となった。550℃焼結の破断強度は,300sから900sまでの時間延長で650MPaから
最大37%増加した。結晶粒径を小さく保持するよりも密度を高める方が強度増加に効果的である。 e2-Feでは1.6mass%と高い酸素濃度のため粉末粒子の接合強度が弱い可能性があることがわか
った。
 第6章(焼結圧力と酸素濃度の組織と強度への影響)酸素量の少ない c-Feミリング粉で PECS実験を行い,10mmW ×50mmL試料を作製した。SKH製ダイの限界強度である300MPaに焼結圧力を引き上げた所,570℃ -600s 焼結試料で相対密度98.5%,結晶粒径102nm,破断強度1,370MPaが得られた。高強度は相対密度98%以上でなければ発揮されず,さらに高密度試料においては酸素濃度が高くなると強度が低下する逆線形相関関係があることがわかった。破断強度1,370MPaの試料は粒界に連続した酸化物がクラック源として作用したために目標値2,000MPaに達しないと考察された。酸素濃度を0.3mass%まで低下させると目標強度になると予測される。
 第7章(総合的考察)粒成長解析より PECS焼結時の鉄の拡散の活性化エネルギーは通常値240kJ/molより低い195kJ/molで,拡散が促進されていることが判明した。本研究で得られた最高破断強度1,370MPaは実用鋼材では SUP6の強度に匹敵することがわかった。
 第8章(結論)MM-PECS法による超微細粒鉄作製のための最適な焼結条件を発見できた。試料サイズ,密度,結晶粒径については目標値をクリアし,強度に関しては目標値2,000MPaの7割を達成した。

論文審査結果の要旨

 ○背景および目的 鉄鋼材料は高強度でしかも安価であることから自動車,建築物,船舶などの大型構造材料として,現代文明に必要欠くべからざる材料である。鉄鋼材料は熱処理により多種多用な機械的性質を発揮することができるが,その多様性の根源は Cr,Mn,Niなどの金属合金元素である。鉄鋼の強度を支えるこれらの金属元素の地球上での存在比率は極めて小さく,希少金属といわれている。本論文は希少金属の節約ならびに有効利用の観点から,金属元素の添加なくして鉄の強度を高める方法,すなわち結晶粒微細化強化法に着目して研究を行ったものである。金属元素の利用なしに相対密度99%,2,000MPaの引張強度,数%の伸びをもつ超高張力鋼に匹敵するバルク状の純鉄を創製することを目標に設定している。

○目的達成の方法 市販の純鉄粉を試料として使用し,その結晶粒径をナノサイズ化する方法として,不活性雰囲気中でのメカニカルミリングによる強加工法を選び,X線回折と透過電子顕微鏡を併用して超微細結晶粉の生成過程を調べ,360ksのミリングで11-23nmのナノ結晶粉末を得ている。このナノ結晶粉末の結晶粒を粗大化させることなく加熱し固化成形して実用に供することができるサイズのバルク素材を製造するためにパルス通電焼結法を選び,焼結温度,焼結時間,焼結圧力をパラメータとした数多くの実験を行い,100nm程度の結晶粒径で98%以上の相対密度を持つ高強度鉄を得る最適条件として570℃―10min .300MPaを探りあてた。

○結果および結論 相対密度98.5%,結晶粒径102nmの純鉄において通常の純鉄7倍の強度である1,370MPaが得られ,当初の目的の70%が達成されている。結晶粒微細化強化の理論的バックグラウンドとなるホール・ペッチ理論と照らし合わせたところ,上述の実験強度は概ね理論からの予測値と一致することを確認した。予測値からのずれは,ミリング中に系内に侵入した酸素が鉄と結合して酸化物を形成するためと考察した。電子線回折により酸化物を Fe 2O3と同定し,酸素原子のイメージングフィルター像観察で10-30nmサイズの Fe 2O3は粒内および粒界全体に存在するが,強度低下の原因は粒界上に数珠状に150nm以上に連続して析出するものと推定し,破壊強度学からそれらが応力集中源と作用するため,理論強度より実験値が低くなるものと推察した。酸素含有量と引張強度との関係を詳細に調査し,酸素量を0.3mass%まで低減すれば2,100MPaの強度が達成できると予測している。