氏    名  中 田 隼 矢 (なかた としや)

学位論文題目  スモールパンチ試験法による核融合炉ブランケット用低放射化
        フェライト鋼の強度特性評価に関する研究

論文内容の要旨

 本研究では,核融合炉ブランケット用低放射化フェライト鋼を対象にして,スモールパンチ試験法による材料強度評価を試みた。既存の研究では,実験的な経験則に基づき,スモールパンチ試験法と標準試験法を対応づけるケースが多く,その理論的な背景や妥当性については十分に検討はなされていなかった。そこで本研究では,有限要素法による応力・ひずみ解析を用いて,これまで報告されている知見の妥当性を検証するとともに,有限要素法を用いた新たな評価手法について提案を行った。

 第1章では,核融合炉とそれに伴う材料開発の必要性について述べた。
 第2章では,微小試験片試験技術の一つであるスモールパンチ試験法について,これまで報告されている成果とそれらの問題点ついて検討し,本論文の目的と構成を述べた。
 第3章では,これまで経験則的な評価が行われてきた,スモールパンチ試験と引張試験の相関について,有限要素法による応力・ひずみ解析によってその矛盾点を明らかにした。また,有限要素解析とスモールパンチ試験結果から,引張試験における応力−ひずみ曲線が明らかにできる手法を見出した。
 第4章では,標準クリープ試験とスモールパンチクリープ試験の実験的な相関関係を明らかにするとともに,有限要素法による応力解析によって,標準クリープ試験における応力と有限要素解析によって得られる定常平均相当応力が等価であることを明らかにした。
 第5章では,スモールパンチクリープ試験における試験治具および試験片寸法の影響について検討した。有限要素解析の結果,試験治具・試験片寸法が異なる場合,スモールパンチクリープ試験結果に大きく影響を及ぼすことを明らかにした。また,形状差がある場合であっても,評価パラメータとして定常平均相当応力を用いることによって,形状差に依存することなくスモールパンチクリープ試験結果を評価できることを明らかにした。
 第6章では,TEMディスクサイズのスモールパンチ試験片を用いて,電子ビーム溶接継手の局所領域の引張およびクリープ特性をはじめて評価し,細粒域のクリープ特性が最も低下することを明らかにした。また,得られた局所領域毎の強度特性から,有限要素法による単軸溶接継手クリープ試験片の応力・ひずみ解析を実施し,細粒域の内部でクリープひずみが集中することを明らかにした。
 第7章では,本論文を総括した。

論文審査結果の要旨

 核融合炉を次世代の基幹エネルギープラントとして運用するためには,熱エネルギーおよび燃料の生成と回収を担う,ブランケットモジュールを開発することが必要不可欠である。しかし,このブランケットモジュールに対しては,核融合反応に伴う高レベルの中性子照射と熱負荷が掛かるため,構造材料である低放射化フェライト鋼に対して,甚大なダメージを与える。さらに,ブランケットモジュールの製作にあたっては,高温機器としては例がないほどの溶接接合が多用される。したがって,ブランケットモジュールの設計・運用にあたっては,これらの構造材料に対する損傷や溶接接合部の強度特性を十分に考慮することが要求される。しかし,中性子照射試験や溶接部の局所領域の強度特性を既存の試験法によって評価することは難しく,微小試験片を用いた試験技術の開発が急務となっている。この微小試験片試験技術の一つに,スモールパンチ試験法がある。試験法の簡便さ,試験片サイズの小ささ,引張やクリープなどの多くの強度特性を評価可能な優れた試験法ではあるが,試験片の変形挙動が複雑なため,試験結果の評価が難しいことが実用化の障害となっている。
 本論文では,スモールパンチ試験法における試験片変形挙動を有限要素法によって分析することによって,標準試験法と同等の評価結果を得るための手法を見出している。これによって,スモールパンチ試験法の実用化の障害となっていた,評価手法の問題を解決している。以下,得られた知見を示す。

(1)スモールパンチ試験における荷重−荷重線上変位曲線を有限要素解析で再現することによって,真応力−真ひずみ線図を推定し,降伏強度,引張強度,均一伸び,加工硬化指数を評価できる手法を見出した。また,照射模擬材に本手法を適用し,照射効果の評価手法としても有効であることを示した。

(2)スモールパンチクリープ試験において,試験片の板厚減少箇所の相当応力が試験の大部分で一定となり,その一定となる相当応力が標準クリープ試験における評価応力と等価であることを明らかにした。

(3)(1),(2)の知見を用いて,電子ビーム溶接材の母材部,溶融部,細粒域,粗粒域,焼戻熱影響部の正確な引張特性およびクリープ特性を初めて評価した。また,これら局所領域の評価結果を用いて,電子ビーム溶接継手の単軸クリープ試験の応力・ひずみ解析を実施し,試験片内部の細粒域にのみクリープひずみが集中することを示した。

 これらの成果から,スモールパンチ試験法によって,標準試験法と同等の強度評価が可能となり,スモールパンチ試験法の実用化に目処を付けた。さらに,本手法が,溶接部の強度評価や照射効果評価にも有効なことを示しており,今後の核融合炉実用化に大いに貢献するものである。よって,提出論文は,博士学位論文として相応しいものと認める。