氏    名  前 田 貴 章 (まえだ たかあき)

学位論文題目  Topographic Imaging of Blood Region in Skin Tissue by Using
        Spectroscopic Approach
        (分光学的手法を用いた皮膚組織における血液領域の
         トポグラフィック・イメージング)

論文内容の要旨

 皮膚下における腫瘍,アザ,内出血等内部血液領域の初期診断は医師による視診が主であり,客観的,定量的な評価法は確立されていない。一方,皮膚科学分野における電子的,光学的計測法は超音波診断をはじめとし,光コヒーレンストモグラフィや光熱音響技術,蛍光利用など多くの計測技術が研究・開発されている。しかしこれらは,各々,解像度が低い,皮膚への侵達度が低い,パルス型レーザー光源使用により大型・高価,毒性リスクがあるなどの問題がある。本研究で用いる拡散反射率測定に基づく手法は,無侵襲計測法として有望であり,装置の簡便化や人体へのリスク低減など,臨床への広い応用が期待されている。本論文では,可視及び近赤外分光反射率画像から皮膚内部血液領域の深さと厚みを計測する技術に関する研究を行なった。
 第1章では,これまでに提案されている生体組織中における様々な光エネルギーの伝播理論と,それらに基づく種々の光計測法について概説した。さらに皮膚の分光反射率計測法の現状と本論文の目的について示した。
 第2章では,モンテカルロ法に基づく生体組織の光伝播の概念や生体皮膚組織の構造を中心に,本論文で扱う基礎的な理論と事項について述べた。
 第3章では,基本的可能性が提案されていたヘモグロビンの等吸収点波長を利用した毛細血管網の平均深さ測定法を改良,拡張し,従来法では無視していた表皮組織のメラニン色素補正法を開発した。さらに分光反射率をカメラで撮影することで血液領域深さの画像化を可能とした。
 第4章では,第3章の手法に近赤外波長の光を加えることで,血液領域の深さと同時に厚みを計測する方法を新たに提案した。数値シミュレーション,皮膚モデル実験,並びにヒト皮膚前腕部の静脈計測により提案手法の有効性を示した。
 第5章では,血液領域の深さ・厚みに伴う吸光度変化特性を数値シミュレーションにより詳細に調べた。この特性に基づき,皮膚組織内メラニン・ヘモグロビン濃度に左右される吸光度比曲線を正確に近似するために三次の重回帰式利用を提案した。内部血液層を含む単純な層状皮膚モデルを用いた実験により,提案手法の有効性を確認した。
 第6章では,皮膚のごく表面に近い部位に起こるような内出血を扱った。このようなタイプの内出血は,提案済みの手法では困難であるため,モンテカルロシミュレーションにより吸光度特性を調べることで新たな計測手法を提案した。数値シミュレーションとファントム実験,内出血回復過程のin vivo計測により提案手法の有効性を示した。
 最後に第7章では,本論文の内容と成果を総括し,まとめとした。


論文審査結果の要旨

 皮膚科の初期診断は医師の経験的視診が主流だが,ICT(情報通信技術)医療の推進により客観的,定量的診断手法が強く求められている。特に,皮膚ガンや各種皮膚疾患に関係する組織内血液色素病変に対する安全で簡易な定量計測法の要求が強い。光を利用した計測法は生体に対して非接触,無侵襲という大きな特長を有し,なかでも分光学的手法は色素による光吸収特性や皮膚色を反映することから,皮膚科の革新的な定量計測手段として注目されている。しかし現実には,分光計測から皮膚組織内部に埋もれた腫瘍や血液領域の異常を分離検出することは容易ではなく,さらに黄色人種の場合,表皮層におけるメラニン色素の影響を取り除く困難さも明らかとなっており,これらの克服が課題とされてきた。
 本論文は,こうした問題に対して,皮膚内部血液領域の深さと厚みの定量計測を目指した新規な分光反射率画像解析法とそのトポグラフィックなイメージング方式に関する研究である。特に,従来,簡易画像計測が困難であった皮膚組織の内部に局在する血液層や血管を対象としている点が本研究の特徴である。
 まず,基本原理が提案されていたヘモグロビン等吸収点波長を利用した毛細血管網の平均深さ測定法を改良,拡張し,従来法では無視していた表皮組織のメラニン色素による影響を補正する方法を開発している。さらに分光反射率を画像解析により取得することで血液領域深さの画像化も可能とした。
 次に,提案した手法に近赤外波長の光を加えることで,血液領域の深さと同時に厚みを計測する方法を新たに見出した。数値シミュレーション,皮膚モデル実験,並びにヒト皮膚前腕部静脈計測により提案手法の有効性を示している。
 さらに,血液領域の深さ・厚みに伴う吸光度変化特性を数値シミュレーションにより詳細に調べた。この特性に基づき,皮膚組織内メラニン・ヘモグロビン濃度に左右される吸光度比曲線を正確に近似するために三次非線形重回帰式の利用を提案している。最後に,皮膚のごく表面近傍に起こる種の内出血に対し,モンテカルロシミュレーションにより吸光度特性を調べることで新たなアルゴリズムを提案し,数値シミュレーションとファントム実験,内出血回復過程のヒト生体計測により手法の有効性を示している。
 以上,本研究で得られた成果は,皮膚の生理機能と構造状態を診断支援する装置の開発などに活かされることが期待され,医用光計測学の分野に寄与するところ大であると考えられる。よって,本論文著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。