氏    名  西 川   玲 (にしかわ あきら)

学位論文題目  幾何曲線認識に基づく汎用的手書き作図インタフェースの実現

論文内容の要旨

 現在,タッチパネルや液晶ペンタブレットといった画面に直接手書き入力可能なデバイスが普及している状況にあって,手書き文字入力インタフェースが一般的に利用されるようになってきた。しかし,手書き作図インタフェースはまだ一般的に普及していない。これは,低水準手書き図形認識エンジンに基づいた汎用的手書き作図インタフェースが存在していないためと考えられる。
 本論文は,手書き幾何曲線認識法FSCIを手書き図形認識エンジンとして捉えることで,汎用的手書き作図インタフェースが実現できることを明らかにしている。そのための最初の試みとして,FSCIを複数の作図アプリケーションと連携動作させる機構を実現した手書き作図インタフェースSKITを提案し,その基本的動作を確認した。しかし,ここで実用上,アルゴリズムと実装のそれぞれについて問題点が明らかとなった。アルゴリズムの問題とは,FSCI において一筆書きの手書き曲線を分割して複数の幾何曲線を一度に認識させる実用上重要な状況で認識率が低下するという問題である。この問題を解決するために,手書き描画中におけるペン先の移動状態変化をファジィ真理値に基づく状態遷移モデルと捉え,曖昧な描画からもユーザの曲線分割意図を的確に抽出することを可能とする手書き曲線分割手法「ファジィフラグメンテーション法」を提案した。その結果,複数の幾何曲線を一度に入力する実用的な作図に対して,従来のFSCIでは約65%であった認識率が約85%という実用上十分な認識率へと向上していることを示した。一方,実装の問題とは,OS依存性の観点及び応答速度の観点から利用できるプラットホームが限られてしまうという問題である。これらの問題を解決するために,OSの差異を吸収する仮想マシン上で動作するようにSKITを再構築し,FSCIを含む全体の処理を最適化した。その結果,実装を改良したSKITが主要な複数のプラットホームで動作し,応答速度も従来に比べて約2〜7倍に高速化されていることを実験的に示した。以上により,幾何曲線認識に基づく実用性の高い汎用的手書き作図インタフェースが実現できることを示した。


論文審査結果の要旨

 
本論文では,幾何曲線認識に基づく汎用的手書き作図インタフェースの実現法について論じている。
 
ここでは,まず,第一段階として,先行研究で実現されている「手書き幾何曲線認識法 Fuzzy Spline Curve Identifier (FSCI) に基づく手書き作図機能」を複数の既存作図アプリケーションと連携動作させる機構を提案し,それを「手書き作図インタフェース SKetch Input Tracer (SKIT)」として実装・実現した。また,このことにより,既存の手書き入力非対応の種々の作図アプリケーションにおいて幾何曲線認識に基づく手書き作図インタフェースを利用することが可能となり,その結果,手書きによる実務的な作図が可能となることを実証的に示した。次に第二段階として,実現したSKITの動作実験により明らかになった問題,すなわち「一筆書きの手書き曲線を分割して複数の幾何曲線を一度に認識させるという実用上重要な状況において,認識率が低下してしまうという問題」を解決する手法として,新たな手書き曲線分割法「ファジーフラグメンテーション法」を提案した。この手法は,手書き描画中のペン先の移動状態変化をファジー真理値に基づく状態遷移モデルと捉えることで,曖昧な描画からもユーザの曲線分割意図を的確に抽出することを可能にした。また,これを手書き幾何曲線認識法の前処理に適用すると,一筆書きの手書き曲線を分割して複数の幾何曲線を一度に認識させる状況での認識率が大幅に向上することを実験的に明らかにした。さらに,最終段階として,ファジーフラグメンテーション法を含む手書き幾何曲線認識法全体およびSKITの実装法を改良することでSKITの汎用性と実用性の向上を図った。その結果,SKITが現在一般的に用いられている主要なOSの全てで動作する汎用性の高い手書き作図インタフェースとして動作することを実証的に示した。また,従来は描画時間に対して非線形的に増加してしまっていたSKITの認識応答時間を,描画時間に対して線形的に増加する程度までに短縮できることを明らかにし,このことにより,SKITが比較的演算性能の限られた環境においても実用的な反応スピードで動作する作図インタフェースとして機能することを実証的に示した。
 本研究によって得られた知見は十分な価値があり,工学におけるヒューマンインタフェースの分野に寄与するところ大であるので,本論文は博士(工学)の学位論文に値すると認められる。