氏    名  青山  剛 (あおやま たけし)

学位論文題目  システムダイナミックスモデルによる都市の水需給構造に関する研究

論文内容の要旨

 第一章では,研究の背景,目的,方法について述べた。一般に都市成長の制約条件は,土地と水であると考えられる。第二次世界大戦後,日本の人口は増加し続けてきた。特に高度経済成長時期においては,人口増加や産業発展に伴って土地需要や水需要が拡大した。全国人口は2007年に減少に転じたが,大都市の人口は増加しており,安定的な水供給を行う必要がある。また,地域によっては,天候不順による水不足や気候変動に伴う要因も加味しなくてはならない。
 
第二章では,人口が増加している地方中核都市・札幌市における1960年〜2000年の水需給をシステムダイナミックスモデル(以下,SDモデル)を用いて再現した。次に,SDモデルを用いて,需要サイドの内部構造分析を行い,生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。
 
第三章では,地方中核市で二度の渇水経験がある福岡市における1960年〜2000年の水需給をSDモデルを用いて再現した。次に,SDモデルを用いて,需要サイドの内部構造分析を行い,生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。
 
第四章では,人口減少・少子化・高齢化が進む地方中小都市・室蘭市における1960年〜2006年の水需給を時系列でSDモデルを用いて再現するとともに,内部構造分析から生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。地方中小都市では,人口減少・高齢化・少子化が同時進行していることから,水需要の減少が予想される。
 
第五章では,三都市の水需給全体と生活用水使用量の内訳と経年変化について比較し,結果を整理した。
 
第六章では,三都市の水供給の特徴を踏まえて,SDモデルによるシナリオ・シュミレーションを行った。札幌市では,豊平峡ダムと定山渓ダムの必要性や建設時期の妥当性や効果を実証的に検証した。福岡市では,多くの中小河川が水源になっており,抜本的対策として1972年に筑後川導水が供用を開始した。しかし,それでも,1978年と1994年の二度,長期的な給水制限を含む渇水が起きていることを踏まえて,節水政策に加え,施設整備の必要性,建設時期の妥当性,建設の効果を実証的に検証した。室蘭市では,2006年に休止した知利別浄水場の影響を検証するとともに,今後10年間の水需給予測を示し,残る2浄水場の取水率(稼働率)の変化を検証した。また,登別市水道事業との広域化を念頭に,老朽化施設の更新,効果的かつ適正な施設再編,余剰水の利活用などを検討した。第七章では,各章の結論をまとめるとともに,本研究の限界と課題を述べた。また,今後の水資源を取り巻く状況を展望した。国連によれば,人口増加に伴って2025年には30億人が水不足に直面することから,日本の水資源開発や管理システムが,世界の水不足問題(水危機)の解決に如何に貢献すべきかについて,提案した。


論文審査結果の要旨

 
第一章では,研究の背景,目的,方法について述べているが,都市生活において,安定的な水供給を行う必要性を指摘している。本論文のテーマ設定は,世界的,全国的に見ても時宜を得たものであると判断できる。
 
第二章では,札幌市における1960年〜2000年の水需給をシステムダイナミックスモデル(以下,SDモデル)を用いて再現した。次に,SDモデルによる内部構造分析から生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。第三章では,二度の渇水経験がある福岡市において札幌市と同じ期間の水需給を再現した。同様に生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。渇水経験の無い札幌市と渇水経験の有る福岡市を比較し,渇水経験の有無が節水意識に結びつき,現在では両市の一人当り水使用量に差が無いことを明らかにしている。また,内部構造分析から生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにしたことは,国外・国内で初めての研究成果であり,高く評価される。
 
第四章では,室蘭市における水需給を再現するとともに生活用水使用量の内訳とその経年変化を明らかにした。人口減少・高齢化・少子化の同時進行により,一人当り使用量が増えても水需要が減少することを指摘している。第五章では,三都市の結果を整理している。
 
第六章では,SDモデルによる政策シナリオ・シミュレーションを行っている。札幌市では,豊平峡ダムと定山渓ダムの必要性や建設時期の妥当性や効果を検証している。福岡市では,二度の渇水が起きているので,節水政策に加え,施設整備の必要性,建設時期の妥当性,効果を検証している。室蘭市では,休止した知利別浄水場の影響の検証と水需給予測をしている。水需給の再現モデルの政策変数を操作するシナリオ・シミュレーションから,政策の効果を客観的・計量的に把握することができるので,政策の検証だけでなく,方法論としても高く評価される。
 
第七章では,本研究の限界と課題を述べるとともに,日本の水資源開発や水管理システムが,世界の水危機解決に如何に貢献すべきかについて,提案している。本論文は,世界の水危機解決への第一歩となり得るものであり,高く評価される。
 
以上から,本論文は,博士の学位にふさわしい論文と評価できる。