氏    名  坂 村 喬 史 (さかむら  たかし)

学位論文題目  核融合炉用金属材料の水素脆化とその評価法に関する研究

論文内容の要旨

 本研究では火力発電プラント構造材料や高速増殖炉,核融合炉構造材料候補材の9%Crフェライト系耐熱鋼の水素脆化評価に関する研究を行った。水素脆化とは鋼中に水素がppmオーダーと微量でも侵入すると極端に材料強度が低下する現象である。核融合炉では中性子照射による(n,p)核反応による水素生成,プラズマからの水素同位体(D,T)の照射や腐食環境下では軽水炉で起こる応力腐食割れなどがあるがオーステナイト系鋼種と比べ,フェライト系鋼種は応力腐食割れの感受性は低い,しかし水素脆化感受性が高いため,腐食による水素脆化があるのではないかと考えられている。そのため核融合炉において9%Crフェライト系耐熱鋼の水素脆化が危惧されているが,これらの実機使用条件を実験室で模擬する事は困難であり,さらに水素脆化は試験方法が確立されていないことが問題点として挙げられる。
 そこで本研究では水素を陰極電解チャージにて添加し,9%Crフェライト系耐熱鋼に及ぼす水素のみの影響を実験の対象とした。昇温加熱機構付きガスクロマトグラフを用い,昇温脱離分析法により鋼中の水素の定量・定性分析を行い,核融合炉で想定される水素量の添加条件を模索した。強度試験ではスモールパンチ試験と1.5 mm角シャルピーVノッチ(CVN)試験を行い,スモールパンチ試験では水素脆化の温度依存性を検討し,1.5 mm CVN試験では水素脆化の変位速度・試験温度依存性を検証し,水素脆化の水素量・温度・速度に対する挙動を調査し水素脆化の体系化を行った。さらに昇温加熱機構付きガスクロマトグラフにおいて鋼の水素吸蔵放出特性は組織に依存することが知られており,材料の熱処理条件や加工条件を変えた,昇温脱離分析法により鋼中の水素の定量・定性分析は比較的行われている。しかし,高温で使用されるこれらの鋼種はクリープ変形が伴うがクリープ変形に伴う水素吸蔵放出特性の変化はほとんど行われていないのが現状であるため,昇温加熱機構付きガスクロマトグラフを用いたクリープにともなう水素吸蔵放出特性の変化も行った。


論文審査結果の要旨

 本論文は核融合炉環境下での低放射化鉄鋼材料の脆化に及ぼす水素の効果についてまとめたものである。核融合炉ブランケット構造材として用いられる低放射化鉄鋼材料は14MeV高速中性子による(n,p)反応で生成される水素を中心とする水素蓄積環境に曝されるが,本研究は現在進行中の核融合炉で想定される材料中への水素蓄積量を確保しての脆化挙動研究であり,本研究の成果は核融合反応中性子下での炉材料の挙動と寿命予測に大きく寄与するものである。
 本研究は微小試験片技術との併用を前提とした鉄鋼材料の水素トラップ挙動の研究から開始され,固液・固気界面反応である鉄鋼の水素の添加・放出挙動の解明を水素添加に陰極電解チャージ法および昇温加熱機構付きガスクロマトグラフを使用して試み,水素放出スペクトルの詳細な解析から材料中での水素トラップサイトを分類して,同時に核融合炉材料研究に必要な水素大量添加技術を確立し,低放射化鉄鋼材料の水素脆化機構解明のための水素添加の量的・質的精度を確保している。
 上記の水素添加と蓄積の知見に微小試験片技術を組み合わせて水素脆化機構の研究を実施している。核融合炉鉄鋼材料の水素脆化メカニズムは,水素脆化で特徴的な擬へき開挙動の大雑把な知見が得られているだけであったが,本研究では微小試験片評価技術である1.5mm角CVN試験による破壊と水素添加量の相関および詳細な破面解析を行い,以下の知見を得た。1)室温における水素脆化の発現は水素添加量と試験速度の双方に依存する。2)0.2mm/min程度の試験速度では0.7wppm程度の水素添加で,主な形態が擬へき開である水素脆化が−150℃程度から0℃程度の間で発現する。3)国際熱核融合炉(ITER)で想定される3wppm程度の水素蓄積により破壊形態を擬へき開と粒界破壊室温とする水素脆化が発現する。以上の破壊形態の研究から水素脆化は延性破壊温度領域に生じ,水素蓄積が寄与する擬へき開と粒界破壊の二つのメカニズムと延性破壊のバランスによって決定される現象であることが明らかとなった。水素脆化は低水素量では水素の固溶強化による擬へき開,水素量が増加すると粒界上にトラップされた水素ガス圧効果による粒界破壊として生じることが示唆された。これらの知見は低放射化鉄鋼材料の水素脆性のメカニズムを明確に体系化し,かつ核融合炉建設における設計に大きく寄与する価値ある内容である。以上のように,本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。また,平成22年8月4日実施した論文内容とそれに関連した試問の結果合格と認める。