氏    名  谷 口   円 (たにぐち まどか)

学位論文題目  各種セメントを用いたコンクリートの強度増進性状に及ぼす
        温度・時間影響に関する研究

論文内容の要旨

 コンクリート構造物の建設は,常に変動する気象条件の元で行われる。構造物の建設には,型枠の脱型,支保工の解体時期などの予測が必要であり,所定の時期に必要な強度が得られることが重要となる。そのため,従来からコンクリート強度増進を予測することは,重大な関心事となっていた。
 外気温が氷点下となる寒中コンクリート工事ではその必要性はさらに高まる。低温による強度の遅れを把握し,その対策をいかに行うかが,寒中コンクリート工事の要となる。異なる温度条件でのコンクリート強度推定は,温度時間影響を複合的に表すMaturityにより行われる。我が国では,積算温度方式が広く利用されている。
 しかしながら,その適用範囲には限界があり,コンクリート温度が氷点下となる場合に適用出来ない。また,近年利用の増えている低熱ポルトランドセメントに適用出来ないことが既往の研究で指摘されている。
 本研究は,様々な種類のセメントを使用したコンクリートでの寒中コンクリート工事を可能とする強度予測手法の高度化を目的としたものである。積算温度方式の適用できるコンクリートでは,氷点下温度の強度増進に関する検討を行い,温度時間関数の提案を試みた。また,強度増進標準曲線の適用範囲の拡大を図った。中庸熱,低熱ポルトランドセメントなどの従来の積算温度方式が適用出来ないコンクリートでは,セメントの鉱物組成と強度増進の温度依存性との関係に着目し,鉱物組成の変化と氷点下に対応出来る温度時間関数を検討した。また,広範囲なセメント種類および強度に対応する強度増進標準曲線の提案を試みた。
 その結果,積算温度方式の適用できるコンクリートでは,より精緻な強度増進の標準曲線を提案し,適用範囲の拡大を図ることができた。また,氷点下の積算温度式の提案を行い,温度変動のある屋外環境下の強度増進を適切に評価出来ることを確認した。
積算温度方式の適用出来ないコンクリートでは,強度増進の温度時間依存性を,Arrhenius式による等価材齢で表すことができ,温度依存性を表す見かけの活性化エネルギーの値はビーライト割合から算出出来ることを示した。さらに,広い鉱物組成を持つセメントを使用したコンクリートに適用出来る強度増進の標準曲線を提案した。氷点下温度では,見かけの水の化学ポテンシャル低下式を用いた等価材齢で表すことで,強度増進を評価出来ることを示した。
 最後に,実大模擬構造体の寒中施工実験を通し,本研究での新たな成果を取り入れた寒中コンクリート工事の計画,管理手法等を提案した。

論文審査結果の要旨

 コンクリート構造物の建設は,常に変動する気象条件の元で行われ,温湿度影響を考慮した型枠の脱型,支保工の解体時期などの予測が必要となる。そのため,所定の時期に必要な強度が得られるよう,コンクリート強度増進の予測手法が古くから検討されており,強度増進を表す温度・時間関数として積算温度が広く用いられてきた。しかしながら,近年のコンクリートの高強度化,セメント種類の多様化などにより,強度推定式の精度,氷点下での取扱い,低発熱型セメントへの適用性等に対する問題が顕在化している。
 本研究は,コンクリート工事の施工計画および管理で必要不可欠なコンクリートの強度増進の予測手法の高度化を目的としたものである。まず,高強度コンクリートを含む幅広い強度範囲のコンクリートに精度良く適用可能な強度増進式としてのゴンペルツ曲線の有効性を確認し,氷点下温度での強度増進に対しては,セメントの反応速度を表すArrhenius式中の活性化エネルギーに水の相変化による見かけの化学ポテンシャルの低下を考慮することで温度依存性を検討し,等価材齢を用いることで強度増進に及ぼす温度時間影響を表すことを可能としている。さらに,普通ポルトランドセメントだけでなく,中庸熱,低熱ポルトランドセメントなどの従来の積算温度方式が適用できないセメントについても,その鉱物組成の違いとそれらの温度依存性に着目することで,統一的な温度時間関数として等価材齢を採用することで,これらのセメントの広範囲な強度に対応する強度増進標準曲線を提案している。
 その結果,これまで広く用いられてきた積算温度方式を利用する場合における適用可能な強度範囲と温度範囲の拡大を図るだけでなく,より精緻な強度増進の標準曲線を提案し,セメント種類を鉱物組成の違いで表現することで全てのポルトランドセメントに適用可能な強度推定手法として確立している。最後に,これらの新たな成果を取り入れた等価材齢を用いた強度推定手法を用いて,実大模擬構造体による施工実験により寒中コンクリート工事の計画,管理手法に検証を行っている。
 以上の成果は,コンクリート構造物の施工技術の高度化に大いに貢献している。よって,著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められる。