氏    名  岡   正 明 (おか まさあき)

学位論文題目  繰返し熱荷重を受けるコークドラムの熱疲労寿命評価

論文内容の要旨

 ディレードコーキングプロセスは,石油精製プラントの重質残渣油の熱分解プロセスである。その主要機器であるコークドラム缶内へ注入された加熱重質残渣油が熱分解することにより,軽質油,ガスとコークスに分離される。コークドラムは,(1)缶内昇温(230〜340℃まで昇温)(2)重質残渣油注入・熱分解(約500℃)(3)水冷 (4)コークス切り出し(常温)の4過程を24〜48時間サイクルにて運転される。過酷な繰返し熱荷重を受けるため,数年間の運転を経て,シェル周溶接線とシェル・スカート接続部に熱疲労割れ,シェル部にバルジング変形(塑性変形)が発生する。これらの損傷メカニズムの解明と熱疲労寿命評価の検討を行った。本学位論文は,下記に示す3題目にて構成されている。
1. Initiation of Bulging in Coke Drum subjected to Cyclic Thermal Loads
(繰返し熱荷重によるコークドラム・バルジング変形発生原因の解明)
 全長25.46 m, 内径6.4 m, 肉厚42 mmのコークドラムを研究題材として,熱応力解析を行うために必要な運転中のシェル外表面温度を計測・収録した。2次元軸対称モデルとして,ANSYS FEM Codeを適用して非定常熱応力解析を行った。運転中の経過時間毎の相当応力値を確認した結果,水冷時に最大相当応力値がコークドラム・シェル材料の降伏点を越えていることを確認した。これにより,本体シェル部のバルジング変形(塑性変形)は,水冷時に発生する熱応力に起因していると考えられる。
2. Effects of Switching Temperature on Thermal Fatigue Life of Shell-to-Skirt Junction of Coke Drum
(シェル・スカート接続部の熱疲労寿命に及ぼす重質残渣油注入時のコークドラム缶内温度の影響)
 同一仕様・寸法にて製作された海外ユーザの4基のコークドラム(運転サイクル時間48時間)を研究題材として,運転時の温度・ひずみ計測データを1分毎に収録した。シェル・スカート接続部の最も発生応力値が高い箇所を特定するために,数種類の運転サイクルの計測温度データを用いて,ANSYS FEM Codeを適用して非定常熱応力解析を行った。
 熱疲労寿命評価を,収録した温度・ひずみ計測データ,FEM解析結果,及び物質・材料研究機構(National Institute for Material Science)発行「高温機器材料の低サイクル疲労特性」に記載の疲労試験データを使用して行った。結果として,加熱重質残渣油注入時のコークドラム缶内温度と,シェル・スカート接続部の熱疲労寿命に強い相関関係があることが確認され,それを数式化した。これにより,コークドラム運転者は,コークドラムを安全に運転し,その長寿命化検討を容易に行うことができる。
3. Remaining Life Assessment to a Coke Drum having Cracks subjected to Cyclic Thermal Loads
(繰返し熱荷重による亀裂を有するコークドラム余寿命評価手法)
 ドラム本体胴に亀裂が存在する場合の亀裂進展評価による余寿命評価手法を提案し,その妥当性を確認した。

論文審査結果の要旨

 コークドラムは石油精製分留時に生成される残渣の重質油を熱分解することにより軽質油とコークスを得る装置である。コークドラムは24〜48時間サイクルで,ドラム昇温過程,高温残渣油注入・熱分解(約500℃)過程,水冷過程,コークス切り出し(常温)の過程で繰返し運転される。このような過酷な繰返し熱負荷を受けるため,数年の運転を経て,本胴体シェル部にバルジ変形が,さらに熱疲労による亀裂が発生し,またドラムを支えるためのスカート取付け部の破損等が問題となっている。これらの損傷メカニズムの解明と熱疲労寿命評価法の確立が強く望まれている。
 本研究では,先ずコークドラム運転時のドラム外表面温度の計測を行い,FEM Code ANSYSを用いて2次元軸対称解析モデルを構築し,実測値を用いた非定常熱応力変形解析を行って,コークドラム本体胴のバルジ変形発生メカニズムの解明を行っている。運転中のドラム各部位における相当応力の時間変動から,水冷過程においてコークドラム材料の降伏応力値を超える部位および時間域があることを示し,本胴体シェル部のバルジ変形は水冷時に生ずる熱応力変形に起因することを明らかにしている。次に,バルジ変形に伴い発生するヒートクラックが存在する場合について,破壊力学的手法を用いて,すなわちParis則に基づいて亀裂進展挙動の検討を行い,コークドラム本体胴の寿命評価手法を提案している。さらに,実際の4基のコークドラムに関して,スカート取付け部の熱ひずみおよび壁面温度実測値を用いた非定常熱応力解析を行い,熱疲労損傷評価を行って,高温重質残渣油の注入開始時間とスカート取付け部の疲労寿命に強い相関関係があることを見出している。これらの成果を基に,コークドラム運転者が長寿命化検討を容易に行えるように両者の関係を数式化して提案している。
 本論文の内容は,石油精製プラントにおける残渣重質油を熱分解するコークドラムの熱疲労寿命評価の向上に大きく寄与するものであり,本論文は博士論文としての価値を充分有するものと認める。