氏    名  上 村 義 彰 (うえむら よしあき)

学位論文題目  自動車ボルト締結部における被締結鋼板の衝撃破断に関する研究

論文内容の要旨

 自動車製造において,開発コストの低減や開発期間の短縮のみならず,自動車の安全性と信頼性確保のため,設計段階でのCAE技術の有効活用が不可欠であり,実現象の再現性向上が重要となっている。CAE技術による衝突シミュレーションの精度向上を図るためには,テーラード・ブランク溶接部やスポット溶接部の衝撃破断強度のほか,ボルト締結体の衝撃破断に関する正確な評価が必要である。しかし,ボルト締結部に関しては,ボルト自体の強度・破断などに関する研究は数多く見られるが,ボルト締結された被締結鋼板の衝撃破断に関する報告はほとんど行われておらず,衝突シミュレーションにおいて必要とされるボルト締結部の衝撃破断基準の構築が望まれている。
 実際の車両衝突時,サスペンションフレームとブラケットサスペンションフレームリアマウンチングのボルト締結部において,複雑な衝撃変形が生じボルトが被締結鋼板を剪断しながら斜め方向に引き抜ける場合がある。本研究では,この斜め引抜け破断を,ボルトが被締結平板の面内方向に移動して生じる剪断的破断とボルトが被締結平板に垂直な方向に引き抜ける引抜き破断の2つの破断パターンに分けて静的および衝撃破断試験と数値解析を実施し,ボルト締結された被締結鋼板の衝撃破断挙動に関して検討を行った。静的試験は,万能材料試験機INSTRON5586を使用し,衝撃剪断的試験および引抜き試験には,引張型のスプリット・ホプキンソン棒装置,ワンバー法による落錘式衝撃試験装置をそれぞれ用いた。また,ボルト締結体の被締結鋼板における破断メカニズムを明らかにするために,FEMコードANSYSおよびLS-DYNAを用いて数値解析も同時に行った。
 本論文は6章で構成されている。第1章では,本研究の背景および概要を述べている。第2章では,本研究で用いた衝撃剪断的破断強度および引抜き破断強度の測定法について示している。第3章では,ボルト締結された被締結鋼板の剪断的試験および数値解析を行い,剪断的破断強度を明らかにしている。第4章では,引抜き試験および数値解析を行い,引抜き破断強度を明らかにしている。第5章では,第3章と第4章で評価した剪断的破断強度および引抜き破断強度からボルト締結された被締結鋼板の応力表記による破断基準を提案している。最後に,第6章は結論である。


論文審査結果の要旨

 自動車産業界では,自動車の衝突安全設計において開発コストの低減や開発期間の短縮のため,設計段階でCAE技術による設計が主流になってきており,耐衝突特性の予測精度を向上させることが重要になっている。CAE技術による衝突シミュレーションを精度よく行うためには,テーラード・ブランク溶接部やスポット溶接部の衝撃変形強度のほか,ボルト締結部の衝撃破損・破断の正確な評価が必要である。しかし,ボルト締結部に関しては,ボルト自体の強度・破断やゆるみ・トルク管理などに関する研究は数多く見られるが,ボルト締結された被締結鋼板の衝撃破断に関する報告はほとんど行われておらず,CAEによる衝突シミュレーションにおいて必要とされるボルト締結部の衝撃破断基準の構築が望まれている。
 本論文では,自動車の衝突安全強度設計に関して,サスペンションフレームとブラケットのボルト締結部の被締結鋼板の衝撃破断基準の構築を行っている。車両衝突時,サスペンションフレームとブラケットの重ねボルト締結部の破断において,ボルトが締結鋼板を剪断しながら斜め方向に引き抜ける場合がある。この斜め引抜け破断を,引張強度270MPa級の自動車用普通鋼板および引張強度440MPa級の高張力鋼板を試験材料として使用し,ボルトが締結平板の面内方向に移動して生じる平板の剪断的な変形破断,ボルトが締結平板の垂直方向に引き抜けるボルト引抜け破断の二つの衝撃破断パターンに分けて,それぞれ静的試験および衝撃試験を実施して,また数値解析を行って比較検討を行っている。剪断的な変形破断に関しては,縁端距離(剪断長さ)の増加とともに破断荷重が大きくなるが,それらを剪断面積で除した応力-ひずみ構成式は縁端距離によらずほぼ一定になること,また,引抜き破断に関しては,ボルト座金外周が大きくなるにつれて破断荷重が大きくなるが,それらを座金外周部下の断面積で除した引抜き応力で評価すれば,引抜き強度は座金外径によらずほぼ同じになることを明らかにする等,多くの有用な知見を得ている。また,これらを総合して,CAE技術による自動車衝突シミュレーションのための自動車ボルト締結部の被締結鋼板の衝撃破断基準を提案している。
 本論文の内容は,自動車の衝突安全設計およびCAE技術による自動車衝突シミュレーションの精度向上に大きく寄与するものであり,本論文は博士論文としての価値を充分有するものと認める。