氏    名  田 川 幸 宏 (たがわ ゆきひろ)

学位論文題目  適応機能を持つ速度計測アルゴリズムに関する研究

論文内容の要旨

 高速のサーボシステムでは,可動部分の速度に比例する速度起電力を発生する可動コイル型モータがアクチュエータとして多く用いられている。従って,この速度起電力を精度良く計測できれば,これらのアクチュエータは,単なるアクチュエータではなく,速度センサ付のアクチュエータとして利用できるようになり,幅広い応用が期待される。
 このため,古くから,アクチュエータをブリッジ回路の一辺に挿入して入力電圧をバランスさせ,速度起電力のみを取り出すなどの方法が研究されてきた。しかし,速度起電力は入力電圧に比較して小さい場合が多いため,温度変化などによるアクチュエータの抵抗およびインダクタンスの変動に対する感度が高く,実用的な精度が得られなかった。
 本論文は,この困難を克服するための方法として,外乱オブザーバによる速度起電力計測アルゴリズムに適応機能を持たせた,新しい速度計測アルゴリズムを提案するものである。第1章は序論であり,本論文の目的,意義および構成などについて述べている。第2章は本研究の切っ掛けとなった関連の研究である。2.1は光ディスク装置関係のアクチュエータ全体に対する通常の外乱オブザーバ(以下,通常型外乱オブザーバと呼ぶ)であるが,将来,アクチュエータの適切な出力センサが開発されれば,速度など,状態量の計測において極めて有効である (現在利用されているのは,エラーセンサであって,出力センサではない)。2.2はその電気回路部に対する通常型外乱オブザーバである。これは後の章で述べるが,適応機能を持たせることで,矢張り,有効に利用できる。第3章では,提案するアルゴリズムで用いる,2つのタイプの外乱オブザーバによる2種類の速度起電力の計測原理について述べている。第4章は,第1番目の原理に基づく速度計測アルゴリズムである。4.1は,アルゴリズム全体の構成についての説明である。4.2は,自動パラメータ調整系の解析である。このシステムは,モデルのパラメータを実システムのパラメータに一致させるもので,提案するアルゴリズムに適応機能を持たせるために,外乱オブザーバに結合されたものである。4.3では,このアルゴリズムの設計について述べている。第5章は,第2番目の原理に基づく速度計測アルゴリズムである。原理の関係する部分のみが第4章と異なる。第6章は,シミュレーションとシミュレーション結果の説明である。解析では種々の近似を行ったが,動作は全て予期した通りであり,本アルゴリズムの正当性および有用性が確認された。第7章は結論である。
 本研究の独創性および新規性は次のように要約できる。(1) アクチュエータの速度起電力を計測するために,2つのタイプの外乱オブザーバをアクチュエータの電気回路部分に対して開発したこと。2つのタイプの外乱オブザーバは,それぞれ,近似微分型および拡張通常型と名付けた。(2) 提案するアルゴリズムに適応機能を持たせるために,高精度の自動パラメータ調整系を開発し,巧みに,これらの外乱オブザーバと一体化したこと。

論文審査結果の要旨

 高速サーボシステムでは,アクチュエータとして可動コイル型モータが広く用いられている。サーボシステムの制御に必要な可動部の速度情報は,可動コイルの速度起電力を測定することで得ることができる。しかし,この起電力は一般に小さく,種々の要因により影響を受け実用的な精度で得ることがむずかしい。本論文はこれらの要因があっても速度起電力を適応的に計測するアルゴリズムを新たに提案し有効性について検討したもので7章よりなる。
 第1章は序論で本研究の背景と目的,および意義等を述べている。
 第2章では,本研究の関連研究であり,また提案する手法のベースとして利用される通常型外乱オブザーバについて説明するとともにシステムに組み込む場合の構成法についてまとめている。これを利用することによる計測誤差の動的な振る舞いをエラーシステムで示している。さらに,これを用いる計測法ではアクチュエータパラメータの変動の影響を強く受けることも明らかにしている。
 第3章ではシステムに変動がない理想状況を想定し近似微分型外乱オブザーバと通常型外乱オブザーバによる速度起電力の測定原理を明確にしている。
 第4章ではシステムに変動があることを前提に適応的に速度起電力を測定する原理について検討している。まず,基本構成として近似微分型外乱オブザーバを考えそこにシステム変動に適応して真の計測値を得ていく適応アルゴリズムを提案している。これを実現するシステムは一種の自動パラメータ調整系になりモデルのパラメータを実システムのパラメータに一致させるように働く。解析的な検討を加え,これが有効に機能することを明解に示している。この提案手法はまったくオリジナルなもので高く評価できる。
 第5章では通常型外乱オブザーバを基本構成としても4章と同様の適応アルゴリズムを適用できることを示している。この結果は本アルゴリズムの広い利用可能性を示唆するものでもある。
 第6章では種々の条件を設定しシミュレーションにより提案した速度計測アルゴリズムが有効に働くか,実用的な計測精度は得られるかなどを検討した結果,極めて有効であることが確認されている。
第7章では本研究の結論が述べられている。
 以上,本論文はアクチュエータの速度起電力の計測機能として新たに適応アルゴリズムを提案し,その有効性を示したものでサーボシステムの制御系を構成する上できわめて有用である。よって,本論文は博士(工学)の学位論文に値すると認められる。