氏    名  澁 川 卓 実 (しぶかわ たくみ)

学位論文題目  還元剤を含む吸収液を用いた湿式脱硝法に関する研究

論文内容の要旨

 窒素酸化物は光化学スモッグや酸性雨の原因となる大気汚染物質である。現在,排煙脱硝操作は乾式が主流であり,乾式脱硝の研究・開発は進んでいるが,湿式については遅れている。乾式法は副産物が無く,NOXが窒素に無害化されて,かつ反応速度や除去率にも優れている。反面,使用する触媒が短寿命であり,触媒の活性を発揮させるため,623 K以上の高温を維持しなければならない。湿式脱硝法はNOの処理が困難であることと,吸収廃液の回収または無害化処理に問題がある.従来法の最終生成物は硝酸塩であったが,最終生成物を亜硝酸塩とすることで,それにアンモニウム源を加えて亜硝酸アンモニウムとした後,373 K以下の低温加熱分解によって窒素と水に無害化できる。
 本研究では,NO2吸収時の硝酸生成を抑え,生成物を亜硝酸塩とする湿式脱硝法およびアンモニウム塩を添加することによる吸収液中の亜硝酸塩除去方法の確立を目的とする。
 第1章は緒論であり,本研究の背景,既往の研究,本研究の目的について述べた。
 第2章では,NO2吸収と還元剤添加の効果について実験的に検討し,吸収液に亜硫酸塩を添加することで生成物を制御できることを明らかにした。
 第3章では,還元剤として亜硫酸塩を用いた場合のNO2の吸収について実験的に検討し,亜硫酸ナトリウム濃度,酸・塩基の添加,イオン強度の影響を明らかにした。
 第4章では,亜硫酸マグネシウム,亜硫酸カルシウムを用いた場合,亜硫酸ナトリウムの場合と同様の取り扱いができることを明らかにした。
 第5章では,亜硫酸塩水溶液によるNO2の吸収におよぼす温度の影響を明らかにした。
 第6章では,亜硝酸の自己分解について実験的に検討し,pH項を組み込んだ反応速度式を提示した。
 第7章では,亜硝酸アンモニウムの分解速度を実験的に検討し,分解反応速度におよぼす亜硝酸イオン濃度,アンモニウムイオン濃度,温度の影響を明らかにした。
 第8章では,還元剤として有機酸を用いた。アスコルビン酸を用いた場合,亜硫酸塩添加量の1/10程度で同等のヒドロキシラジカル除去性能を示すことを明らかにした。また,ポリフェノールを用いた場合,亜硝酸イオンの生成挙動は亜硫酸塩やアスコルビン酸を用いた場合と異なるものの,ラジカル捕捉係数の違いからポリフェノールの方が亜硝酸イオン生成速度を大きくできることを明らかにした。
 第9章では,酸素を伴うSO2の吸収による亜硫酸イオンの生成について実験的に検討し,亜硫酸イオン生成におよぼすpHおよび温度の影響を明らかにした。
 第10章では,本論文で得られた知見を総括した。


論文審査結果の要旨

 窒素酸化物に関する環境保全技術として脱硝法がある。現在は乾式法が主流であるが,湿式法については遅れている。乾式法は水素などとNOxが反応して無害化され,その際に副産物が無く,反応速度や除去率にも優れている。しかし,使用する触媒が短寿命であり,触媒の活性を発揮させるため,623 K以上の高温を維持しなければならない。湿式法は硝酸塩を含む吸収廃液の無害化処理等に課題があったが,硝酸塩の生成を抑え,亜硝酸塩とすることができれば,それにアンモニウムイオンを加えて373 K以下の低温加熱分解によって窒素と水に無害化できる。吸収と亜硝酸アンモニウムの加熱分解を組み合わせた湿式脱硝法は排水処理工程・コストを大幅に減らせる可能性がある。
 本研究では,様々な吸収液でNO2吸収を行い,還元剤である亜硫酸塩を添加することで生成物をほぼ亜硝酸塩のみに制御できることを確認している。その際,ナトリウム塩,マグネシウム塩,カルシウム塩のいずれであっても良いことを実験的に証明するとともに,実用の視点から吸収液温度の影響も検討し,液温度が高いほど硝酸塩の生成を抑えられることを示している。さらに,亜硝酸の自己酸化還元反応について実験的に検討し,pH項を組み込んだ反応速度式および自己酸化還元反応の反応モデルを提案し,反応の量論関係を説明できることを示している。生成した亜硝酸塩にアンモニウム塩を添加することで分解・除去が可能であることを実証するとともに,その反応メカニズムについて検討し,反応が二次反応であること,分解反応速度の温度依存性がアレニウス型で表せることを示している。また,亜硫酸塩を別途添加するのではなく,排ガスに含まれているSO2で亜硫酸塩吸収液を製造する方法を検討し,排ガスに酸素が含まれている場合であっても液のpHを4程度に維持することで吸収液を製造できる可能性を示している。アスコルビン酸水溶液やポリフェノール水溶液など,還元剤として亜硫酸塩以外のものを使用できることを示し,アスコルビン酸を用いた場合,亜硫酸塩添加量の1/10程度で同等の性能を示すこと,ラジカル捕捉係数の違いからポリフェノールの方が亜硝酸イオン生成速度を大きくできることを明らかにしている。
 以上のように,本研究で得られた成果は,新規な湿式脱硝システムの開発につながるとともに,地球規模の大気環境保全に大きく貢献すると考えられる。よって,本論文の筆者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認める。