氏    名  田 中 真 人 (たなか まさひと)

学位論文題目  球状バナジウム炭化物鋳鉄の疲労強度に関する研究

論文内容の要旨

 近年,機械・構造物の高性能化,使用環境の苛酷化などから,耐食性,耐摩耗性に優れる高付加価値の耐久材料の開発が求められている。その要求を満たす材料として,組織中に球状のバナジウム炭化物(VC)を晶出させた球状バナジウム炭化物鋳鉄(Spheroidal carbide cast iron : SCI)がある。特にクロム(Cr),ニッケル(Ni)を添加したSCI-VCrNiは,良好な耐食性と耐摩耗性を報告されている。SCI-VCrNiは耐食性,耐摩耗性,高強度を併せ持つ材料であることから,機械構造用材料として広範な応用が求められている。
 しかしながら,SCI-VCrNiは機械構造用材料に不可欠な強度特性である,疲労強度に関する報告は数少ない。そこで本研究では,SCI-VCrNiの平面曲げおよび回転曲げ疲労強度の解明を行うとともに,破面観察を行い,組織中に分散したVCの影響を調べた。また,回転曲げ疲労試験において切欠き感受性についても評価を行い,球状炭化物鋳鉄の疲労特性について評価した。
 第一章では,球状バナジウム炭化物鋳鉄の特性について述べるとともに,本研究の意義及び目的を述べた。
 第二章では,平面曲げ疲労試験を行い,その疲労強度を明らかにした。その結果,SCI-VCrNiの疲労強度はσW=358MPaであった。また,破面観察により,VCは,き裂成長の障壁として関与する。しかしながら,疲労き裂発生点としては,密集したVCが起点として最も支配的であった。
 第三章では,平面曲げ疲労試験を行い,疲労強度に及ぼすVCの影響について検討するとともに,SCI-VCrNiの試験片表面に微小な人工欠陥を導入し,SCI-VCrNiの下限界応力拡大係数範囲ΔKthについて予測した。その結果,VCが基地組織中に分散することで,疲労強度の向上に寄与することが明らかとなった。しかしながら,VCが密集すると,亀裂の起点となる。導入した微小な人工欠陥および密集したVCの大きさより,パラメータ法を用いて,ΔKthを予測した結果,ΔKth=5〜6MPaと予測した。
 第四章では,SCI-VCrNiの回転曲げ疲労試験を行い,その疲労強度を明らかにした。その結果,疲労強度は,σW=350MPaであった。疲労破面は,平面曲げ疲労試験と同様の結果となった。
 第五章では,種々の切欠きを施した試験片を回転曲げ疲労試験を行い,その切欠き感受性について明らかにした。
 第六章は総括であり,本研究の成果を要約している。

論文審査結果の要旨

 近年,機械・構造物の高性能化,使用環境の苛酷化などから,耐食性,耐摩耗性に優れる高付加価値の耐久材料の開発が求められている。その要求を満たす材料として,組織中に球状のバナジウム炭化物(VC)を晶出させた球状バナジウム炭化物鋳鉄(Spheroidal carbide cast iron : SCI)がある。特にクロム(Cr),ニッケル(Ni)を添加したSCI-VCrNiは,良好な耐食性と耐摩耗性を報告されている。SCI-VCrNiは耐食性,耐摩耗性,高強度を併せ持つ材料であることから,機械構造用材料として広範な応用が求められている。
 本論文では,平面曲げ疲労試験および回転曲げ疲労試験を行い,その疲労強度を明らかにした。また,疲労破面観察により,バナジウム炭化物(VC)は,き裂成長の障壁として関与するが,疲労き裂発生点としては密集したVCが起点として最も支配的であった。さらに,疲労強度に及ぼすVCの影響について検討するとともに,SCI-VCrNiの試験片表面に微小な人工欠陥を導入し,SCI-VCrNiの下限界応力拡大係数範囲ΔKthについて予測した。その結果,VCが基地組織中に分散することで,疲労強度の向上に寄与することが明らかとなった。しかしながら,VCが密集すると亀裂の起点となる。導入した微小な人工欠陥および密集したVCの大きさより,パラメータ法を用いて,ΔKthを予測した結果,ΔKth=5~6MPa と予測した。
 さらに,疲労強度部材として重要な要素である切欠き感受性について,種々の切欠き(R2およびR0.5)を施した試験片を回転曲げ疲労試験を行い,その切欠き感受性について明らかにした。その結果,SCI-VCrNiは,球状黒鉛鋳鉄(FCD400)よりも切欠き係数は小さくなった。その理由として,基地組織がオーステナイトであることから,切欠き係数が1に近く,切欠きに鈍感であることを明らかにした。
 しかし,実際に採用されるためには,基地組織中にVCを均一分散することで,疲労強度に対する信頼性を向上させる必要であることも示した。
 よって,以上の成果は,材料の疲労強度に関する工学的意義が十分と認められ,博士(工学)論文にふさわしい内容であると判断する。