氏    名  吉 田 嘉 晃 (よしだ よしあき)

学位論文題目  ラセン構造を有する脂肪族置換ポリアセチレンの合成と
        その主鎖構造の精密制御

論文内容の要旨

 近年,置換ポリアセチレンのラセン構造に関する非常に多くの研究がなされ,片向巻きラセン誘起,不斉誘導重合,主鎖のラセン反転に関する研究が報告されてきた。しかしながら,これらのラセン高分子において,主鎖の幾何構造及び高次構造に関係する分子運動や反転メカニズムなどは明らかにされていない。従って,主鎖構造を精密に制御するには溶液および固相における空間的および幾何学的な構造を精密に決定することが大変重要である。
 これまで,ロジュウム錯体,[Rh(ノルボルナジエン)Cl]2 が置換アセチレン,例えばフェニルアセチレンおよびアルキルプロピオレートを高度に立体規則的に重合させてラセン構造のシスートランソイド体のポリマーを与え,そのラセン鎖の自己集合としてのカラムナーを作ることを明らかにして来た。本研究では,主鎖と側鎖が共役したポリマーとして,側鎖に炭素数が異なる直鎖状のアルキル基あるいは分岐アルキル基を有するポリ(アルキルプロピオレート)を,また,主鎖と側鎖の共役が断ち切られたポリマーとして,種々の脂肪族エステル基を有するポリ(プロパルギルエステル)を合成し,NMR, UV-vis, CD, IR, XRD,ESR法を用いて,生成ポリマーの溶液及び固相における主鎖幾何構造及び高次構造を詳細に解析した。1H-NMR および UVの スペクトルデータにもとづき,ポリ(アルキルプロピオレート)の場合,主鎖が伸びたラセン鎖と縮んだラセン鎖を取ることが見出された。一方,主鎖と側鎖が共役していない,ポリ(プロパルギルアセテート)を合成し,生成したシス及びトランスラジカルのESRスペクトルの解析をスペクトルシュミレーションとスピン密度計算の結果を参照して行い,空間的及び幾何学的な構造の解析に成功した。

R1= various side-chains
Scheme 1. Synthesis of mono-substituted polyacetylenes with Rh catalyst in MeOH.


論文審査結果の要旨

 共役系ポリマーは種々の優れた性質を有しており,高分子液晶,ガス分離膜,光・熱・圧力等の外部刺激応答材料等で応用,実用化されている。共役系ポリマーである置換ポリアセチレンは,多くの機能性を発現し得る新材料として期待されているが,実用化には,その幾何構造及び高次構造に関する精密な解析が必要不可欠である。近年,置換ポリアセチレンのラセン構造に関する多くの研究が報告されており,一方向巻きラセン誘起やその構造の保持など,ラセンの制御に関する詳細な研究が行われてきた。しかしながら,これらのラセン高分子において,ラセン反転等を含む主鎖幾何構造及び高次構造の動的なメカニズムやプロセス等は明らかにされておらず,今後も十分な検討が必要とされている。また,多くの報告例は,主鎖と側鎖に共役系を有するポリマーであることから,主鎖と側鎖の共役が断ち切られた場合における主鎖幾何構造及び高次構造を研究することは,置換ポリアセチレンのラセン構造を精密制御する上で非常に重要である。
 本研究では,主鎖と側鎖が共役したポリマーとして,側鎖に炭素数が異なる直鎖状のアルキル基あるいは分岐アルキル基を有するポリ(アルキルプロピオレート)を,また,主鎖と側鎖の共役が断ち切られたポリマーとして,種々の脂肪族エステル基を有するポリ(プロパルギルエステル)を合成し,NMR,UV-vis,CD,IR,XRD,ESRなどの種々の分光分析機器を用いて,合成したポリマーの溶液及び固相における主鎖幾何構造及び高次構造を詳細に解析した。
 種々の機器分析結果より,ポリ(アルキルプロピオレート)の場合,主鎖のラセン構造が,これまで報告されてきた一方向巻きラセン誘起のみならず,バネのように伸縮している可能性が示唆された。この主鎖幾何構造の変化は,側鎖アルキル基の構造に強く依存するため,その側鎖構造を任意に変化させることで,主鎖ラセンピッチを精密制御することに成功した。また,ポリ(プロパルギルエステル)の場合,主鎖は非常に緩いラセン構造を形成し,固相において分子間で層状構造を形成していることが明らかとなった。
 以上,本研究において,新たに系統的に合成した脂肪族置換ポリアセチレンの溶液及び固相における主鎖幾何構造及び高次構造を詳細に解析し,その主鎖構造の制御に関する新規な知見を得ることができた。この研究成果は,多くの機能性を発現する新材料として期待されるラセン高分子の構造を明らかにしたことから,学術的に高く評価されるものであり,博士(工学)論文として充分な内容であると判断した。