氏    名  オマール マソード サド

学位論文題目  Synthesis and Sintering of Rare Earth Copper Sulfides
        (希土類銅硫化物の合成と焼結)

論文内容の要旨

 希土類遷移金属カルコゲナイドでは,CuS4層とLn4S層の層状構造において,Ln層のキャリア濃度と結晶配向の最適化がなされれば,熱電特性が向上する可能性がある。本研究では,錯体重合法により合成したLnとCuの複合酸化物や複合炭酸塩を用い,そのCS2ガス硫化によりLnCuS2(Ln : Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb)を合成し,さらにパルス通電焼結法により焼結体の作製を試みた。錯体重合法によりLn2CuO4と推定される複合酸化物のピークの他に微弱なCuOのピークが確認されたのに対し,CS2ガス硫化後は1273, 1173, 1173, 1348, 1273, 1273 Kのそれぞれの硫化温度においてX線的に単相のLnCuS2(Ln=Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb)の生成が確認された。とくに,PrCuS2については,H2Sガスを用いた場合,1420 K以上の硫化によりX線的単相が合成されているが,本研究では1173 KのCS2ガス硫化により単相の生成を確認した。
 なお,これらの硫化温度よりも低温の硫化ではLnCuS2の他に中間生成物である微弱なLnOCuSの生成が確認され,そのXRD強度は低温の硫化ほど増加した。 LnCuS2は次のような生成挙動によって合成されるものと推定される。最初に,ナノサイズのLn2O2CO3由来のLn2O3とCu/Cu2O/CuO の反応によりLn2CuO4 とCuOの混合物が生成し,次に,Ln2CuO4 とCuOの混合物中のCu2+がS2-によって還元されることにより生成する中間生成物であるLnOCuSを経由してLnCuS2が生成する。X線的単相が確認されたLnCuS2の化学分析の結果,不純物酸素,炭素濃度は硫化条件に依存し,硫化温度が高温ほど不純物酸素は減少する傾向を示した。本研究では,不純物酸素と不純物炭素は硫化温度が1223 KのPrCuS2では0.073 mass%, 0.07 mass%,1223 KのNdCuS2では0.15 mass%, 0.04 mass%,1173 KのSmCuS2では0.16 mass%, 0.05 mass%,1173 KのGdCuS2では0.45 mass%, 0.11 mass%となり,錯体重合法の後の焼成により残留有機物が分解され,これらの硫化条件では比較的不純物濃度が抑えられることが確認された。
 続いて,X線的単相が確認された合成粉末を用いて焼結した。焼結時の焼結体の線収縮率曲線よりPrCuS2では900 K,NdCuS2では1185 K,SmCuS2では1175 K,GdCuS2では1100 K付近から大きな収縮が確認され,PrCuS2の融点が最も低く,GdCuS2, SmCuS2, NdCuS2の順に融点が増加することが容易に予想される。また,それぞれの焼結体のXRDの結果,いずれにおいても焼結前の合成粉末と同様のLnCuS2単相の生成が確認された。ところで,焼結体断面の研磨面の光学顕微鏡観察により,いずれの試料においても低温の焼結では硫化銅と推定される析出物の分散が確認され,高温ではこの析出物が一度消滅し,さらに高温では再び出現することが確認された。また,焼結体の300〜800 K付近までの熱電特性を測定したところ,高温ほど焼結体の電気抵抗は減少し,反対にゼーベック係数は増加した。その結果,パワーファクターは従来の値と較べて著しく増加し,しかも高温ほど増加した。


論文審査結果の要旨

 Th3P4型立方晶希土類三二硫化物は高温域熱電材料として有望であるが,本論文は希土類の一部を資源供給安定性に優れたCuで置き換え,さらに層状構造に起因した熱伝導率の低下により熱電特性の向上が期待される希土類銅硫化物の合成および焼結に関するものである。最初に,組成的に均一な希土類銅硫化物を得るために錯体重合法により合成したLnとCuの複合酸化物や複合炭酸塩を用い,そのCS2ガス硫化によりLnCuS2(Ln : Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb)を合成した。錯体重合法によりCuOがわずかに含まれるLn2CuO4を合成し,続くCS2ガスを用いた硫化により単相のLnCuS2(Ln : Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb)を合成するに至った。とくに,硫化では,硫化温度を因子とした詳細な実験を行い,それぞれの希土類で異なる最適硫化温度を求めた。また,LnCuS2の生成過程は,最初にナノサイズのLn2O2CO3由来のLn2O3とCu/Cu2O/CuO の反応によりLn2CuO4 とCuOの混合物が生成し,次に,Ln2CuO4 とCuOの混合物中のCu2+が硫黄によって還元生成するLnOCuSを経由して生成するものと考察した。単相が確認されたLnCuS2の不純物酸素,不純物炭素濃度は硫化条件に依存し,硫化温度が高温ほど不純物酸素は減少する傾向を明らかにした。最適硫化条件では,不純物酸素と不純物炭素は硫化温度が1223 KのPrCuS2では0.073と0.07 wt%,1223 KのNdCuS2では0.15と0.04 wt%,1173 KのSmCuS2では0.16と0.05 wt%,1173 KのGdCuS2では0.45と0.11 wt%となり,希土類硫化物としてはかなり不純物濃度が低いものが得られた。続いて,単相が確認された合成粉末を用いてパルス通電焼結法による焼結を行った。焼結時の線収縮率曲線からPrCuS2では900 K,NdCuS2では1185 K,SmCuS2では1175 K,GdCuS2では1100 K付近から大きな収縮が確認された。また,それぞれの焼結体のXRDの結果,いずれにおいても焼結前の合成粉末と同様のLnCuS2単相の生成が確認された。ところで,焼結体断面の研磨面の光学顕微鏡観察により,いずれの試料においても低温の焼結では硫化銅の析出物の分散が確認され,高温ではこの析出物が一度消滅し,さらに高温では再び出現することが確認された。また,焼結体の300〜800 K付近までの熱電特性を測定したところ,高温ほど焼結体の電気抵抗は減少し,反対にゼーベック係数は増加した。その結果,パワーファクターは従来の値と較べて著しく増加し,しかも高温ほど増加ずることを確認した。
 以上の多くの知見から,低環境負荷の元素から構成される希土類銅硫化物の新規熱電材料としての用途を提案することができる。