氏    名  スッティバット チョンティチャー

学位論文題目  Asymmetric Synthesis of Isoquinuclidine Derivatives
        by Diels-Alder Reaction Using Chiral Catalyst
        (キラル触媒を用いたデイールス・アルダー反応による
        イソキヌクリジン誘導体の不斉合成)

論文内容の要旨

 タミフルは現在,新型インフルエンザの第一選択薬であるが,最近その耐性菌が確認され,今後タミフルが効かなくなることが危惧される。したがって,その耐性菌に有効な薬の開発が急務となっている。その薬としては,タミフルの骨格を基盤としたタミフル類縁体が効力を発揮すると期待されており,類縁体を自由自在に合成できる不斉合成法の開発が必要である。その有効な方法の一つが有機分子不斉触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類のDiels-Alder (DA) 反応であり,タミフル合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を効率的に得ることができる。
 本論文は,安価に短工程で合成できるβ―アミノアルコール型有機分子触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類のDiels-Alder (DA) 反応が,タミフルおよびその誘導体の合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を得るための優れた合成手法になることを明らかにし,さらにβ-アミノアルコール型有機分子触媒の不斉分子触媒としての機能性についての新しいコンセプトを提案している。本研究において,β-アミノアルコール・CF3CO2H型有機分子触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン誘導体とアクロレインとの不斉 DA 反応が,目的とする光学活性イソキヌクリジン誘導体を優れた化学収率(up to 98%)と不斉収率 (up to 98%)で得るための有効な手法であることを見出した。このβ-アミノアルコール・CF3CO2H型有機分子触媒は,共有結合部位と非共有結合部位を有する二点配座型の有機分子触媒であり,触媒の共有結合部位である1級アミノ基とアクロレインとの酸触媒下での縮合により形成されたイミニウム部位と,そのイミニウム窒素上の水素との水素結合により固定化された1,2-ジヒドロピリジン誘導体が立体選択的に反応し,優れた化学収率と不斉収率が得られたことも本研究により示唆された。このことは計算結果とも良く一致している。


 次に,キラルなジエノフィルと1,2-ジヒドロピリジン類のDiels-Alder (DA) 反応により光学活性イソキヌクリジン誘導体を得るために,立体制御及び反応の促進効果を目指し,キラル配位子を有するルイス酸金属を触媒として用いた。 (R,R) -TADDOL/Ti (i-PrO)2Cl2 (30 mol%)存在下,1,2-ジヒドロピリジン1とキラルなジエノフィルである4-ベンジル-3-アクリロイルオキサゾリジノン (4S)-2を用いて,トルエン溶媒中,0 ℃, 24時間でDiels-Alder反応を行い, 環状付加体endo-(7R)-3を化学収率 99%(92% d.e.)で得た (Scheme 2)。 キラルなルイス酸とキラルなジエノフィル (4S)-2を組み合わせることにより,不斉誘導が重複され,高い立体選択性で環状付加体 (7R)-3を得ることに成功した。

   Scheme 2. TADDOL-Ti catalyzed Diels-Alder reaction of 1,2-dihydropyridine with chiral dienophile.


論文審査結果の要旨

 植物,動物,微生物などが,その生命の営みの中で生産し,代謝する有機化合物は,アルカロイドや天然有機化合物と呼ばれ,いずれも特殊な生理作用を有するものである。今日,医療の現場で薬は多く用いられているが,抗癌作用を示すアルカロイド等をモデルにして,有効な物質を有機合成により選択的にかつ効率的に合成することが求められている。
 タミフルは現在,新型インフルエンザの第一選択薬であるが,最近その耐性菌が確認され,今後タミフルが効かなくなることが危惧される。したがって,その耐性菌に有効な薬の開発が急務となっている。その薬としては,タミフルの骨格を基盤としたタミフル類縁体が効力を発揮すると期待されており,類縁体を自由自在に合成できる不斉合成法の開発が必要である。その有効な方法の一つが有機分子不斉触媒を用いる 1,2-ジヒドロピリジン類の Diels-Alder (DA) 反応であり,タミフル合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を効率的に得ることができる。
 本論文は,安価に短工程で合成できるβ―アミノアルコール型有機分子触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類の Diels-Alder (DA) 反応が,タミフルおよびその誘導体の合成中間体である光学活性イソキヌクリジン誘導体を得るための優れた合成手法になることを明らかにし,さらにβ-アミノアルコール型有機分子触媒の不斉分子触媒としての機能性についての新しいコンセプトを提案している。本研究において,β-アミノアルコール・CF3CO2H 型有機分子触媒を用いる 1,2-ジヒドロピリジン誘導体とアクロレインとの不斉 DA 反応が,目的とする光学活性イソキヌクリジン誘導体を優れた化学収率(up to 98%)と不斉収率 (up to 98%) で得るための有効な手法であることを見出した。このβ-アミノアルコール・CF3CO2H 型有機分子触媒は,共有結合部位と非共有結合部位を有する二点配座型の有機分子触媒であり,触媒の共有結合部位である1級アミノ基とアクロレインとの酸触媒下での縮合により形成されたイミニウム部位と,そのイミニウム窒素上の水素との水素結合により固定化された 1,2-ジヒドロピリジン誘導体が立体選択的に反応し,優れた化学収率と不斉収率が得られたことも本研究により示唆された。このことは計算結果とも良く一致している。
 以上,本論文に示された内容は,β―アミノアルコール型有機分子触媒を用いて 1,2-ジヒドロピリジン誘導体とアクロレインとの不斉 DA 反応により光学活性イソキヌクリジン誘導体を得るための優れた合成手法を開発したものであり,学術的にも実用的にも有機合成化学に寄与するところ大で,高く評価されるものである。よって本論文は博士(工学)の学位論文に値すると認められた。