氏    名  アフィシャ ビンティ アリアス

学位論文題目  DEVELOPMENT OF FABRICATION TECHNIQUE
        FOR TRANSPARENT CONDUCTIVE OXIDE FILMS
        (透明導電性酸化物薄膜の作製技術の開発)

論文内容の要旨

 酸化物半導体は,環境に優しく,大気中でも安定な材料である。広範囲でキャリア密度を制御できるため,導電体,半導体,絶縁体材料として広く応用されてきた。多くの酸化物材料はワイドバンドギャップであり,透明薄膜トランジスタ(TFT),UV光デバイス,パワーデバイスなどへの応用が期待されている。酸化物材料には多くの種類があるが,デバイス応用されている材料はまだ少なく,新しい酸化物材料の開拓とその作製技術の開発が酸化物エレクトロニクスの発展のために期待されている。そこで本研究では,酸化物材料の作製技術の開発と,そのデバイス応用について研究した。ZnOはフラットパネルの透明電極や透明TFT材料として期待されているが,環境に優しく,低温で大面積に作製できるプロセス技術の開発が必要である。
 本研究では,大気中でも安定な酢酸亜鉛(ZnAc2)溶液を用いたCVD成長技術の開発を行った。N2キャリアガスを用いたバブリングにより,ZnAc2分子とH2O分子を安定に気相供給させ,基板上で反応させることによりにZnO薄膜を作製することに成功した。280〜700℃の成長温度でシリコン基板上にn型ZnO薄膜が堆積でき,活性化エネルギーが16kJ/molと低いことを確認した。また,可視光領域で80%以上の透過率を持ち,10-1 - 10-4 Ωcmの広範囲で抵抗率を制御でき,透明電極や透明半導体作製プロセスとして有望であることを実証した。この製膜手法を用い,350℃以下の温度でZnOTFTsを作製した。N2雰囲気で2時間の200℃アニールプロセスを行うことにより,酸素欠損などの欠陥が大幅に減少し,14 cm2・V-1・s-1と高い移動度を実現できた。
 この技術は,従来のCVDプロセスに比べ環境に優しく安全であり,ZnO薄膜を低温で大面積に作製することが可能なため有用である。一方,p型酸化物材料としてCu系酸化物材料が有望であるが,安定な気相成長用Cu材料がないため,主としてスパッタ法が用いられている。しかし,酸化物エレクトロニクスの発展のためには,気相あるいは液相成長を用いたCu系酸化物材料の作製技術の開発が必要である。そこで,Cuを含む結晶成長溶液を実現するために,化学反応をコントロールすることにより,安定なCu-O,Ga-O,Cu-Ga-Oなどのゾル溶液を開発した。Ga2O3とCuO膜は,CuGaO2膜作製のために先に作製した。CuGaO2膜の相転移は,ゾル溶液の調合,ポストベーク温度と時間に依存することがわかった。ゾル・ゲル法で作製したp型CuGaO2膜は高い透過性を示し,エネルギーギャップは約3.6eVである。膜の移動度を改善するために,四元のCuZnGaO2膜を作製し,1桁高い移動度を実現した。
 本研究では,ZnAc2溶液を用いたZnOのCVD成長システムを開発した。安定なCu-O,Ga-O,Cu-Ga-Oゾル溶液を開発し,CuGaO2系半導体薄膜をゾル・ゲルプロセスによって作製できた。本研究で開発されたゾル溶液は,他の液相や気相成長法に用いることにも有望である。


論文審査結果の要旨

 酸化物材料の多くはワイドバンドギャップを持ち,その導電性制御により絶縁体から半導体,導電体として幅広い用途に応用できる。近年では高品質なZnO成長技術の発展により,液晶パネルや白色LEDなどの半導体デバイスや,太陽電池の透明電極材料として注目されている。ZnOの化学気相成長(CVD)では有機金属が原料に用いられているが,反応性が高く危険で高価なため,安全で環境に優しく低コストなプロセスの開発が必要である。また,ZnOは酸素空孔や格子間亜鉛欠陥によりn型伝導となりやすく,p型化が困難である。そこで本研究では,ZnOとp型銅系酸化物薄膜の作製技術を原料の開発から出発し,それらをデバイス応用することを目標とした。
 水と酢酸亜鉛を用いたZnOのCVD技術を開発した。通常,酢酸亜鉛水溶液を窒素バブリングすると溶液中にZn(OH)2結晶が析出していくが,溶液中の酢酸亜鉛と添加剤の制御により,安定に酢酸亜鉛と水分子をCVD成長室へ気相供給可能となった。基板温度280℃以上で酢酸亜鉛と水との反応でZnOが成長でき,その活性化エネルギーは16 kJ/molと低く効率のよいプロセスである。膜の可視光透過率は80%以上と高く,3.3 eVのバンドギャップ(Eg)を持ち,抵抗率を10-1〜10-4 Ωcmの広範囲で制御できた。350℃以下の成膜プロセスで透明ZnO薄膜トランジスタを作製し,14 cm2/Vsと高い移動度で動作できた。
 酢酸銅とトリスアセチルアセトナトガリウムを用い,CuO,Ga2O3,CuGaO2およびCuZnGaO2成長原料を開発し,ゾル・ゲル法で各半導体薄膜を作製した。CuOは700〜800℃で高品質に成膜でき,Eg=1.2 eVとナローバンドギャップであるがp型伝導を確認した。Ga2O3では10%の銅添加でGa2O3(100)配向となり,Eg=4.9 eVで高い絶縁特性を得た。CuGaO2原料と成膜条件の最適化により,膜中にCuOやGa2O3の相分離がなく,Eg=3.6 eVで可視光透過率が80%あり,p型のCuGaO2薄膜が作製できることを実証した。透明CuGaO2薄膜トランジスタを作製し,紫外線センサーとして機能することを確認した。さらにCuZnGaO2材料を提案し,Zn添加によりZnOとの格子不整合度を低減でき,結晶の高品質化に有効であることを示した。  以上,本研究で得られた成果は,今後の酸化物エレクトロニクスの発展に大いに貢献するものと考えられ,本論文は博士(工学)論文にふさわしいと認められる。