氏    名  藤 田 雄 也 (ふじた ゆうや)

学位論文題目  FPGAを用いたポータブルハイパフォーマンスFDTD法専用計算機の開発

論文内容の要旨

 近年の電子機器の高周波化に伴い,その設計段階でのマイクロ波現象の詳細な把握が必要となっており,携帯電話から放射される電磁波の人体への影響の解析,プリント基板のノイズ解析など産業応用におけるマイクロ波シミュレーションの要求が強くなってきている。しかしながら,これら産業応用にも耐えうる実用的なマイクロ波シミュレーションを行なうためには,汎用PCでは,まだまだ計算速度,メモリ容量ともに不足しており,膨大な計算時間がかかるという問題がある。
 一般に大規模なシミュレーションを行なうためのHPC(High Performance Computing)技術の代表的なものにスーパーコンピュータがある。実際,スーパーコンピュータは,大規模なシミュレーションを高速計算できるが,これらは原則共同利用型であり,使用料金も高価であるため,誰もが使用できるものではなく,製品設計には適さない。このような理由から,近年,低消費電力で,かつ汎用PCに直接接続し,誰もが身近に扱えるポータブルなHPCという形態が切望されつつある。
 このとき,このようなポータブルなHPC技術の一つの可能性として,専用計算機という方式がある。すなわち専用計算機は,汎用PCと異なり,ターゲットとするスキームの計算以外を行なうことはできないものの,アーキテクチャを計算したいアルゴリズムに特化させることで,無駄のないハードウェア構成かつ低消費電力で高速演算や大規模計算が実現可能となるため,上記の汎用PCに直接接続することにより誰もが扱えるポータブルなHPCの一つの実現形態と期待される。
 このような背景から,本研究では,大規模なマイクロ波シミュレーションが可能なポータブルHPC環境の実現を目的とし,FDTD(Finite Difference Time Domain)法専用計算機を開発した。具体的には,まず,FPGA搭載のカスタムプリント基板を用いて,FDTD法に最適化したハードウェア構成を有する専用計算機のプロトタイプを開発した。そして,このFDTD法専用アーキテクチャをベースに,より大規模なシミュレーションを可能にするため,SDRAM搭載の専用計算機を開発し,さらに,高性能なマシンにするための並列システムを開発した。また,将来的に曲線形状が取り扱える高度なスキームを同専用計算機に導入する検討も行い,実現可能であることを論理回路シミュレーションにより確認した。これら開発したFDTD法専用計算機は,実際に動作させ,GPUや汎用PCなど他の計算システムと性能を比較し,その結果,消費電力あたりの計算速度が最も高く,当初目的のポータブルHPCの要求に十分答えるものであることを確認した。  以上,本研究により,マイクロ波シミュレーションのための有効なポータブルHPCシステムが実現できることを示した。

論文審査結果の要旨

 近年,電気電子製品における激しい開発競争に伴う機器の高周波化,高集積化に起因して,従来の回路解析では把握できないぎりぎりの設計が余儀なくされつつあり,そのような背景から,高周波回路設計など産業応用において,電磁界解析,とりわけ,マイクロ波解析が頻繁に用いられるようになっている。このとき,マイクロ波解析が実用的に製品設計に用いられるためには,従来のような部品レベルでなく,製品全体をまとめて解析することが要求され,それに伴い,産業応用においても,ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)技術が強く求められるようになってきた。一方,HPC技術そのものは,現在でも,スーパーコンピュータなど共同利用型のものが主流であり,必ずしもCADなどの製品開発現場の計算機環境になじむものではなく,このため,なんらかの産業応用に適したHPC技術が強く求められている。これに対する一つのソリューションとして,最近広まっているGPUコンピューティングがあるが,この方式には,単体ではメモリ容量が大きくなく,一方,並列計算時にはシステム全体としての性能が著しく低下してしまう,さらに,消費電力が非常に大きいなどの問題もあり,必ずしも有益に産業応用において利用できるものになってはいない。
 これらの背景に対し,本論文では,もう一つのHPC技術の可能性として,専用計算機の方法を提案し,これをFPGA搭載のプリント基板上に実装し,その有用性を示している。すなわち,マイクロ波解析において最も実績のある数値解析スキームである時間領域差分(FDTD)法を専用ハードウェア化することにより,メモリアクセスも含めスキームに特化しチューニングされたアーキテクチャが構築でき,これによりコンパクト,安価かつ高性能なマイクロ波シミュレータの実現が可能であることを示している。具体的には,まず,FDTD法に潜在する並列性を最大限引き出すことができる計算モジュールを構成したうえで,頻繁なメモリアクセスを最小限化するメモリモジュール構造を設計し,これをFPGA搭載のプリント基板上にプロトタイプマシンとして実現した。また,このプロトタイプマシンをベースに,産業応用で要求されるような実用的な大規模数値モデルが扱えるようメモリをDRAM化し,さらに,FDTD法のスキームを生かしたスケーラビリティの高い並列処理システムを実現した。またこれに加え,曲線形状の数値モデルを粗いグリッドでも取扱えるコンフォーマルスキームの導入をも検討している。これら開発したプリント基板の専用計算機マシンすべてを,実際に動作させ,正常に計算が行えることを確認するとともに,PCクラスタやGPU計算機と比較することにより,非常に高い消費電力対計算性能比が実現できることを示している。
 以上,本論文は,電気電子工学に寄与するところが大きく,博士(工学)の学位に値するものと判断する。