氏    名  李   麗 (リ リ)

学位論文題目  Numerical and Experimental Studies of Fluidic Thrust
        Vectoring Mechanisms
        (数値解析および実験による流体力学的推力偏向機構に関する研究)

論文内容の要旨

 航空機ならびに宇宙機の姿勢制御技術の一つとして幾つかの推力偏向技術が研究されている。可動フラップ等による機械的な推力偏向制御は既に人工衛星や一部の航空機で実用化されているが,重量増加による性能低下や保守等の面での問題が指摘されている。そこで,これに変わる方法の一つとして流体推力偏向制御(Fluidic Thrust Vectoring;FTV)が注目され,近年その研究開発が盛んに行われるようになった。FTVは推進機の排気ノズル形状は変化させずに,流体力学的作用を利用して排気流れの方向を変化させるものであり,機械的推力方向制御に比べて軽量化と機体構造の簡素化が可能なため,空力抵抗の低減や燃費の向上が期待できる。本研究ではFTVのうちでも二次噴流によってノズル内に発生した斜め衝撃波で主流を偏向させる方法(衝撃波FTV)を対象に研究を行った。
 衝撃波FTVの基本的な振る舞いを調べる予備実験では,ノズル圧力比(NPR),二次噴流圧力比(SPR),噴流出口位置などをFTVパラメータとして実験し,ノズル内で二次噴流によって生じる波動干渉の様子を可視化して主流の偏向との関係を観察した。更にノズル内およびノズル出口付近での流れ場を数値模擬して詳細に検討し,上下ノズル壁面での圧力分布の違いから,通常予想されるFTV効果とは逆向きの推力偏向が起こりうる事を見出した。また予備実験では,二次噴流の出口面積が相対的に大きすぎて,わずかな二次噴流圧力(SPR)でも,その影響がノズルスロートにまで伝わってしまい,スロート下流部全体が亜音速になってしまう事も分かった。
 これら予備実験で得られた知見を基に,新たなノズルを設計製作して実験および数値解析を行い,FTVパラメータとFTV効果としての主流偏向角との関係を研究した。この新しいFTVノズルは,二次噴流圧の運用範囲を大きくとれる様に噴流出口面積を小さくするとともに,上下ノズルブロックがスロート幅を一定に保ちながら回転できるように作られており,ノズル出口マッハ数を1.44から2.55まで変化させる事ができる。主流の偏向角を評価する方法として,従来はノズル出口における排気流れの軸方向とそれに垂直な方向の運動量の比を用いるが,本研究ではこの方法に加えて上下ノズル壁における圧力分布から任意の位置に設定した支点からの壁面圧モーメントを計算する事で,より直接的な推力偏向効果の評価方法を提案してFTV性能の評価を行っている。

論文審査結果の要旨

 航空機ならびに宇宙機の姿勢制御技術の一つとして推力偏向技術がある。機械的な推力偏向制御は,既に人工衛星や一部の航空機で実用化されているが,重量増加による性能低下や保守面での問題が指摘されている。そこで,これに替わる方法の一つとして,流体推力偏向制御(Fluidic Thrust Vectoring;FTV)の研究開発が盛んに行われるようになった。FTVは推進機の排気ノズル形状は変化させずに,流体力学的作用を利用して排気流れの方向を変化させるものであり,機械的推力方向制御に比べて軽量化と機体構造の簡素化が可能なため,空力抵抗の低減や燃費の向上が期待できる。本論文はFTVのうちでも,二次噴流によってノズル内に発生した斜め衝撃波で主流を偏向させる“衝撃波 FTV”についての研究をまとめたものである。
 第1章は本研究の背景と目的であり,各種FTVの特徴を比較した上で,衝撃波 FTVに関する研究目的を述べている。
 第2章は本研究の理論的背景をなす超音速気体力学の基礎,および並列計算機による数値模擬の手法について述べている。
 第3章は予備実験について述べている。簡単形状のノズルに対し,ノズル圧力比(NPR),二次噴流圧力比(SPR),噴流出口位置などのFTV変数を変化させて流れを可視化し,数値模擬結果と比較しながら詳細に検討した結果,上下ノズル壁面での圧力分布の違いから,通常予想されるFTV効果とは逆向きの推力偏向が起こりうる事を見出した。この事は,新たなFTV方法の提案につながる発見であり,本研究の成果の一つである。また,予備実験ノズルでは,二次噴流の出口面積が相対的に大きすぎて,わずかな二次噴流圧力でも,その影響がノズル内部全体に伝わってしまい,推力方向を制御する事が極めて困難なことを見出した。
 第4章は改良したノズルによる研究結果について述べている。この新しいFTVノズルは,二次噴流圧の運用範囲を大きくとれる様に噴流出口面積を小さくするとともに,上下ノズルブロックがスロート幅を一定に保ちながら回転できるように作られており,ノズル出口マッハ数を1.44から2.55まで変化させる事ができる。
 第5章では,予備実験および改良ノズルによる実験の結果をまとめ,NPR等のFTV変数と偏向角との関係を議論している。偏向角の評価について,従来はノズル出口における排気流れの軸方向とそれに垂直な方向の運動量の比を用いるが,本研究ではこの方法に加えて,上下ノズル壁における圧力分布を用い,任意の位置に設定した支点周りの壁面圧モーメントを計算してFTV性能の評価を行っている。この手法は,より直接的な推力偏向効果の評価法の提案として本研究の成果といえる。
 第6章は結論であり,本論文を総括している。

 以上のように,本研究で得られた成果は,今後の衝撃波工学,推進工学とその応用に大きく貢献すると考えられ,本論文は博士(工学)論文にふさわしいと認められる。