氏    名  夛 田 芳 広 (ただ よしひろ)

学位論文題目  微細有機薄膜トランジスタの作製とメモリデバイスへの応用に関する
        研究

論文内容の要旨

 本研究は,次世代のディスプレイデバイスに向けた微細有機トランジスタ(Organic Thin-Film Transistor : OTFT)の作製とメモリデバイスへの応用について検討を行うことを目的とした。有機半導体材料としてペンタセンを用い,その薄膜堆積過程におけるパラメーターが分子配向および結晶性に与える影響について,さらにはデバイス性能にどのように現われるかについて調べた。真空蒸着法によるペンタセン薄膜堆積において,堆積の初期段階では基板に対して分子がほぼ垂直に配向し,膜厚の増加とともに分子配列が乱れ始めランダム配向に移行する傾向を示した。室温において蒸着速度を増加させると,結晶の核成長が進行することが判明した。一方,蒸着温度を上昇させると結晶核の急速な成長がみられた。しかし,高温の状態で蒸着速度を上げると,分子配向の乱れが生じた。結晶構造とOTFTの移動度には明らかな相関関係が存在する。室温で蒸着速度が増加すると結晶成長が加速させ,その結果,キャリアの結晶粒界での散乱が減り,移動度が増加する。一方,高温成長では結晶化が進行するが,蒸着速度が大きくなると分子配向が乱れはじめ,その結果,移動度が低下することが明らかとなった。このように,蒸着パラメーターがペンタセン分子の配列と結晶構造に直接関係していることが明らかとなった。
 液晶ディスプレイにおいて,画素数の増加に伴ってセルを構成するOTFTの微細化が不可欠となる。本研究において,集束イオンビーム(FIB)を用い,サブミクロンチャネル長を有する微細OTFTを作製することに成功した。デバイスのチャネル長を縮小すると,ドレイン電流の非飽和,移動度の低下およびしきい値電圧の変化が現れた。この理由として,チャネル方向電界の増加により短チャネル効果が強く現われはじめることが原因として考えらえる。しかし移動度の急激な低下については,むしろ電極と有機膜界面のコンタクト抵抗が要因であることが明らかとなった。これらのことから,微細OTFTにおいて,電流利得を十分に確保するためには短チャネル効果の抑制のみならず電極・有機半導体界面のエネルギー障壁を低下するための対策が必要となることが明らかとなった。
 将来のディスプレイにおいて,OTFTはスイッチング素子のみならずメモリ素子としての機能が不可欠となる。本研究では,FIBデポジション機能を用い,ペンタセンチャネル層とゲート絶縁膜界面に炭素ナノドットを規則的に配置し,そこでの電荷捕獲を利用する新しい概念のOTFTメモリを考案した。チャネル領域内に2次元配置したドットは,走行するキャリアの一部を捕獲する役割を持つ。その結果,ドットの周りでのポテンシャルが変化し,そこでのクーロン散乱によりキャリア数が変化する。このことにより,OTFTのしきい値電圧を変化させる。キャリアが捕獲されている間,ポテンシャルが一定時間ある状態を保持されなければならない。さらに,キャリアの再放出を行うことにより元の状態に復帰する必要がある。本研究では炭素ドット密度に相当する界面捕獲準位密度が得られることを確認し,その結果,捕獲電荷量が最大となる状態で最大の電圧シフトが得られた。また,一定時間電荷の保持状態が維持できることも確認された。電荷捕獲量は離散的に制御できるため,しきい値電圧を不連続的に変化させることも可能であることがわかった。本研究における試みは,微細OTFTを作製する新規な技術を提示したことのみならず,この技術をさらに発展させることにより,ナノレベルでの半導体結晶成長および分子配列が行えるようになり,その結果,将来の分子デバイスおよび単一電荷トランジスタへ応用できる見通しが得られたことに価値あるものである。

論文審査結果の要旨

 次世代のディスプレイデバイスにおいて,ゲート長がサブミクロンオーダーの微細有機トランジスタ(Organic Thin-Film Transistor : OTFT)が用いられる。その場合,ディスプレイ駆動素子および周辺回路はすべてOTFTで構成され,その状況に対応したデバイス動作が不可欠となる。さらに,画像データを蓄積できるメモリデバイスも要求されている。本論文は,数々の有機半導体材料の中で最も性能が高くかつ安定性に優れたペンタセンに着目し,その薄膜堆積過程におけるパラメーターが分子配向および結晶性に与える影響について,さらにはデバイス性能にどのように現われるかについて詳細に調べた。次に,集束イオンビーム(FIB)を用い,サブミクロンチャネル長を有する微細OTFTを作製した。チャネル長縮小に伴い,短チャネル効果が強く現われることを明らかにした。さらに,FIBデポジション機能を用い,ペンタセンチャネル層とゲート絶縁膜界面に炭素ナノドットを規則的に配置し,そこでの電荷捕獲を利用する新しい概念のOTFTメモリを考案した。本論文はそれらの成果をまとめたものであり,全7章から構成されている。第1章では,電子産業の発展における本研究の位置づけを明確にしている。第2章では,有機半導体材料の研究経緯とOTFT構造の変遷についての背景と今後の指針について明確に述べている。第3章では,OTFT作製に関わるすべての作製プロセスの意味づけと流れ(フロー)について述べている。第4章では,ペンタセン堆積過程において,堆積の初期段階では基板に対して分子がほぼ垂直に配向し,蒸着速度と蒸着温度が結晶の核成長に与える影響について明らかにしている。第5章では,FIBを用い,サブミクロンチャネル長を有する微細OTFT作製について論じ,チャネル長縮小化に伴うドレイン電流の非飽和,移動度の低下およびしきい値電圧の変化が現れることを明らかにした。第6章では,FIBデポジション機能を用い,ペンタセンチャネル層とゲート絶縁膜界面に炭素ナノドットを規則的に配置し,そこでの電荷捕獲を利用する新しい概念のOTFTメモリを提案している。その結果,炭素ドット密度に相当する界面捕獲準位密度が得られることを確認した。これらの試みは,微細OTFTを製造する新規な技術を提示したことのみならず,さらに発展させることにより,ナノレベルでの半導体結晶成長および分子配列が行えるようになり,その結果,将来の分子デバイスおよび単一電荷トランジスタへ応用できる見通しが得られたことに価値あるものである。第7章では,本論文の総括および今後の展望を述べている。
 以上を要約すると,本論文の著者は,次世代のディスプレイに向けた微細有機トランジスタへの応用に向けて,ペンタセン薄膜堆積におけるパラメーターが分子配向および結晶性に与える効果を明らかにした上で,微細OTFTメモリ性能向上化への指針を確立した。この業績は,次世代有機半導体デバイスの進歩に大きく貢献するものである。よって,本論文は,博士(工学)における学位論文として価値あるものと認める。