氏    名  寺 門 吾 郎 (てらかど ごろう)

学位論文題目  エバネッセント集光スポットを用いた屈折率・蛍光イメージングに
        関する研究

論文内容の要旨

 現在,生体内におけるタンパク質分子などの生体分子の機能を解明し,生体分子を観察する手法として,試料へのダメージが少なく非接触な計測が可能な光計測に注目が集まっている。中でもエバネッセント光を用いる全反射蛍光顕微鏡法は,バックグラウンド光が抑圧されており,1分子が発する微弱な蛍光の検出が可能で,生体分子の動きや相互作用観察に広く利用されている。
 本研究では,局所領域においてエバネッセント集光スポットを生成し,光の回折限界程度の領域の屈折率・蛍光を測定し,さらに2次元に走査することで画像を取得する顕微鏡法を提案した。まず,走査型全反射2光子励起蛍光顕微鏡では,点像分布関数の形状が光軸上にシングルのピークを持つようにするため,軸対称に振動する電場を持つ放射状偏光を用いることとした。これにより点像分布関数の形状をシングルピークに整形することができ,これまで報告されていた物体が二重像となって観察される問題を解決することができた。また,コンフォーカル検出光学系を組み合わせた装置により直径200nmの蛍光微小球の観察を行い,走査型全反射2光子励起蛍光顕微鏡の像特性とS/Nの改善を確認した。
 次に,ガラス基板に金属薄膜を蒸着し,屈折率と蛍光が同時に測定可能な,局所励起表面プラズモン顕微鏡法の開発を行った。この計測法では,照明光として円形瞳照明法と,表面プラズモンの励起条件を満たす成分が多く含まれる輪帯瞳照明法を用いた。実験では,蛍光微小球を用いて屈折率・蛍光分布の同時イメージングを行い,この手法によって,屈折率と蛍光分布の分離同時イメージングが可能なことを確認し,輪帯瞳照明法によって光のエネルギーの利用効率を高め,明るい蛍光測定が可能なことを確認した。また,脂質2分子膜を想定した時の,適切な輪帯幅を設定することで,高感度な屈折率計測と明るい蛍光計測ができることを数値計算によって確認し,生体分子観察への適用性を示した。

論文審査結果の要旨

 生体内において,タンパク質分子などの生体分子は生命活動に必要なさまざまな機能を担っており,これら生体分子の機能解明のために多くの研究が行われている。本論文では,それらの研究に寄与する計測技術として,基板表面の局所領域に発生させたエバネッセント光をプローブに用い,基板表面の屈折率分布や蛍光分布を高空間分解能で観察する原理を提案し,その装置化を議論している。
 まず,全反射蛍光顕微鏡法に,エバネッセント集光スポットを走査する方式を導入し,信号対雑音比の改善を試みている。さらに,この方式の導入によって二光子蛍光励起法,コンフォーカル検出光学系の利用も可能になるため,これによっても背景雑音の抑圧を図れることを明らかにしている。また,励起光に放射状偏光を導入することによって,最適な像特性が実現されることを,理論と実験によって確認している。
 続いて,金属薄膜コートされた基板に,エバネッセント集光スポットを照射することで励起される表面プラズモンを利用した,屈折率・蛍光分布の同時イメージングについて実施している。この測定法では,生体膜中に存在する膜中タンパク質分子と脂質膜構造の同時計測を目指している。蛍光微小球を用いた装置の機能検証実験では,屈折率・蛍光分布ともに,理論計算と一致する特性が得られ,屈折率・蛍光分布の分離同時イメージングが可能であることが証明されている。また,照明系に輪帯瞳照明法を用いることで,蛍光強度を高めることにも成功している。これは,アキシコン素子を用いて輪帯光を生成することにより,表面プラズモンの励起条件を満たす波面成分の光を多くすることで,光のエネルギーの利用効率を高め,表面プラズモンの電場増強を高めることによって得られる。また,生体膜を想定したシミュレーションを行い,輪帯瞳照明の適切な入射角度域を与えることで,屈折率測定と明るい蛍光測定が可能なことを示している。
 以上の成果は,生体分子計測において新規性,発展性があり,かつ工学的技術として価値ある内容である。よって,著者は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められる。