氏    名  平 林   靖 (ひらばやし やすし)

学位論文題目  導電性複合樹脂膜を利用した発熱合板の開発

論文内容の要旨

 本研究は,機能性にすぐれた発熱合板の開発を目的とする。開発した合板の製造は,既存の合板製造ラインを活用して行うものとし,基本的な製造条件を検討した。
 まず,合板に用いる接着剤の特性評価と発熱特性を付加する導電性物質の選定を行った。そして導電性にすぐれた黒鉛粒子を作るため,薄片化技術と簡便な導電性評価法を開発した。つぎにこの技術を応用して導電性接着層の基礎実験を行った。そしてその結果をもとに,導電性の局所的変動が小さくなる条件を推定し,実際に発熱合板を製造して,発熱性能と導電性能を評価した。
 本論文は5つの章で構成される。それぞれの章の概要は次のとおりである。
 第1章は序論であり,本研究の着想に至るまでの合板産業の背景,本研究に関連する合板製造,および導電性複合材料に関する既往の研究をまとめ,本論文の目的と構成について述べた。
 第2章では,発熱合板を製造するための基本的な条件について検討した。先ず合板の原材料となる接着剤と南洋材の接着性能の検証を行った。ついで接着剤に各種の導電性物質を混入して合板を作り,通電して発現する発熱性能と合板の接着性能との関係を調べて,最良の導電性物質として黒鉛粒子を選定した。
 第3章では,スライドガラス上に薄片状黒鉛粒子とフェノール樹脂を用いた樹脂複合膜を作製し,導電性を評価する基礎実験法を開発した。また,可能な限り少量の黒鉛粒子の添加で,高い導電性を得ることを目的として,黒鉛層間化合物(GIC)を利用して湿式粉砕処理を行い,結晶性に優れた薄片状黒鉛粒子を生成した。GIC由来の薄片状黒鉛粒子を用いた複合樹脂膜は高導電性を有した。
 第4章では,前章で得られた基礎実験の結果をもとに,黒鉛の種類・サイズ,フェノール樹脂への添加量を選定し,発熱合板を製造した。基礎実験で導電性が高いと判断された黒鉛粒子を用いた発熱合板では,大幅に発熱むらを軽減することができた。
 第5章は本研究の総括である。黒鉛-フェノール樹脂複合膜の導電性に関する基礎実験から導電性と発熱性の予測が可能となり,発熱特性を安定させる黒鉛粒子の形状と添加量が提案できた。これらの知見をもとに製造した発熱合板は,床暖房にとどまらず,電磁波遮蔽合板など種々の機能をもつ合板としても応用できるものと考える。

論文審査結果の要旨

 本論文では,国内における木材産業,合板工業の状況を踏まえ,新規機能性合板の開発を目的として基礎から応用にいたる研究を展開している。具体的には,接着剤中に導電性粒子(黒鉛,カーボンブラック)を添加することにより発熱性能を有する合板を製造した。まずはじめに,木材用接着剤の接着性能に関する基盤研究,発熱合板を製造するための製造条件についてまとめるとともに,接着剤ポリマー内で生じる導電性粒子の分散ムラに起因する大きな発熱ムラを観察した。この課題を解決するための基盤研究として,実際に発熱合板を製造しなくても,実験室レベルで簡便かつ系統的に検証可能な,再現性のよい複合樹脂膜の導電性の評価方法を検討し,市販のスライドガラス上に形成した複合樹脂膜の抵抗値の測定から,導電性を評価する手法を確立した。つづいて,層間剥離法と湿式粉砕法を併用した高導電性かつ薄片状の黒鉛微粒子を生成した。先に提案した導電性評価方法を用いて,層間剥離法により生成した黒鉛,あるいは各種粒子径の黒鉛を用いた複合樹脂膜の導電性を評価して,導電性能に優れた接着剤を作製するに適した黒鉛を見い出した。これら一連の基礎実験から得られた知見をもとに,高い導電性能を示した複合樹脂膜に用いた黒鉛を中心に,黒鉛の種類・サイズ,フェノール樹脂への添加量などを用いて製造した発熱合板の発熱性能について検討した。その結果,基礎実験による導電性能と,実際に製造した発熱合板の発熱性能に相関があることを見い出した。そして,基礎実験で導電性が高いと判断された黒鉛粒子を用いることにより,大幅に発熱むらの軽減した発熱合板を作ることができた。
 本論文でまとめた発熱合板の製造に関する知見は,当初の目的であった発熱合板を利用した床暖房システムにとどまらず,腰壁や家具,融雪屋根下地など種々の暖房製品への応用が考えられるとともに,電磁波遮蔽性能を持つ機能性合板に応用できるものと考えられる。また,使用している原材料が木質材料,接着剤および導電性粒子は炭素系の物質であることから,将来廃棄処理が必要となった時に,焼却に伴う有害物質の排出は考えられず,バイオマス燃料としての循環利用も可能である。
 以上のように本論文の内容は,国内の木材産業,合板工業に大きく寄与するものであり,本論文は博士論文としての価値を充分有するものと認める。