氏    名  三 宅 正 敏 (みやけ まさとし)

学位論文題目  オプション・アプローチによる加重平均オプションの価格付けと
        リスク問題についての研究

論文内容の要旨

 最近の金融市場におけるグローバル化の進展や情報・通信技術の発展に伴い, 証券化の進展, 増加するデリバティブ取引によってリスクの複雑化が進んでいる。その中で2004年に金融における信用リスク,市場リスク,オペレーショナル・リスクに対しての規制(Basel II)が設けられて以降,金融に関わる3つのリスクを適正な方法で評価し管理することが,金融機関や投資家,株式や債券などを保有する一般の企業にとっても重要な課題になっている。そのような背景の中,本論文では,市場リスクと信用リスクについての評価・管理方法について述べている。また,リスクの評価分析にあたっては一貫してオプションの価格付け理論を本研究の基礎にしている。この価格付け理論は無裁定理論,リスク中立確率さらにはマルチンゲールの概念から成り立っており,共通する点は市場の公平性による理念や思想的な概念を伴っているからである。それゆえ公平に市場のリスクを評価するという点で,本研究の目的と合致している。ここで本論文では,初めにデリバティブの一種である加重平均オプションを使い,市場リスクに対するヘッジの提案を行うことで,従来の平均オプションのリスク・ヘッジに対する問題の改善を目的としている。また2008年9月に大手投資銀行のLehman Brothers(LEH)が破綻し,大手保険会社のAIGが米国政府によって救済されるなど,世界の経済に多大な影響を与えたリーマンショック以降,その反省点として政府及び民間企業では過剰すぎる投資の自粛,適切な資金の運用そして様々な局面での投資家のモラルの在り方等,従来の研究課題の主であった市場リスクだけでなく,信用リスクの対処に関心が集まっている。本論文では,対象企業の信用リスクの測定や投資家同士のモラルの低下が信用リスクにどのような影響を与えるのかについての分析を行っている。ここで信用リスク測定ではデフォルト確率評価のモデル化を行っている。また最終的に信用リスクを高める原因の一つとなっている金融機関や投資参加者のモラルハザードから生じる損失などを回避もしくは,それらを低減させるプロセスを考え,不測の損害を最小の費用で効果的に処理することを目的としている。

論文審査結果の要旨

 金融市場のグローバル化とIT技術の発展に伴い,デリバティブ取引によってリスクの複雑化が進んでいる。そのような背景の中で,本論文は金融市場におけるリスク管理に着目し,オプションの価格付け理論を基礎とした経路依存型オプション,デフォルト確率およびリスク・インセンティブ諸問題に対する改善と提案を行っている。
 本論文の第1章で研究の背景を述べたあと,第2章では,リスク評価の基礎となるオプションの価格付け理論に関して,その根底にある無裁定理論とリスク中立的な考え方について,市場の公平性に言及してその理念と概念を明らかにしている。
 第3章では,金融派生商品の一種である平均オプションを拡張とした市場リスクのヘッジの提案を行っている。その際,平均オプションは,株価などの原資産価格の動きを平均化しており,偶発的なリスク回避にのみ重点が置かれ,対象資産は限定される。そこで,原資産の平均に重みを加えることで,原資産価格の変動性を操作可能な加重平均オプションを提案している。これは,投資家の判断に基づいて,契約日あるいは満期日に重点をおくことにより投資する際のリスクを操作可能としている。
 第4章では,オプション価格付け理論を基礎とした新たなデフォルト確率(EDP)の評価モデルを提案している。既存の方法論ではバリア型のEDPが過小に評価され,現実的ではない推定が行われている。この解決として,1次,2次といった資産価値のモーメントの動きを推定し,新たな資産変数を導入している。その結果,今回提案するモデルではEDPの推定値が従来の数値に比べ大幅な改善が見られている。
 第5章では,信用リスクを増幅させる原因である投資家間のモラルハザード問題についての評価分析を行っている。これは情報優位の投資家によるインセンティブがもともとの発端であるが,ここでは金融機関の問題も含めて,モラルハザードの軽減化と資源の有効配分の観点から,オプションの価格付け理論を導入して,この問題の発生をできるだけ回避できるようなモデルの構築とその検証を行っている。
 以上から,本論文は,金融リスク管理などの分野に寄与するところが大であり,博士(工学)の学位に値すると判断された。